2023年に向けて年賀状制作 ステンシルと年賀状の魅力

 


 今年もあと2週間程度となりましたね。毎年この時期になると私は年賀状をステンシルで作成しています。ステンシル版画は簡単にできて色のアレンジも多様にできるので、オリジナルの年賀状を作成する場合にとても良い方法だと考えています。そして、着彩が大変面白く、一枚着彩することにそれほど時間もかからないので手軽です。今回はそんなステンシル版画の魅力と、SNSやデジタル加工が主に使われる時代において、あえて年賀状をアナログで作成する意味についても私の考えをお話しさせていただきます。


ステンシル版画は単純な図柄でも着彩で魅力が出る

 ステンシル版画は紙を切り抜き、穴から絵具を通して着彩する孔版の一種です。主にスポンジや専用のブラシに絵具をつけてポンポンしたり、網とブラシで絵の具飛ばす技法のスパッタリングで着彩したりします。


 切絵にするために下がきの絵は単純で繋がった線で描く必要がありますが、水玉模様のように、シルエットを切り抜くという方法もあり、この場合、重ねる版を増やすことで複雑な図を表現することも可能です。

 切絵としての楽しみもあるのがステンシル版画の魅力でもあります。切り抜いた形の美しさを発見した有名なアーティストでヘンリー・マチスがいますが、彼は晩年は癌の影響で下半身が不自由になり、それ以前のような大きな油絵を一人で制作できなくなったことがきっかけで、カット・アウトという色画用紙を切り抜いて構成画を作成するようになりました。明快な形と色、絶妙なバランスで表現される構成美。こういった形と色、構成の表現要素は美術教育の根幹を成すものであり、これらの要素はステンシル版画にも同様に当てはまります。私自身、このステンシル版画で年賀状を制作する授業を過去3年間、中学2年生で実施してきました。


 カッターで切り抜いた整った形は、たとえそれが不定形なものであっても「それらしさ」を持ちます。そして、色が切り抜いた形に沿って表現されることで、形と色が響き合った美しい造形が生まれます。

 スポンジで色を塗ると色が強く出ますが、スパッタリングでスプレーのような効果を出すと優しい表現ができ、複数の色を重ねることで点描のような視覚で色が混ざって見える視覚混合の効果が得られた明るい混色が可能になります。

 ステンシル版画は構成する版を増やしたり、版を意図的にずらしたり、逆向きにしたり、構成の面でもかなりの自由さがあります。この構成力の高さも大きな魅力となっています。


色の実験を楽しむ

 これはあくまで個人的な考えですが、ステンシル版画の最も大きな魅力は色の実験に夢中になれるということです。版画というもの自体が色を多様に使って同じ版でも異なった作品を簡単に作れる特性がありますが、ステンシル版画は着彩をする際の瞬発力、即興性が他の版画に比べると圧倒的に高いと考えています。



 夢中で絵具を画面に塗りたくるという、絵を描く原体験を幼児期にしたことがある人は多いと思いますが、その感覚が呼び覚まされるような感じさえします。絵具の中にはラメ入りのものもあるなど、画材店や100均には魅力的な絵具があるので、色々な絵具で遊びながら作品を量産することができます。着彩をしている時間はマインドフルネスそのもの。本当に楽しい時間であり、充実した体験を得られます。

 もちろん、年賀状ではなくてもステンシル版画は楽しめます。シンメトリーな切絵や和柄の切絵を作成するのも手軽にできます。



年賀状を作成すること自体を楽しみ、充実感を得る

 年賀状を作成したり、書いたりする意味とは何かを考えると、「人間関係」が思い浮かび、そこには義務感や周りからの評判など、少々面倒なイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。SNSでの新年の挨拶はそのような面で大変負担を減らすことになり、紙の年賀状がどんどん使われなくなった要因になっていることは周知の事実です。

 ただ、私は文化的な現象の多くは、本来は楽しむ要素が備わっており、自分自身のアプローチを変えることで捉え方が大きく変わると考えています。楽しめていない状態には必ず何かしらの間違ったアプローチがあるはずです。

 年賀状の魅力や意義は本来、親しい人やお世話になっている人への感謝と、これからも宜しくお願いしますという気持ちを伝える新年の挨拶であり、これ自体は決して面倒なものではないと思いますし、そう思いたいくないところです(笑)。ただ、これが普段親しくしていない人との人間関係を保つために業務的に挨拶をしなければいけなくなってくると、面倒と考え、なるべく時間を短縮し、生産性重視で終わらしてしまいたくなるかもしれません。実際にそういう年賀状は多いと思います。一見綺麗に印刷された華やかな画面に見えて、メッセージは「昨年は大変お世話になりました。今年もどうぞ宜しくお願いいたします。」という淡白なもの。私はそのような年賀状を送るのならSNSでコピー&ペーストしたもので十分だと思います。しかし、これこそ時間が勿体無いと思います。相手に伝わるものが少ない年賀状に私は魅力を感じません。

 技術的には簡単に100枚でも200枚でも量産したり、送信したりすることができるようになっている時代です。しかし、年賀状や新年のメッセージを送るべき人は本来そんなに多くないと思います。年賀状は本当に大切な人に贈るからこそ価値があるのであり、そういう感謝に浸る時間を年末に設けることは、自分自身にとってもとても大切なことだと思います。

 それゆえに、私は自分が担任する生徒に年賀状をこれまで一貫して送り続けてきました。今の自分があるのは他ならぬ日頃関わっているクラスの生徒のお陰です。そういう気持ちをメタ認知して、新たな気持ちで別れの待っている3学期に臨むことができます。だからこそ、この年賀状制作はやめることができません。そもそも色を塗ったり、万年筆で字を書くこと自体が楽しいので、やめる理由がありません(笑)。普段は乱雑な字を書いていますが、こういう時には万年筆で丁寧に書くというのも個人的に大切な機会です。これがないと、私の字は1年中暴れっ放しと言っても過言ではありません。字を書く楽しさを考えると、少々値段は張りますが、万年筆だと思います。普段はタイピングが多くて手で書く字が粗末になっていますが、気持ち良い書き心地を提供してくれる万年筆は一本持っておいて良いと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はステンシル版画で年賀状を制作することの魅力についてお話しさせていただきました。こういう一手間かけて年賀状を作成するのもなかなか良いものなので、是非ステンシル版画で年賀状を作成してみてほしいと思います。

 それではまた!

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