素材のもつ魅力 〜木材編〜

  前回に引き続き「素材のもつ魅力」についてお話しします。今回は最も身近な素材と言っても過言ではない木材の魅力について迫っていこうと思います。

 皆さんの考える木材の魅力とは何んだと思いますか?。あげ始めるととんでもなく壮大な話になってしまいます。なので、今回は私なりに簡単にまとめ、主に美術や工芸に簡単に生かせる部分を中心に書いてみました。少しでも参考になる内容をお届けし、木材についてより親近感と興味をもっていただけたら嬉しいです。

 まず、木材の魅力は以下のようなものがあると私は思います。

1.美しい木目、模様、質感

2.適度な硬さを持っているため彫刻で多様な表現が可能

3.朽ちた部分も味になる

4.独特の良い香り

5.遊び道具として豊かな体験をさせてくれる

といった魅力があると思います。今回はこの5つについてお話ししていきます。


1.美しい木目、模様、質感

 木材の木目が作り出す模様や質感は木材の部位によって変わりますし、木の種類によっても当然変わります。真っ直ぐな木目は洗練された雰囲気を放ちますし、曲がりくねった木目からは生命感を感じます。枝別れする部分などには節があり、これもまた良い味を出します。

 木材のもつ木目には人工のものにはなかなか見られない「決まりのない自由な美しさ」があります。加工はしていても、自然の模様をそのまま生かせるのが木材であり、その多様な木目に私たちは美を感じます。高級木材を使った床はとても洗練された雰囲気を放ちますが、節だらけのグレードが落ちる木材であっても使われ方次第で魅力的な素材として真価を発揮する可能性もあります。木材も「みんな違ってみんないい」であり、とても奥の深い素材です。

 木材のもつ質感も魅力的なところです。極端な話、樹皮がついたままの状態でも格好良いと思います。ただ、その状態では工芸として考えると性能面で問題があるため、サンドペーパーで表面を磨き上げることがほとんどです。サンドペーパーで仕上げられた木材は肌触りが大変良く、自然の素材ゆえに手によく馴染みます。そして木目が美しく見える状態になります。サンドペーパーの力は偉大で、多少形が不細工な彫り上がりの状態でも、徹底的に磨きさえすれば大抵のものは洗練された作品になってくれます。なので、美術の授業ではサンドペーパーで作品を仕上げることを特に大事にして指導しています。これによって木材の質感を引き出して優れた作品を作ることができたという達成感を子どもたちは味わうことができ、美術への苦手意識をもっている子どもでも美術の面白さに気づけるきっかけとなります。

 子どもたちを見ていると、仕上がった作品の肌触りの良さを楽しむ姿も大変よく見られます。中にはやたらと私に作品に触ることを求める自己有能感を欲する子どももいて、そういう子どもにはここぞと言わんばかりに作品を仕上げる努力ができていることを褒め称えます。でも、これは決してお世辞でも何でもなく、率直に仕上がった形が美しくて感動の声をあげている感じです。それぐらい、サンドペーパーで仕上げることが作品の生命線になり得ると私は思います。


 さらに、この木材の質感を長期的に保存するためにニスや漆といった透明の樹脂が効果を発揮します。美しく磨き上げた木材にニスや漆を塗ることで絶妙な光沢が生まれます。逆に絵の具で色を塗って木材の質感を潰してしまうと、ややチープな雰囲気になってしまいます。家具などでは不透明のペンキを塗ることも多いですが、もし美しい木目をもったものであれば、なるべく質感をいかせる透明のニスを使ったり、木材との相性がとても良い漆でコーティングしたりしたものが個人的には好きです。結局は個人の好みによりけりですが、木材の模様や質感を生かす視点は大切にしたいものです。


2.適度な硬さを持っているため彫刻で多様な表現が可能

 木材はちょうど良い硬さをもっているため、様々な形を表現することが可能です。爪楊枝のように細かったり、食器のように薄くても割と安定した強度があるため、基本的にはどんな形にもできます。粗く削るのも良いですし、テカテカに磨き上げるのも良し。

 木彫では素材の硬さゆえに少しずつ作業が進みます。この「少しずつ」というのが、私は大事だと思います。なぜなら、少しずつ進むことによって制作者が作品と向き合う時間が必然的に長くなり、彫り進める行為と、イメージを広げる行為が丁度良いバランスで働くためです。もしも粘土であれば、すぐに形ができてしまうため、そこから何倍も時間をかけて作品を洗練させていくのは忍耐のない子どもの場合難しいことが多々あります。しかし、木彫であれば、素材との対話時間が十分に取れるため、どんな雑な制作者であっても、ある程度洗練された作品になっていくのです。それゆえに、私は木彫を1年生の2学期に取り組み、表現力を格段に上げ、自己有能感をもたせた上で3学期に粘土造形に取り組むようにしています。

 ただ、少し注意しなければいけないのが、木目の向きを確認しておかないと気が裂けるということです。ならい目からは綺麗で滑らかに惚れますが、逆目に入ると木目が引っかかってガタガタに毛羽立ちます。この状態で無理に頑張って彫ろうとすると最悪の場合木が裂けるという悲劇が起きます。学校で指導をしていてもたまに子どもたちの絶望的な悲鳴が上がります。しかし、そう言う場合には木工用ボンドとクランプで強力に接着すれば大抵はある程度の強度をもった状態で直せます。これをすると子どもたちからヒーロー的な扱いを受けます(笑)


3.朽ちた部分も味になる

 一般的に「朽ちる」というのは良いものが悪くなる状態のことを示すと思います。しかし、木材の場合は、時として朽ちて良くなることもあります。



 先日倉敷の美観地区のお店にランチに行ったとき、案内されたテーブルが木の魅力を大変いかしたものでした。テーブルの中央部に穴が空いていて、この部分は木が朽ちることによってできる穴です。普通なら木の綺麗な部分と比べたら朽ちた部分は「不要」と言える部分かもしれません。しかし、この場合、人間の手では表現できない自然の造形美となっており、これが価値を生んでいます。この穴がテーブルの真ん中にあることで、機能面での犠牲を最低限に抑えつつ、自然味あふれる姿となっていました。こんなテーブルでの食事はきっとお客さんの感動体験を豊かなものにしてくれることでしょう。

 このような素材感のある工芸品はとても高価で、以前に高級家具屋に行って商品を見たことがあるのですが、想像絶するお値段がついていました。このようなテーブルは機能性を犠牲にするのと相反する形で芸術性を高めているため、一般的なインダストリアルデザインのテーブルとは全く別ジャンルの芸術作品として扱われることになります。

 私はこのような素材感のあるテーブルが大好きですが、当然このようなテーブルを買うような余裕はありません。しかし、自分で作ればある程度のものならできます。特に朽ちた部分のある木材というのは、場合によっては超安価で手に入ります。


 このテーブルは木材屋さんのセールで購入した木材を組み合わせて作成しました。費用は総額500円。天板はなんと200円でした。もちろん品としては先のテーブルの足元にも及ばないものですが、それでも自分で作った特別なテーブルであることに変わりはありません。このテーブルの気に入っているところは天板の形です。少し歪な形ですが、これが自然感を出しています。木目もなかなか美しく、一部割れ目が入っていますが、それぐらいのワイルドさがあっても良いでしょう。何より自分で作ったテーブルには愛着がもてます。これを作ったのはもう7年前ぐらいになりますが、今でもリビングで活躍しています。


4.独特の良い香り

 代表的なものでは檜が良い香りであることは知られていますが、どんな木材も当たり前かもしれませんが、自然の優しい香りがします。美術の授業で木工をしていると教室に木の匂いが充満し、とても癒されます。そもそも木の匂いが嫌な人っているのでしょうか?

 自然の放つ香りはリラグゼーション効果があります。これは元々人類が森林の中で暮らしていて、その香りに対して親近感を感じるというのがあるそうです。ということは、木の香りが充満する美術室は極上の癒し効果があるということです。どうりで木工をしていると子どもたちが前向きに頑張るわけです(笑)。これは言い過ぎかもしれませんが、過去を振り返っても、安定して木工の時は子どもたちが制作に励みます。それは単純に木を加工する楽しさというのもあるのかもしれませんが、木の香りにも要因があったのかもしれませんね。

 私たちが本能的に癒されてしまうパワーをもった木材。そんなものが身近にある生活も良いかもしれませんね。

5.遊び道具にもなる

 木材は遊び道具としてもとても優秀です。木のおもちゃと言ったら色々ありますが、私の中での最高のおもちゃは積み木です。あの肌触り、衝突させた時の音、無限の組み合わせで構成する形、積み木は私の幼少期の最高の友達でした。友達と言っておきながら、私は庭に積み木を投げまくっていました。幼児が投げるにもちょうど良い重量です(笑)。

 積み木を投げるのは勧めるべき遊びではないかもしれませんが、それを差し引いても積み木の魅力は抜群です。遊び方を無限に創造することができます。積み木と他のおもちゃを組み合わせて遊ぶのもよくある活用方法ですね。今思うと、積み木に夢中になっていたのも人類として本能的なものが働いていたのかもしれません。

 積み木の他にも、けん玉や駒、ジェンガなど、木材を用いた遊び道具があるだけでなく、なんならただの枝でも十分に子ども心をくすぐってくれます。きっと多くの人が幼少期だけでなく、小中学生になっても面白い形の枝を拾い、それを振り回したり、折り曲げたりした経験があるのではないでしょうか。木材は人類の友達であり、パートナーであり続けてきたのかもしれませんね。木の遊び方を私はこれからも探究していきたいと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は木材の魅力についてお話しさせていただきました。改めて木材について考えていくと、その価値についてこれまで以上に考えを深めることができました。木材と良い関係を築くことができると生活に潤いがもたらされます。私たちの生活を昔から支えてきた木材についてこれからも魅力を研究し続け、美術教師として少しでもたくさんの人にその価値の認識を広めていきたいです。

 次回は美術に関わる全ての人に読んでほしい本について紹介します。美術に関わると言ってしまうと、美術は義務教育に含まれるものなので、中学生以上の全ての人に読んで欲しい本になります。少々大袈裟に聞こえるかもしれませんが、私は今回紹介する本をみんなが読んだら間違いなく日本の美術への認識は根本的に変わると思っていますので、想いを込めて熱く語ってみたいと思います!

 それではまたよろしくお願いします!!

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