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3月, 2021の投稿を表示しています

美術嫌いを克服する教材 〜遊びを通して自分自身が作品になる抽象画〜

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    前回に引き続き「美術嫌いを克服する教材」について記事を書きました。今回の内容は「自分自身自身が作品になる抽象画」です。  「自分自身が作品になる」というのはどういうことかというと,「自分らしさ」をそのまま生かし、「自分にしかないもの」「自分の分身のようなもの」を表現するということです。  このようなことを言うと、抽象的で何か難しいことのように思われて、「そういう難しいことを言うと逆に美術が嫌いになるんじゃないのか!?」と思われるるかもしれませんが、意味していることは極めてシンプルで、 「何でも良いからとりあえず自分のイメージを用いて表現する」ということです 。例えば、「丸を描いてください」と言われたら、皆さんはどういう丸を描きますか?  丸を描くだけでも色々な丸があります。小さな丸を描いたり、真円に近いものを描いたり、雑な形のものであったりと、 どの丸を描いても間違いではありません 。  この丸を描くという行為が1回だけであれば、それほど大きな違いにはなりません。しかし、 形を組み合わせるとなると、一気に違いが生まれていき、その積み重ねが全く違う個性的なものになっていきます 。  考えてみれば当然のことかもしれませんが、独自のものを積み重ねた分だけそれらが掛け算となって大きな違いになっていきます。 表現が苦手な人というのは、本来ならどのように表現しても良いはずのものに対して、「型のある正解」を求め、失敗を気にするあまり失敗しないように「何もしない」という状況に陥ったり、誰かの形をただ写すという「他者の正解の劣化版」を表現しようとするがゆえに、自分の方が「下手」であると比較して、表現への苦手意識を増長させてしまう 傾向があります。  ただ丸を1つ描くだけでも、そこに何かしらの描き手の内面性が反映されます。また、内面性だけでなく、描き手の周りの環境との相互作用(アフォーダンス)によって、生物的な反応も相まった丸を描くことにもなります。この点において紙質や描画材というのはかなりの影響力を持っていると考えられます。 これらの総合的な要素が1つの丸を描くだけでも働いていて、人それぞれ全く異なった丸を生み出す ことになります。  以上のことから、子どもたちには、 どんな形を書いたとしても自分を表すことになり、そこに要素を追加したり、省略したりすることで、より自分らしさが

美術嫌いを克服する教材 〜粘土で不思議な形〜

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  今回は美術嫌いを克服するための教材ということで、粘土を用いた教材について紹介します。  残念な事実ではありますが、美術が嫌いであったり苦手であったりする中学生は少なくありません。そんな生徒であっても、教師が根気強く関わっていけば3年間で美術のことを好きになってくれる可能性はかなり高いです。私自身、評定を付けるという現状のシステムには反対の立場ですが、基本的に子どもたちの評定は学年を追うごとに上がっていきますし、3年生では評定平均が4ぐらいか、それ以上になっても良いと考えています。全員が評定5を取れるように美術の学習を実現していくこと、それを目指して日々自分自身の教育を改善していくことが教師のミッションだと考えています。  そして、全員が4や5になっていくからこそ評定というもので数値的に優劣をつけることが意義として重要ではないということや、評定のために学習をアンダーマイニングしてしまうことに問題を感じています。成績のために学習するのではなく、そもそもはより良く生きる力にするために私たちは学習することを期待されているはずです。別に成績を意識しなくとも、 夢中になって楽しんで取り組んでいるうちに自ずと学習の成果は出るもの だと思います。  なので、まずは学習の楽しさを感じられるようにする機会が大切であり、その楽しさに価値を見出すことができるように、授業などで子どもたちに充実した体験を提供し、美術嫌いを克服するだけでなく、美術が好きな生徒もより美術について深く学ぼうとする態度を育てることが大切になると考えています。  そのような状態を目指すために、子どもたちが夢中になって取り組み、しっかり学べる教材をこれまでたくさん考えてきましたが、上手くいくものもあれば、期待したほどではなかったものもたくさんありました。その中で見えてきたことが、 シンプルな教材ほど手応えが良かった ということです。誰でも手軽に取り組めるタイプのものは、美術が苦手な生徒にとって取り組みやすいというのは想像がつくことですが、美術が得意な生徒にとっても自由に工夫を加え創造性あふれる作品をつくることができるというのをこれまでたくさん目にしてきました。  そして、今回紹介する粘土を用いた教材は私の中で非常に手応えを感じてきたものです。教材名は「粘土で不思議な形をつくってみよう」で、粘土で遊びながら形を試行錯誤

スクラップブッキングの魅力 〜思い出をクリエイト〜

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   今回は私が中学校3年生向けにこれまで卒業制作の一環として取り組み続けてきたスクラップブッキングについて紹介します。  スクラップブッキングとは写真をアルバムやスケッチブックなどに貼り付け、デコレーションして思い出をより良いものにするクラフトです。最近は専用のスクラップブックも沢山商品になっていますね。今回は美術の教材として紹介しますが、 私自身も試作品を作りつつとても良い経験をしてこられたので、美術教育に関係のない人にもお勧めしたい スクラップブッキングです。  スクラップブッキングで中学校生活3年間の思い出を詰んだ作品を作ることには大きな意味があると考えています。中には辛くて寂しい3年間を送る生徒もいるかもしれませんが、そういう生徒にとっても、中学生としての3年間と向き合って作品を制作することは大切です。ただ、そういう生徒への配慮も当然大切なので、私の場合は 作品のテーマは3年間のことであれば自由に設定可能であり、写真を使うかどうかも作者の自由 にしています。なので、たまにクラフトと言うよりは、現代アートの作品が生まれることもありますが、それもまた作品の一つの形。無理矢理スクラップブッキングをさせようとしても、そういう場合は中途半端な作品になるだけなので、作者がやりたいようにサポートするまでです。このような例もありますが、多くの生徒が思い出の詰まった写真を用意して、こだわりの卒業制作に取り組む姿を見てきました。  中学校生活3年間で子どもたちは思い出になる要素をたくさん経験します。しかし、いざ「3年間の思い出は?」と聞くとパッと話ができる生徒は多くありません。このような質問は高校入試に向けた面接練習でよく使うものですが、大抵は部活動、体育会、友達との時間などが上がります。そしてそれらを通して学べたことや感じたことを聞いても「協力することの大切さ」「困難を乗り越えて」「みんなで味わう達成感」みたいなテンプレート化されたような答えを聞くことがほとんどです。これは高校入試の面接なのでそれでも特に問題はないかもしれませんが、美術的にはテンプレート化された答えは決して好ましいものとは言えないでしょう。大切な思い出であれば、決してテンプレート化して簡単に語れるようなものではないはずです。 スクラップブッキングは思い出と深く向き合うことを通して、「制作者ならでは」の個性的

感情絵日記に取り組んでみて

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    今回は私が最近始めた感情絵日記について紹介します。これはたまたま海外の方のTwitterの投稿でVisual Journalingというものについての記事を見て、私自身いつかやってみたいと思っていた内容と似ていると感じたので、試しにやり始めたものです。Visual Journalingは直訳すると「視覚的な日記」と言うもので、要は絵日記ということです。 https://theartofeducation.edu/2020/11/18/4-ways-to-use-visual-journaling-to-support-advanced-artists/  このVisual Journalingでは絵や文字、雑誌の切り抜きなどを活用して、スケッチブックに美術的なアイディアを貯めていきます。これをすると それまで関係を意識したこともないようなものが繋がりあって、新しい発想や関心が生まれるなど、様々な効果が期待できます 。  私自身、美術の教師をしていながら、実は普段は絵をほとんど描きません。どちらかというと絵を描くよりも本を読んで美術を含めた様々な分野の勉強をしたり、スポーツをしたりする方が好きなぐらいです。そんな絵を描かない私にとってがっつり絵を毎日描くのはハードルが高いです。私が絵を描くのは必要に迫られた時が殆どです。その時は割と集中的に取り組むことができますが、普段は美術教師失格レベルの描画量です(苦笑)。筆よりもテニスラケットの方が好きな美術教師です…。  そんな私が毎日描き続けることができる絵日記とは何かについて考えていて思いついたのが感情絵日記です。私は具象画の場合、少々気合が必要になりますが、抽象画は非常に好きで、ただただ形と色で自由に遊べるところが抽象画の魅力です。しかし、ただ形と色で遊ぶだけの抽象画では造形遊びと基本的には変わらないので、私は 「その日を振り返る感情」をテーマに1週間で一枚の紙を抽象画で埋める というやり方で始めてみました。これなら 数分あれば描くことができるので取り組みやすい です。  私はこの感情絵日記を今年の2月から始めたばかりですが、この短い期間にこの有効性を様々な点で発見することができ、美術が専門ではなかったり、普段美術とあまり関わりのない人でも取り組む価値があると考えるに至ったので、今回記事を書くことにしました。