素材のもつ魅力 〜ペットボトルキャップ編 VOL.1〜

  


今回は素材のもつ魅力についてお話しします。世の中に素材と言えるものが溢れています。紙、木材、金属、ガラス、土、プラスチック、布etc...上げ始めると本当にたくさんの素材があります。これらの素材の持ち味をいかに活用するかがデザインや彫刻においてとても大切になります。この活用法においては様々な工夫があり、大変研究しがいのあるものです。美術教師として素材の活用に関する研究は永遠のテーマと考えています。

 素材はホームセンターや専門店で買うこともできますが、どんなものでも素材としての可能性をもっているため、あまり周りから素材として注目されていないようなものにも目を向けてみるのも面白いです。例えば「ゴミ」として扱われるようなものです。大学時代、一緒に授業を受けていたある学生が「カスが世界を明るくする」というタイトルの作品でゴミをスクラップブッキングにしていまいした。これが大変面白くて、ある役目を終えて不必要となったものでも、そこに意味を見出すと見え方が全く変わるということに気づかされました。それ以来、ゴミを見ると「なんか面白いものができないか」と考える癖がつくようになりました。廃材などを使って美術室の環境を整備したり、ソフトテニス部に活用できるものをつくったり、私がこれまでに作ってきたものは実用的なものが中心ですが、ゴミの多様な素材を見ると色々なイメージが浮かんできます。それだけでも価値のあることだと思うので、これらからも素敵なゴミとの出会いを楽しんでいきたいです。ちなみに「ゴミ人間」と「えんとつ町のプペル」はまだ見ていません…(笑)

 今回素材のもつ魅力で紹介するのがペットボトルキャップです。リサイクルしたりワクチンの寄付につながるということで集めている人も少なくないと思います。学校にも沢山のペットボトルキャップがあります。ペットボトルキャップはゴミというわけではありませんが、使用を終えたペットボトルキャップ自体に価値を感じることは少ないのではないでしょうか。「DAKARAのキャップについているクローバーが好きなので集めています!」なんていう人ももしかしたらこの世にはいるかもしれませんが、基本的にはゴミの一派として考えられているのではないでしょうか。

 そんなペットボトルキャップは素材として、

1.大きさが基本的に揃っていて、構成的に使いやすく、統一感が出しやすい

2.色が鮮やかで、色数も豊富

3.立体感がある

4.モザイク画のように表現できる

以上のような魅力を持っており、素材として見ると非常に優秀です。これらの素材としての持ち味を生かすことでとても面白い作品ができるので、今回は私が作成に携わったものを紹介していきます。

 初めてペットボトルキャップを使ったのは前任校での体育会と文化祭の応援看板でした。これは生徒会執行部で協力して作りました。当時私は生徒会執行部の担当になった1年目で、生徒会室を片付けて機能的な空間に変えようと思い、部屋に放置されたプルタブを回収業社に持って行くなどして片付けを進めていました。その中で大量のペットボトルキャップの処理にもかかりました。本来はペットボトルキャップをワクチンの寄付につなげるために学校で集めていたと思うのですが、長い間回収に出さないまま部屋のスペースを圧迫していたので、逆にこれを利用しながら片付けをしようと考えたことがペットボトルキャップを作品に用いたきっかけでした。生徒会執行部の生徒や先生もペットボトルキャップで作る看板はこれまでになかったし面白そうだということで、夏休みにみんなで協力して作成しました。


 ペットボトルキャップでの表現はシンプルな形を用いることになる上、作業的には接着剤で大体の位置に貼り付けていくだけなので、とても簡単に作業が進みました。簡単な作業ですが、どんどんパズルが埋まっていくような達成感があり、数時間で一気に貼り付けることができました。これをする以前は少人数で絵の具を少しずつ塗っていましたが、作業がわかりやすいため、10名ぐらいで一気に進めることができました。絵の具ではないため個々の技量は関係がなく気楽な作業でした。完成作品はとてもポップなものになり、複雑な形ができない故の魅力です。また、同系色が混ざり合って見えて点描画やモザイク画のような美しさを放つ看板となりました。


 この制作方法は翌年の看板にも用いられました。この年は文字の部分だけに利用しましたが、普通に絵の具で描いた部分との対比で魅力的な表現になったと思います。ペットボトルキャップの立体感が生きた作品になりました。

 このような経験を前任校ですることができた私は、今年度から赴任した学校にも職員の給湯室に沢山のペットボトルキャップが置かれていることにすぐ目が行きました。ただ今年は生徒会担当ではないということでそのペットボトルキャップには手を出すことができないまま時間が過ぎました。そんなある日、美術の研修大会がZOOMで開催され私は参加させてもらえることになりました。その研修では「つくる方法をつくる」をテーマにしており、素材感をいかして、新しい表現方法をつくることについて考えるワークショップでした。

 このワークショップでは立方体の箱を用いることが条件になっており、この箱を活用してどんな素材を使っても良いので、素材の新しい表現方法を創造するというものでした。



 私は素材を選ぶことになってすぐにペットボトルキャップの存在が浮かんだので活用を即決しました。これを接着するために瞬間接着剤やグルーガンを利用し、まずはペットボトルキャップを適当に接着したものを作り、次にグルーガンで規則的に接着したものを作り、さらに二つを合体させました。

 この制作を通して、私は適当に接着したものより、ある程度規則性を生かした方がペットボトルキャップの場合、素材感を生かせるという印象をもつことができました。基本的に同じサイズと形状のパーツの場合、構成美にしやすいためです。この時は時間に限りがあり、準備も不十分だったので、色についての工夫ができませんでしたが、この点においても工夫ができるというのを研修の際に考えることができました。

 そうして二つの作品が生まれることになりました。一つ目は電動糸鋸機のカバー&サブテーブルで、もう一つはゴミ箱です。これらは元々はただのダンボールを折り曲げたものと「護美箱」の文字が貼られた美しくないゴミ箱でした。


 ダンボールの方はまるで障子紙のように突き刺されている状態で見るも無惨な状態でした。これらをなんとか3学期が始まるまでに良い状態にしたいと考えていたので、冬休みの間にペットボトルアートにしたということです。

 まず取りかかったのがダンボールの方です。こちらはとにかくシンメトリーの構成美でシンプルなものを作ろうと考えていましたので、大体の中心をとって、後はひたすら中心から対称を意識して貼り付けていきました。少しは配色も意識しましたが、あまり深いことは考えずにシンメトリーを表現していった感じです。端っこは少しバランスが取れていなかったため帳尻合わせとなりましたが、構成美を生かしたカバーにすることができました。




 特に難しい構成はしていませんが、同系色によるまとまりと構成美さえ利用すれば簡単に美しい模様をつくることができます

 そしてゴミ箱です。ゴミ箱はダンボール箱を形のベースにして側面と底部にペットボトルキャップを貼り付けました。それぞれの面の柄を変えて、遊びながら配置していきました。やはりこれも規則性重視で柄を構成しています。

 
 それぞれダンボールだけのものだと美とは無縁のようなものでしたが、ペットボトルキャップでコーティングすることにより色と規則的な立体感をまとったアートになりました。ペットボトルキャップが作品になって、しかも実用性があるということで、非常にエコな取り組みでもあると思います。しかも、これを制作している私自身、大変楽しむことができるものだったので、こういう活動が広まり、人々が楽しみながらゴミをアーティスティックなものに変化させられるようになれば嬉しいですね。そして、これはSDGsにもつながることではないでしょうか。


 冬休み中にこれらの作業を終えることができたので、気持ちよく3学期がスタートできました。教室前方がさらに派手になり、生徒にとっては気が散って教師の話が頭に入りにくくなるという批判をいただきそうですが、美術室はこれぐらいの異常さがあっても良いでしょう(笑)。美術室では美的体験にとことん浸ってほしいと思います。たまには私の話も真剣に聞いてほしいですが…(笑)。しかし、まだ生徒の集中力がどうなるかわからないので、とりあえず3学期の授業の様子を見ていきたいと思います。もしもこれによって授業崩壊するようなことがあれば策を考えます。策を考えるのは大好きなので、何が起こっても結局私のメンタル的には大丈夫でしょう(笑)。

 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は「素材のもつ魅力」ということでペットボトルキャップを用いた作品について紹介させていただきました。まだ沢山のペットボトルキャップがあるので、いずれこれらも利用して披露することができると思います。ゴミと言えるものでも、それを素材として見て、形や色、材質など細かい部分まで分析していくと、色々な活用法やアートとしての可能性を見出すことができます。是非身のまわりの様々なものに活用の価値を見出して創造的に遊んでみてほしいと思います。

 次回は「素材のもつ魅力」の第2弾、木材についてお話しする予定です。私は木材も大好きで、これまでにテーブルやペーパーナイフ、バターナイフ、靴べら、お箸、棚など、様々なものを作ってきました。そんな木材の魅力について可能な限りシンプルにお伝えしたいと思いますので、よかったらまた記事を見てほしいと思います。

 それではまた来週!

コメント

このブログの人気の投稿

スプレッドシートの年間指導計画に様々な要素をリンクさせ、「共有場」として機能させる

Canvaで道徳をアクティブに 〜Googleと連携して〜

Google Jamboardで道徳をアクティブに vol.1

Google classroomを活用した美術科における振り返り活動 vol.1