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12月, 2022の投稿を表示しています

2022年の振り返り 〜PBLが現実的になった1年〜

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 今年も最後の1週間となりました。個人的にあっと言う間に過ぎた1年間でしたが、 振り返ると色んなことに挑戦することができた充実した1年だったと思います。2022年最後の投稿は今年1年間の成果と、来年に向けた課題をまとめてみました。普段から生徒には振り返りの大切さを指導していますが、振り返ることで頭の中が整理されて、今後の研究と実践につなげることができます。今回の振り返りを基に、また来年の抱負や目標についても考えてみたいと思います。 今年の目標についての振り返り 1.PBL(課題解決型学習・課題探究型学習)  今年の私の研究と実践の柱だったと言えるのがPBLです。もう完全に私の教育のマインドセットとして定着したとも言えるぐらいにPBL中心に考えた1年間だったと感じています。  PBLとは課題解決型学習や課題探究型学習(Project Based Learning)のことですが、元々美術という教科は作品のテーマ設定や制作のアプローチが生徒の裁量に大きく委ねられているため、PBLの色が濃い教科です。ただ、そんな教科でも改めてPBLを徹底して行う視点で考えたときに、自分自身の教育方法には改善するべき部分がたくさんありました。   今年、PBLを進めていく上で大きく変化した私の考えは「多様な表現方法へのアプローチを可能にする環境づくり」です 。これまでも、そういう視点を持ってはいたのですが、生徒が幅広く表現を自分の必要性に応じて選べる環境を十分に用意することができていませんでした。  以前から制作に関する技術が分かりやすいように動画を作成していましたが、それだけだとその動画に強く影響を受けた制作になりがちです。しかし、例えば、絵画であれば本来は画材は無限にあり、その中から自分の必要性に応じて選んだり、表現方法を新たに作ったり、そういう自由度の高い活動が望ましいと考えられます。そして、これこそPBLの本質であり、生徒が自ら課題を解決したり、自分の理想を実現するために試行錯誤する経験を通して、より実践可能な力として知識や技術が身につきます。 このような学習活動ができるように、今年私は徹底して生徒の工夫した表現を発見する側に回り、その写真を生徒全員と情報共有するGoogleスライド上にアップロードしました。 これを続けていくと、教科書や資料集で見られるような完成した作品の表現(もち

2023年に向けて年賀状制作 ステンシルと年賀状の魅力

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   今年もあと2週間程度となりましたね。毎年この時期になると私は年賀状をステンシルで作成しています。ステンシル版画は簡単にできて色のアレンジも多様にできるので、オリジナルの年賀状を作成する場合にとても良い方法だと考えています。そして、着彩が大変面白く、一枚着彩することにそれほど時間もかからないので手軽です。今回はそんな ステンシル版画の魅力と、SNSやデジタル加工が主に使われる時代において、あえて年賀状をアナログで作成する意味について も私の考えをお話しさせていただきます。 ステンシル版画は単純な図柄でも着彩で魅力が出る  ステンシル版画は紙を切り抜き、穴から絵具を通して着彩する孔版の一種です。主にスポンジや専用のブラシに絵具をつけてポンポンしたり、網とブラシで絵の具飛ばす技法のスパッタリングで着彩したりします。  切絵にするために下がきの絵は単純で繋がった線で描く必要がありますが、水玉模様のように、シルエットを切り抜くという方法もあり、この場合、重ねる版を増やすことで複雑な図を表現することも可能です。  切絵としての楽しみもあるのがステンシル版画の魅力でもあります。切り抜いた形の美しさを発見した有名なアーティストでヘンリー・マチスがいますが、彼は晩年は癌の影響で下半身が不自由になり、それ以前のような大きな油絵を一人で制作できなくなったことがきっかけで、カット・アウトという色画用紙を切り抜いて構成画を作成するようになりました。 明快な形と色、絶妙なバランスで表現される構成美。こういった形と色、構成の表現要素は美術教育の根幹を成すものであり、これらの要素はステンシル版画にも同様に当てはまります 。私自身、このステンシル版画で年賀状を制作する授業を過去3年間、中学2年生で実施してきました。  カッターで切り抜いた整った形は、たとえそれが不定形なものであっても「それらしさ」を持ちます。そして、色が切り抜いた形に沿って表現されることで、形と色が響き合った美しい造形が生まれます。  スポンジで色を塗ると色が強く出ますが、スパッタリングでスプレーのような効果を出すと優しい表現ができ、複数の色を重ねることで点描のような視覚で色が混ざって見える視覚混合の効果が得られた明るい混色が可能になります。  ステンシル版画は構成する版を増やしたり、版を意図的にずらしたり、逆向きにしたり、構

スクリブル(なぐり描き)から始まる描画のスモールステップ

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  今回は描画のスモールステップを考える上で大切な「スクリブル」について紹介します。スクリブルとはなぐり描きのことで、世界中の幼児描画について研究したアメリカの心理学者であるローダ・ケロッグによると、20種類の型があり、そのなぐり描きから図式へと進んでいくとしています。  つまり、 スクリブルとは図や絵を描く上での大切なステップ であり、この段階が充実していないと、紙を前にして手をどのように動かして良いか分からず、お手本をトレースすることしかできず、ぎこちない線でしか表現できない状態になってしまうかもしれません。実際に、私は中学校で美術教育に携わってきて、描く行為自体にかなりの困難を抱えてしまっている生徒をたくさん見てきました。本来描く行為は自由であるにも関わらず、そのような生徒の姿は不自由そのものです。このような状況になった生徒を指導することは大変ですが、スクリブルという描画行為のスモールステップを忘れなければ、線を描いたり色を塗ったりすることが楽しいことであると理解してもらえる可能性は上がると感じています。  今回はスクリブルから始まる描画のスモールステップについて少し説明させていただきます。 「描く」と言っても多様な動作がある  ケロッグが発見したように、基本的なスクリブルは20種類あります。ケロッグは100万枚以上の幼児の絵を研究した結果、この基本的スクリブルを発見しました。今回、この記事を書くにあたって私も久しぶりにスクリブルを確認しましたが、本当に多様な描画行為がスクリブルには詰まっていると思います。このスクリブルは1歳半ぐらいから見られるようになり、徐々に種類を増やしていきます。  単純に「絵を描く」となったときにイメージするのは、大抵の場合は何かしらのイメージがある具象画であることがほとんどでしょう。しかし、具象画を創造的に描くためには様々な線の複合的な描写が必要になります。つまり、スクリブルで見られるような多様な線の描写が図式的に構成されるようになっていると考えることができます。全ての描画要素がこのスクリブルの発展形とさえ言えるわけです。線を少し描くだけでも、それは描画行為を発展させる上での立派なスモールステップです。 スクリブルの意味することを考える  スクリブルはグチャグチャの線で秩序が感じられない意味の分からない線の集合であり、モチーフもあり

PBL(問題解決型学習)のヒントは学齢期以前の主体的な活動にある

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  最近専らPBL(問題解決型学習)について研究を進めていて、気がつけば最近の購入書籍がPBL関係だらけになっています。PBLを学校教育にどのように取り入れていくか試行錯誤している自治体も多いと思いますし、私自身、これまでの指導方法をよりPBLに即したもの(美術担当なので、元々PBLが授業のベースになっていましたが)にしていくために、教材や教室の環境、生徒との授業での対応方法について少しずつ変化させていっています。  PBLが今後の教育のあり方として重要になるのは主体的で対話的な深い学びを根本原理にした新学習指導要領や探究型学習に注目が集まっている現状からしても間違いないと考えています。そのために、いかに教師が「教える」時間を少なくし、子どもたちが主体性を発揮して学習できるようにするかが鍵になりますが、そのヒントが学齢期以前(保育園や幼稚園の時期)の主体的な活動にあるのではないかと思います。 主体性のままに発展する砂場、積み木、工作での遊び  ほとんどの人が砂場や積み木で遊んだことがあると思います。私自身、幼稚園の時に友達と砂場で山や川を作って遊んだ楽しい記憶が今でも鮮やかに蘇ります。私の通っていた福知山幼稚園には大きな砂場があり、友達と協力して大きな山と頂上から続く長い峰を作り、かなりの長さがある川を作って最終的に水がたまる池まで作った記憶があります。毎日砂場にたくさんの仲間が集まり、次第に山や川が大きく発展していきました。当時はとにかくすごい砂山と川を作ることにみんなが一生懸命になって作業し、工夫していた記憶があります。  積み木も私は大好きでした。実家には積み木ボックスがあり、家ではそれでよく遊んでいました。  この写真は私が小学校の時に子ども会で遊びに行った時に砂場に積み木がばら撒かれているのを発見し、久しぶりの砂場と積み木での遊びを楽しんでいる様子です。この後一緒に遊びに来ていたもう一人の子と協働制作。  こういう造形遊びの中で自然と発展していく作品制作が学齢期以前には毎日溢れていました。幼稚園では牛乳パックを組み合わせて小屋を作り、そこでお店屋さんごっこをしました。この時私と一緒に延々と牛乳パックをつなげて小屋を制作した友達がいましたが、かなり熱い気持ちで作業していたことを覚えています。 幼稚園の先生から受けたコーディネートとファシリテート  砂場での山