部活動の在り方について考える Vol.1 部活動は生徒の主体的な活動の場
今回は部活動の在り方について考えていこうと思います。皆さんは部活動というものに対してどのような印象をもっているでしょうか。私自身学生時代は中学校と高校でソフトテニス、大学で軽音楽部に所属していて、教師になってからはソフトテニス部と美術部の顧問を務め、人生の多くの時間で部活動というものに関わってきました。
ただ、全てが順調というわけではなく、高校時代にはモチベーションが極度に下がり、キャプテンをしていながらも退部してしまったり、自分自身が教師になって顧問を始めた時には、かつてやめてしまったソフトテニスをまたやらなければいけないことにかなりの抵抗がありました。そんな過去がありますが、現在は部活動大好き人間です。安心してください。美術教育は部活動よりも遥かに真剣なものとして考えていますので、決して本業が犠牲にならない程度で部活動の顧問を務めています(笑)。中学校の部活動は顧問にとっても、生徒にとっても負担にならない程度にするのが大切です。誤解を恐れずに言いますが、部活動は真剣な遊びであり、顧問にとっては給料のもらえるボランティアぐらいに考えることが大切だと思います。顧問が熱くなりすぎて子どもに負担をかける、もしくは自分の本来の業務に支障が出るレベルに達した時点で、部活動の在り方は必ず考えるべきだと私は考えています。
私はゴリゴリの部活動教師というわけではありませんが、だからこそ「部活動の在り方」について少し遠目から考えることができると考えています。これはあくまで私の予想ですが、学校の教師が顧問を務める時代は意外と長く10年以上は続くと思います。現在部活動で地域の人材を生かす取り組みや、休日の部活動を無くして地域のスポーツクラブでの活動を促す動きがある中で、顧問の任意性と地域の人材活用が近々本格的に始まります。この段階ではまだ多くの教師が顧問を担当することでしょう。そして、労働システムが整備されて、学校教員と部活動指導員としての兼業という形になっていくのではないかと思います。これはかなり近い将来起こると考えています。
Society5.0の中で社会の教育システムが成熟してきたときに更に一段階大きな変化を生むことになると思います。その時こそ大部分の教員が部活動顧問から退くことになるのではないでしょうか。その段階になるまで15年ぐらいかかるもしれませんが、間違いなく言えることは、これらからの時代、部活動はこれまでとは大きく異なるものに変化していくということです。既に部活動というもの自体が既存のシステムでは現代社会において限界を迎えているのは教師をしている多くの人が感じていることでしょう。そういう限界に来ているものはこれから爆発的に変化していく気配があります。これらのことに関してはまた別の機会に記事にしようと考えています。
ただ、顧問のマネージメント次第では部活動がこの先も発展していけると考えていますし、ICTやインターネットによる繋がりがある現代だからこそ、顧問がそれを活用して部活動は正常化・合理化していくべきものだと考えています。これから部活動についての記事を書いていくことで、教師をしている人だけでなく、地域の一人材として部活動と関わって地域の発展に携わる可能性がある人にとっても意味のある内容にしていきたいと思いますので、お時間に余裕があれば是非読んでもらえたらと思います。
前置きが長くなりましたが、今回のテーマは「部活動は生徒の主体的な活動の場」です。部活動はそもそも生徒会活動の一つとして位置付けられているものです。生徒総会で部長や委員長が体育館の前に座って、予算や摘要について延々と報告するのを見た記憶がある人もいるのではないでしょうか。顧問の存在がやたらと強く感じられる部活動ですが、名目上は生徒のものなのです。このことを教師は大前提として考えておかなければいけません。これが忘れられてしまった時に部活動は顧問の名誉のために存在するブラック部活動と成り果てます。大体そういう部の生徒は部活動が中止になった時に「やったー!」と叫び、部活動時間が長い日は「だるー、めんどー」という言葉を吐くことになります。そして部活動に姿を表さなくなります。顧問の存在意義は教科指導と同じく、生徒が主体的(最悪でも自主的)に部活動に参加し、達成感や充実感を味わうことができる機会提供をするところにあります。
今回は生徒が主体的に部活動に参加することができるようにする上で大切だと思うことについてお話しします。これについてはまだまだ私も未熟者なので、この先も勉強していきたいと考えていますが、最近になって見えてきた私なりの考えを今回4つのポイントでまとめてみました。皆さんのお役に立てる内容になればとても嬉しいです。
1.顧問は第1のサポーター
2.ミーティングで一緒になって考える
3.「面白そう」で刺激する
4.個々のスタイルに合わせる
1.顧問は第一のサポーター
そもそも顧問という言葉の意味は「相談を受けて意見を述べる役目の人」であり、意識決定を行う権限はなく、あくまでアドバイザー的なものになります。これは生徒会が主体となっている部活動なので当然のことですが、実質的に部活動顧問は監督のような絶対的な権限を持っている傾向があると思います。これは教師という子どもたちを指導する立場の人間が顧問をしているが故にある程度は仕方がないのかもしれませんが、間違っても教員のエゴが強烈に反映されるような活動であってはいけません。あくまで顧問は子どもたちをサポートする立場というのを忘れないようにしたいものです。
では、教師は子どもたちをただサポートして応援するだけで良いかというと、それもまた少し違うと考えています。それではただの地域の優しい大人になってしまいます。私たちは教師であり、教育力こそ最大の武器になります。教育する力は基本的には誰にでもあると思いますが、教育学について学び、日々より良い教育と向き合って研究を続ける教師の教育力は特殊能力と言えるものです。これを生かすことこそ、学校の教師が顧問を務める意義にもなるのではないでしょうか。
人道的に問題がある時には部活動中に道徳の授業をすることもありますし、時には哲学的対話をすることもあります。また、子どもたちが主体的に活動できるように様々な工夫を凝らした機会提供も大切な役割です。
多くのスポーツクラブや画塾などは、その手の専門家になるための指導がメインであり、人としての成長に重点を置いているものはあまりない印象です。私は小学校の時に少年野球団に所属していました。そこでの経験は素晴らしいものでしたし、指導者にも恵まれ野球が好きになり自然と上達もしました。しかし、道徳や哲学的な対話、興味をくすぐるような指導はあまり記憶にありません。私は当時の指導者全員に心から感謝していますし、かけがえのない時間を与えてくれたと思っています。しかし、彼らは野球の指導のプロではあっても、教育のプロではなかったと言えます。時には体罰もありましたし、一生懸命しているのにミスしたことに対して威圧的な指導もありました。それが当時は当たり前だったといえばそれまでですが、顧問教師でさえいまだにその傾向がしばしば見られることを考えると、教育学に基づいた指導がいかに難しいものであるか分かります。
教育の専門家が顧問を務めることの意義は人としても成長期である中高生にとって非常に大きいと思います。教師の一番のミッションは「主体的に学習する態度」を育てることにあります。その経験は適切なサポートをする上で必ずいかされることでしょう。普段から子どもたちの様子を見ているという点も教師が子どもたちにとって第一のサポーターになりえる要素だと思います.私の内心を言うとテニスは趣味なので、本当はただの優しい大人として気楽に関われるポジションがいいのですが、教育者として関わるからには仕事なので、時には厳しい態度も必要です。そして、顧問として成長するには日々教育について学び続けることが不可欠でもあります。そのことを常に忘れることなく精進していきたいと思います。
2.ミーティングで一緒になって考える
子どもたちが主体性をもって部活動に参加するためにはミーティングは不可欠です。ミーティングは雨でコートが使えない時にするようにしています。その場では子どもたちから「目標はどうするか」「現状の課題は何か」「これからどうするか」などについて意見を引き出し、一緒になって考えるようにしています。
ここで私が心がけるようにしているのは「どうして」「どのように」を子どもたちに問い返し、自分たちで部活動について深く考える機会をつくるようにしています。意見を引き出す際に注意したいのが、顧問が勝手に意見をまとめてしまうことです。まとめる中でどうしても顧問の意思が入り込んでしまう危険性があります。
ただ、問い返してすぐに意見が出ないこともあります。そういう時は…とりあえず待ちます(笑)。待ってもダメなら問いかけを別の角度から行います。この方法、やっていることは道徳の授業と同じです。ここで道徳について深掘りすることはしませんが、道徳は教師が子どもたちに道徳的価値について教える「説法」の時間ではないことは確認しておきたいと思います。道徳の授業は心について考え、メタ認知を促す場です。あくまで自分の視点で考え続ける。これが道徳的価値について学ぶ事になると言われています。要はこれと一緒の原理で部活動ミーティングも行います。これまでの課題を振り返り、目指すべきものを考え、これからどうしていくか、そしてそれが何を生み出すことになるのか、ただそれを考えるだけです。もし考える中で新しくやりたいことや、これまでしてきたことでやめるべきと思われるものがあれば、全員で確認しあってなるべくみんなが納得できる状態で決めるようにします。顧問はミーティングを時には引っ張らなければいけないこともありますが、なるべく子どもたちに任せたいところです。
ミーティングで新しく取り組みたいことが出てきた時、子どもたちにとりあえず具体的に何ができるか考えさせるようにします。しかし、経験が浅く、知識も不足している中学生では合理的なメニューや取り組みを考えることが非常に難しい時があります。こういう時こそ顧問が意見を述べて救いの手を差し伸べるべき時だと思います。
この際、できれば複数の選択肢を用意して、子どもたちに取捨選択させたいところです。一択だと顧問が押し付けたとも取れる感じですが、選択肢があれば、子どもたちの意思を反映させることが多少なりともできます。複数の選択肢を用意するためには教師も常に学び続けていなければいけません。
最近私はソフトテニスだけでなく、硬式テニスを習い始めました。これによってソフトテニスにもいかせる技術や体の使い方、ポジショニングについて新鮮な視点で学ぶことができている実感があります。他にも、野球やバレーボール、サッカーなどの動きからもソフトテニスにもいかせる体の使い方があるので、そのことについて学べるメニューを提案することもあります。ただ、こういったメニューを何の説明も無しにやらせてしまうと、子どもたちは訳もわからずやってしまい、練習の効果は小さくなってしまうので、必ず何を鍛えるためにするのか説明をすることが大切です。
子どもたちに意見を自由に出させていると、時にはこちらが提案したメニューにとりあえず反抗(年頃もあるので)してくる場合もあります。そういう場合には「じゃあ、どんなメニューをしたい?」と問います。そうして出てきたメニューはとりあえずやらせるようにします。やらせてみて、振り返りをさせ、もし効果的ならそれに換えます。ただ、多くの場合は元の方が良かったと気がつくことになります。この振り返りの時は顧問として少し緊張します(苦笑)。
子どもから出た意見を突っぱねるのではなく、とりあえず一旦受け止める。その上でそれを取り入れるかどうか検討する。そのように子どもと顧問が協力してより良い練習環境を考えていくことを大切にしていきたいものです。
3.「面白そう」で刺激する
子どもは遊びが大好きですし、大人も楽しむためには遊びの感覚が大切なのは誰もが思うところでしょう。そして真剣に遊ぶことができれば自ずと技術もついてきます。テニスの場合、そもそもコートにまともにボールが入らなければ面白さの大部分を味わうことができませんし、普通にボールを打ち合っているだけでも十分ではありません。テニスはいかに相手を騙すか、その駆け引きを楽しむものです。これは他のスポーツにおいてもそうですし、美術や音楽もただ技術があるだけでは、芸術の自由で心揺さぶる感性面での魅力が生かし切れるものになりません。競技や芸術を楽しんでいるとき、私たちは遊びという創造性あふれる行動をしていて、それが自ずと成長につながると私は考えています。もちろんプロや社会人で競技者を目指す場合はさらにストイックな練習が必要になりますが、ここはあくまで一般的な公立学校の部活動での話です。
遊べる練習をするためには、なるべく「面白さ」を感じられるものを大事にしています。テニスの場合、基本的なトス打ちで打力をあげることは手っ取り早くできるのですが、ひたすらそんな練習をしていたらテニスの印象が面白くないものになってしまいます。これではモチベーションの維持がそもそも難しいでしょう。効率よくある程度のレベルに達するためには、練習を楽しめる「面白さ」がとても大切です。そうして練習が好きになることは、部活動に主体的に参加する大切な一歩となるでしょう。
「面白さ」を感じられるポイントは「上達している感覚」「挑戦しがいのある技の習得」「自由に工夫ができる」などがあげられると思います。この中で特に「自由に工夫ができる」というのは長期的な視点で一番大切だと思います。例えば、基本的なストロークの練習をひたすらしていたら当然それに関して言えば上達しますしぐんぐん上達している時はそれがモチベーションになりますが、ある時を境に急激に伸び率が悪くなります。そんな状況でずっと同じ練習をしていたら気持ちが萎えていきます。しかし、もしストローク練習に基本以外のテクニカルなショットを入れることができるようにしていたら、子どもたちは自ら工夫して打つようになります。その時に顧問が「そんな打ち方はするな!」と抑圧したら「面白さ」はどこかに行ってしまうことでしょう。子どもがやろうとしたことを受け止め、それをより良くできるようにサポートすることで、新たな技術の習得に興味を深めていけます。
練習メニューの提案には、上達の見込みがあって、習得できる技があって、自由に工夫できる「面白そう」と感じてもらえるようなものが出せるように、これまた日頃からの研究が大事です。別のスポーツやそれ以外の場面でも何かしらの刺激でふと思いつくこともあるので、日常の中に何か使えるものはないかとアンテナを張っておくようにしたいものです。
4.個々のスタイルに合わせる
子どもにはそれぞれ適性があるため、一つの型に収めようとすると、それがあっていない子どもの場合、かなりの劣等感を抱かせることになります。技術指導がバリバリできる顧問はどうしても型にはめようとして「手取り足取り」指導してしまう光景を見たことがあるのではないでしょうか。それが良い場合もあれば、時として全くはまらないこともあります。
自分が手取り足取り教えているのに、なかなかそれができないと指導していてイライラしてしまいます。私が昔そうでした。昔の自分を振り返って思うのは、自分の知っている型を全くの別人に無理やりはめ込もうとする傲慢な指導です。
体の動かし方については合理的な方法がありますが、動きの全てが決まっているわけではありません。テニスであれば、手首や腰、膝やラケットの面について基本的な部分ができていれば、後は個人の癖があっても問題はありません。プロの選手でもスイングはバラバラです。結局、個々のスタイルに合った動きが一番大事なのであり、顧問は毎日動きを観察する中で、その子どもに一番合った動きをアドバイスすることが求められると思います。
アドバイスを送ったらもちろんその後の動きを観察します。大抵の場合、あまり大きな変化は見られません。しかし、少しでも動きがスムーズであったり、上達が見られた場合はできているところを伝えるようにしています。この時、もしできていなかっても、あまりしつこく言わないようにしています。なぜなら、本人はできていないことをつかれるのを嫌うためです。本人からしたら「わかっとるわ!」という感じです。そんな状態で練習をさせても生産的ではありません。余計なことは言わず、巻いた種から芽が出るのを待ちます。
もしかしたら、こちらが思っていたような芽の出方にならないかもしれませんが、それでも良いと思います。本人なりに成長を実感できれば、あとはそれをプレーにいかしていきます。顧問から「違う!」「なんでできないんだ!」なんて言われ続けたら、伸び伸びとプレーできなくなり、自分らしいプレーなんかいつまでたってもできるようにはなりません。その子なりのプレーができるようになれば十分で、あとはそれを生かして楽しむまでです。
自分らしいプレーが確立してくると、当然もっと競技が好きになります。子どもたち一人ひとりの癖を見抜き、それを生かして伸ばしていく、この気長に待つ姿勢は教えない教育の典型的なスタイルです。こういった指導ができるのも教師ならではなのではないかと思います。
以上、主体的に部活動に参加することができるようになると考えられる4つのポイントでした。これ以外にももちろん、色々なポイントで子どもたちの主体性を刺激するノウハウを持っておられる方がたくさんいると思います。私は美術が教科指導の専門で、こちらの研究が第一優先ですが、部活動の研究もこれからさらに励んでいきたいと思いますので、色んな人から今後も有益な情報を学んでいきたいと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は「部活動のあり方について考える」ということで、「部活動は生徒の主体的な活動の場」をテーマに記事を書かせていただきました。まだまだ私も学ぶことだらけの部活動顧問という仕事。きっと1年後には今の自分が大変未熟者に思えることでしょう。そんな未熟な私の現状をこうして僭越ながら刻み込んでみました。次回は今回の続編ということで、「顧問としてできる環境面でのサポート」をテーマに記事を書く予定です。またお時間に余裕があれば読んでもらえると嬉しいです。
それではまた!
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