2022年の振り返り 〜PBLが現実的になった1年〜

 今年も最後の1週間となりました。個人的にあっと言う間に過ぎた1年間でしたが、 振り返ると色んなことに挑戦することができた充実した1年だったと思います。2022年最後の投稿は今年1年間の成果と、来年に向けた課題をまとめてみました。普段から生徒には振り返りの大切さを指導していますが、振り返ることで頭の中が整理されて、今後の研究と実践につなげることができます。今回の振り返りを基に、また来年の抱負や目標についても考えてみたいと思います。


今年の目標についての振り返り

1.PBL(課題解決型学習・課題探究型学習)

 今年の私の研究と実践の柱だったと言えるのがPBLです。もう完全に私の教育のマインドセットとして定着したとも言えるぐらいにPBL中心に考えた1年間だったと感じています。

 PBLとは課題解決型学習や課題探究型学習(Project Based Learning)のことですが、元々美術という教科は作品のテーマ設定や制作のアプローチが生徒の裁量に大きく委ねられているため、PBLの色が濃い教科です。ただ、そんな教科でも改めてPBLを徹底して行う視点で考えたときに、自分自身の教育方法には改善するべき部分がたくさんありました。

 今年、PBLを進めていく上で大きく変化した私の考えは「多様な表現方法へのアプローチを可能にする環境づくり」です。これまでも、そういう視点を持ってはいたのですが、生徒が幅広く表現を自分の必要性に応じて選べる環境を十分に用意することができていませんでした。



 以前から制作に関する技術が分かりやすいように動画を作成していましたが、それだけだとその動画に強く影響を受けた制作になりがちです。しかし、例えば、絵画であれば本来は画材は無限にあり、その中から自分の必要性に応じて選んだり、表現方法を新たに作ったり、そういう自由度の高い活動が望ましいと考えられます。そして、これこそPBLの本質であり、生徒が自ら課題を解決したり、自分の理想を実現するために試行錯誤する経験を通して、より実践可能な力として知識や技術が身につきます。このような学習活動ができるように、今年私は徹底して生徒の工夫した表現を発見する側に回り、その写真を生徒全員と情報共有するGoogleスライド上にアップロードしました。これを続けていくと、教科書や資料集で見られるような完成した作品の表現(もちろん教科書や資料集は普段から参考にさせていますが)ではなく、工夫によってどんどん姿を変えている「生」の作品の写真が見られるため、「自分もやってみよう」となり、そこからまた新しい表現が生まれていきます。Googleスライド上にアップされた制作写真は良い意味であまり説明的ではなく、生徒は「こんな感じかな?」と勘を働かせて自分なりに挑戦し、その結果、オリジナリティの高いものが生まれるのではないかと思います。

 PBLを中心にすると、教師の一斉指導はほぼなくなり、学習の調整を基本的には生徒に委ねることになります。教師の役割は最低限の足場(基本的な作業方法が分かる視覚補助のある資料と情報共有の環境)を作る程度で、授業中はひたすら机間巡視をしながら、生徒の工夫を称賛して回ります。技術指導は基本的にすることはありませんが、一部の本当にサポートが必要な生徒には行いますし、表現方法や素材の活用に関する相談には乗るようにしています。基本的な技術に関しては、生徒同士で教え合った方が全体の理解度は向上します。教師の一斉指導では自分事として考えることができていなかった生徒も、制作を進める中で知識や技術が必要になり、自分事として実感できるようになります。そうなったときに、生徒同士で教え合えばすぐに必要なことを理解できるようになります。

 最初は生徒も慣れない学習方法であるため、なかなかうまくいかないこともありましたが、波に乗ればそれまでの苦労が嘘のように、自然と学び合うようになります。もちろん、それがしっかり機能しているかどうかを教師は見守る必要がありますが、一斉指導で同じ方法をひたすら教えるよりもはるかに意味のあることが生徒の力で行われていると思います。

 今後の課題としては、より知識・技能の獲得を確実なものにすることです。PBLで学習を進めていても知識・技能は自然と身につきますが、生徒がより目標を持って取り組めるようにするために、生徒が達成度を自己評価できるものを振り返りシート(学習レポート)に付随させてみようと思います。ただ、この達成状況は生徒がデータを共有することで、より学習を充実したものにするような気もするので、Googleフォームの活用も検討してみたいです。



2.GIGAスクール構想の発展に貢献

 今年も引き続き校内のGIGAスクール推進リーダーとしてICT活用を広げました。今年は学校にスタディサプリが導入され、朝学習と夕学習、自主学習の時間に有効活用されています。スタディサプリの導入にあたっては最初は否定的な考えの先生もいましたが、その有効性と利便性は使えばすぐに分かるという確信があったので、1日でも早く利用開始できるように5月は頑張りました。6月からは朝学習と夕学習での活用が始まり、それまでプリント配布、回収、チェック、返却をしていた忙しさとプリント地獄から解放され、空き時間に積極的に問題に取り組む生徒も出てきました。本当を言うと、講義動画を有効活用し、個別最適化学習につなげ、知識伝授のための一斉指導をなくしてほしいのですが、生徒を静かに座らせて教師の話を聞かせ、ノートに黒板の内容を書き写させ定期的にノートをチェックするという教師のマインドセットが180度変換するのはそう簡単なことではありません。一斉指導から個別最適化へのチェンジはGIGAスクール構想の大きなポイントになっていると思うので、この点に関しては引き続き2023年も学力向上担当の先生と協力して取り組んでいきたいところです。


https://art-educator-tatsuwaki-serendipities.blogspot.com/2022/10/in.html

 今年、私は学校外でGIGAスクール構想に関連した講師をすることが何度かあり、他校でICT活用のポイントを説明したり、岡山県総合教育センターやコンベンションセンターで実践発表する機会もいただきました。発表に向けての準備はそれなりに大変でしたが、GIGAスクール構想の可能性についてさらに理解を深めることにもなり、とても充実した1年だったと思います。発表の機会はいずれも要請を受けてのものでしたが、どうせ発表するならそれなりのものにしたいので、研究と実践へのモチベーションアップに繋がりました。仕事が増えて忙しくなりますが、要請を受けた場合は快く引き受けるのも決して損する話ではないと思います。要請を受けたらすぐに発表内容を確認し、アウトラインを組み立て、後はそれをパワーアップさせるネタを日々の研究と実践から吸い上げることでスムーズに準備ができることを実感した1年でした。すぐに行動して2割か3割の状態でも良いので自分がイメージできる状態をつくっておくことが大切です。



 GIGAスクール構想の発展に貢献という点では、普段から校内向けにGIGAスクール通信というものを毎週発行することができました。これを発行するためには自分自身が普段から新しい挑戦をして、それを説明できる状態にまで深めておかなければいけません。通信を書くことで重要で有益な情報を共有することになりますが、自分自身にとってもこれを続けられる状態でいることは研究と実践を進める上でのバロメーターになっているので、今後も継続していきたいと思います。ただ、来年に向けてより分かりやすくチャート化された通信にして、ぱっと見で分かる資料作成をしていきたいと思います。いくら頑張って文章を書いても、それをしっかり読んでくれる人は多くないのが現状です。であるならば目で見て分かるものに思い切って変えていくことも必要です。このブログは文字だらけなので、その逆をいっていますが、ブログを読まれる方は比較的時間に余裕があるからこそ読んでくださるのだと考えています。それに対して、普段学校で忙しく働いている先生は短い文章でも読む余裕がないという人も珍しくないので、3秒で分かる資料を用意できるようにしたいと思います。


3.美術室を更に遊べる空間に

 今年も美術室に改良を加え続けました。協働作業や学び合いがやりやすいように作業スペースを大きくしつつ、移動スペースに余裕を作り机間指導しやすくしました。生徒が自由に使える道具&材料スペースも改良し、より制作活動が充実する空間にすることができました。


 PBLを中心とした学習を考える際に大切なのが机の状態です。自分一人で集中して作業するのであれば普通の教室机でも良いのですが、PBLでは多様なアイディアとの出会い、協働的な学び、そして広い作業スペースが重要になります

 私はずっと大きな机が欲しかったのですが、予算的にも用意するのは難しいので、合板を4つの机の上にセットするという方法で簡易的な机を用意しました。この合板は元々学校に眠っていたものなので、大変経済的にこの環境を作ることができました。合板が必要であることを教頭先生に話をしてから1週間足らずでこの環境になったので、頼れるところには積極的に頼っていくことの大切さを実感しました。ダメ元でも良いので声は上げてみるものです。

 この机の環境になって生徒は伸び伸びと作業ができるようになったと感じています。これまでChromebookを開くだけで机が半分程度埋まっていましたが、これだけ机が大きいので、Chromebookは机の中央に寄せておき、落下の心配がない状態で作業をすることが可能になりました。また、隣の人にChromebookの扱い方を教える姿もこれまで以上に見られるようになり、この机にしたことで生徒の活動がかなりファシリテートされた手応えを感じることができました。ちなみに、私も一人で集中して仕事をしたい時によくこの机を活用しています。

 道具や素材を自由に使え、作業しやすい机があれば美術の制作活動は自然と充実した遊びの時間になっていきます。今後、さらに道具類へのアクセスを良くして、生徒が美術の時間を楽しめる空間づくりをしていきたいと思います。


2022年の抱負「常に「遊び」基準で考える」を振り返って

 最後に今年の抱負についての振り返りをしておきたいと思います。全体的に見れば、今年はよく遊べていたと感じています。スケジュール的にはかなりハードな1年で、たくさんの仕事を請け負ったため、働いている時間が大変多くなりました。実際に寸暇を見つけては仕事をしている状態でした。ただ、講師の仕事や、新しく職務に就いた中学校文化連盟の事務局次長としての仕事で自分の得意なことを生かして有意義な仕事ができたのは良かったと思います。とてもチャレンジングでしたが、これまでに得た知識や技能を活用して創造的に解決することができたので、遊びの感覚で取り組むことができました

 正直面倒だと感じる仕事もありましたが、そういったものもなるべく「遊び」の基準で考えることができました。面倒な仕事は自分にとって「自由を奪う倒すべき敵」なので、なるべく素早く片付けるようにしました。面倒な仕事も速攻で片付けると結構気持ちの良いものです。仕事や作業を勝手にゲーム化して目標を持って取り組むことが大切です。

 授業や教材、ICT活用、こういったものも考え方を誤れば「遊び」とはならず負担感になってしまいます。しかし、どうやったら生徒が楽しんでくれるか、「遊び」のコーディネーターとしての視点で取り組み、それが実際に有効であることが確認できれば日々の仕事はとても創造的で楽しいものになります。今年、PBLを中心に取り組んだことが「遊び」基準で考えることと適合していたと感じています。今年ほど生徒からたくさんの発見をさせてもらえた1年は過去にありません。生徒と一緒に学校で遊び続けることができるかどうかが生徒にとっても、そして教師にとっても、学びに満ちた充実した時間を送る上で大切です。

 PBLへの本格的な研究と実践は今年が初めてだったので、来年さらなる飛躍ができるように、この冬休みの時間を利用してさらに研究し、想像を膨らませておきたいと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今年を振り返ると大変充実した時間を送ることができたと感じています。来年さらに良い1年にするために年末年始にパワーを貯めて、また2023年を走っていきたいと思います。

 年末の大仕事といえば大掃除ですね。近藤麻理恵さんの「人生がときめく片づけの魔法」を読んで、ただいま断捨離実行中。大学時代に使っていた服や、高校生の時の体育のハーフパンツなど思い出の詰まった品々とどんどんお別れしています。「いつか使うは永遠に使わない」「ときめくものを大切にする」という考え方はデザイン思考にも生かせるものなので、こんまりメソッドもそのうち研究してみようと思います。

 それではまた!


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