PBL(問題解決型学習)のヒントは学齢期以前の主体的な活動にある
最近専らPBL(問題解決型学習)について研究を進めていて、気がつけば最近の購入書籍がPBL関係だらけになっています。PBLを学校教育にどのように取り入れていくか試行錯誤している自治体も多いと思いますし、私自身、これまでの指導方法をよりPBLに即したもの(美術担当なので、元々PBLが授業のベースになっていましたが)にしていくために、教材や教室の環境、生徒との授業での対応方法について少しずつ変化させていっています。
PBLが今後の教育のあり方として重要になるのは主体的で対話的な深い学びを根本原理にした新学習指導要領や探究型学習に注目が集まっている現状からしても間違いないと考えています。そのために、いかに教師が「教える」時間を少なくし、子どもたちが主体性を発揮して学習できるようにするかが鍵になりますが、そのヒントが学齢期以前(保育園や幼稚園の時期)の主体的な活動にあるのではないかと思います。
主体性のままに発展する砂場、積み木、工作での遊び
ほとんどの人が砂場や積み木で遊んだことがあると思います。私自身、幼稚園の時に友達と砂場で山や川を作って遊んだ楽しい記憶が今でも鮮やかに蘇ります。私の通っていた福知山幼稚園には大きな砂場があり、友達と協力して大きな山と頂上から続く長い峰を作り、かなりの長さがある川を作って最終的に水がたまる池まで作った記憶があります。毎日砂場にたくさんの仲間が集まり、次第に山や川が大きく発展していきました。当時はとにかくすごい砂山と川を作ることにみんなが一生懸命になって作業し、工夫していた記憶があります。
積み木も私は大好きでした。実家には積み木ボックスがあり、家ではそれでよく遊んでいました。
この写真は私が小学校の時に子ども会で遊びに行った時に砂場に積み木がばら撒かれているのを発見し、久しぶりの砂場と積み木での遊びを楽しんでいる様子です。この後一緒に遊びに来ていたもう一人の子と協働制作。
こういう造形遊びの中で自然と発展していく作品制作が学齢期以前には毎日溢れていました。幼稚園では牛乳パックを組み合わせて小屋を作り、そこでお店屋さんごっこをしました。この時私と一緒に延々と牛乳パックをつなげて小屋を制作した友達がいましたが、かなり熱い気持ちで作業していたことを覚えています。
幼稚園の先生から受けたコーディネートとファシリテート
砂場での山づくりや牛乳パックの小屋制作は幼稚園の先生が用意してくれた遊びの機会でした。そういう遊びの機会をコーディネートしたら、後は指示を出すこともなくただただ子どもたちの活動のサポートをしてくれたのみです。私自身牛乳パックを組み合わせて大きくするということをそれまでにやったことがありませんでしたが、「こんなことができるよ」と見せてもらえたからこそ、造形のスイッチが入ったのだと思います。それがなければ、牛乳パックを見てもいつも通りのただの空のパックにしか見えません。
牛乳パックで夢のマイホームが作れるイメージができた私はただひたすらに来る日も来る日も牛乳パックを組み合わせ、牛乳パックの壁が1枚2枚と増えていきました。当時は自分の制作に夢中になっていたので、道具や材料が当たり前のように使える環境に対して何の疑問も抱いていませんでしたが、今になって考えると、私が思う存分に制作できたのは幼稚園の先生が牛乳パックや制作道具、テープなどの材料を用意してくれていたからこそ可能でした。感謝でしかありません。当時の幼稚園の先生方は最高のファシリテーターでもありました。
自然と成り立つPBL
自分達でやりたいことを考えて、そのために必要なことを考え、実際に行動していく。そしてそれが作品として成り立つだけでなく、砂場や牛乳パックの小屋を介してまた新たなコンテンツが生まれる。今になって思うと、幼稚園時代に私たちがしていたことはPBLそのものでした。このような活動を通して工夫する楽しさ、イメージを形にするために必要な知識や技術を学んでいたことは間違いありません。
これはかなり前から感じていたことなのですが、小学校に入るまでは多くの子どもたちが活動に主体的に取り組み、その中でたくさんのことを学習することができており、それは自然と日本語を話せるようになる構造とかなり似ていると感じています。小学校に入学するまでにほとんどの子どもたちが日本語を問題なく扱えるようになりますが、そのためにいわゆる「勉強」をした子どもはほとんどいません。文字もかなり読める状態にさえなっています。日常のコミュニケーションや生活の中だけでも十分に学ぶことができます。
大人が子どもたちに良い環境を用意し、気持ちよく活動できるように調整したり、関わったりすれば、自然と子どもは生き生きと活動を通して学んでいくと信じることが大切なのではないでしょうか。
小学校や中学校でPBLをするために
元々子どもたちにはPBLをする力が備わっており、それに火をつけるのが大人や教師の役割であると考えると、これまでの学校の授業の在り方が根本的に変化していくと考えています。
これまでは学齢期になれば大人が子どもたちに学ぶべき内容を設定し、その習得のために学びを管理して評価するというシステムが一般的でした。これによって体系的で効率の良い学習が可能で、いわゆる読み書きと算術の力がスムーズに身につき、全体的には基礎学力の高い状態をつくってきたと思います。しかし、その一方で、子どもたちの学びに対するモチベーションが内発的だった状態から、成績や評価を意識した外発的な動機になる傾向もありました。
基礎学力自体は思考活動をする上で大切になるので、身につけていくべきことでしょうが、問題はその方法で、すでによく言われているように子どもたちの学習スピードは個々で異なるため、教師による一斉指導で全体が確実に学習目標をクリアすることは現実的ではありません。ICTを活用した個別最適化学習は、子どもたちの基礎学力定着には不可欠になると思います。最低限の知識獲得にはEdTechが貢献する部分は非常に大きくなると思います。
基礎学力の定着をこれまで以上に短時間で可能にすることができれば、その余剰の時間で自由にPBLができるようになります。PBLに取り組むタイミングは一斉でなくても良いでしょう。基礎学力の面である程度の手応えがある子どもからどんどんPBLに取り組ませていけば、それを見た他の生徒も刺激を受ける可能性も上がることでしょう。
私が今年取り組んだ美術の実践で、絵画の制作が早く終わった生徒には教室にある材料を使って自由制作に取り組んでもらったものがあります。生徒たちは課題が終了しているのでリラックスして完全に遊びモードで制作に取り組んでいましたが、できるものがどれも面白いものばかり。ある生徒は「自分史上最高の作品ができた」と振り返るなど、主体性のままに取り組むことがいかに大切かを私自身考えさせられました。
この取り組みは計画性を持って取り組んだ生徒もいれば、ただ素材と戯れる造形遊びに終わった生徒もいたので、厳密にはPBLの取り組みとは言えませんが、多くの生徒が作りたいものに対するイメージを膨らませながら試行錯誤した上で作品を完成させており、結果的にPBLになるというものでした。
PBLの良いところは、生徒が授業中にやることもなくボーっとする状況になりにくいところにあります。これは生徒が手を動かし、思考活動しているが故であり、そういった活動性を学習の中に備えておくことの意義は大きいと思います。知識や技術の面で学習したことがすぐにPBLに生かされ、PBLの中で更に必要な知識や技術と出会い、学びを深めていく。そういうイメージをもって授業を考えていくことが大切だと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は学齢期以前の主体的な活動にPBLのヒントがあるということで文章を書かせていただきました。本当は誰もがPBLで深く学ぶことができ、そういった活動を主体的にできるはずであると私は考えています。みんなが主体的に活動し、楽しさの中で自然と学びも深まる、そんな授業を実現できるように、これからも研究と実践を重ねていきたいと思います。
2022年もあと1ヶ月ですね。良い1年の終わりが迎えられるようにラストスパートをかけていきたいと思います。それにしてもサッカー日本代表の活躍にはエネルギーをもらいますね。挑戦を続ければ不可能も可能になるという希望を見せてもらえる幸せを感じています。
それではまた!
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