Google Jamboardを用いたアクティブラーニング

  


 今回はGoogle Jamboardを用いたアクティブラーニングについて活用方法を紹介させていただきます。Jamboardというツールは簡単に言ってしまうと、ホワイトボードを何枚も追加することができる、まさに「破壊的な」ツールです。極端な言い方になるかもしれませんが、もうこれがあると黒板やホワイトボードは使わなくても授業ができてしまうぐらいに活用性があります。このようなツールが広まると、黒板が学校から消えたり、スティーブ・ジョブズも愛したホワイトボードがこの世から消えるかもしれません。それぐらいに「破壊的な」利便性をもったツールと言えます。

 これまで黒板に必要な情報を掲示したり、視覚的に工夫したり、小型のホワイトボードを4〜6人ぐらいの班に配布してグループ活動させたり、さまざまな工夫をアナログで行ってきましたが、どうしてもスペースの問題や、活動内容を共有することの不便さを感じていました。せっかく各班で良い意見が上がっていても、ホワイトボードに書き込まれた意見が黒板に貼られていては、周りの子どもたちから見えるのはホワイトボードだけで、肝心の文字が読めず、ほとんど考えを共有できない状態でした。授業者は子どもたちの多様な考えを独り占めできるような状態なので、一人で楽しくなることもできますが、授業の主役は学び手なので、これでは誰のための授業か分かりません。

 また、黒板やホワイトボードに授業内容を補強するものを掲示しようとしても、スペース的な限界がありました。だからと言って、私が普段授業をしている美術室に中からホワイトボードを集結させるわけにもいきませんし、授業資料を教室中に貼り付けまわるわけにもいきません。しかも、教室に貼り付けたところで、子どもの座る場所によっては見えないこともあるので、ほぼ意味がありません。とりあえず子どもたちに「先生頑張っています感」を伝えることはできるかもしれませんが、熱い(暑苦しい)先生の姿を見てもらうのが教師という仕事ではありません。


「スペース」と「共有」の課題を解決

 授業でやりたい理想があっても、アナログでは「共有」という点で妥協をせざるを得なかったのがこれまでの課題でした。これはアクティブラーニングを進めていく上で非常に大きな障害となっていおり、アクティブラーニングというものは、自分で考えたことをアウトプットするだけでなく、それを他者と共有して、協同的に学び、自分では気が付けなかったことに気づき、その上でまたウトプットして学習を深めるというもので、そのためには「共有」のしやすさが不可欠であるためです。

 Jamboardは、授業で感じてきた「スペース」と「共有」という点での課題を解決してくれる可能性に溢れたツールだと思います。おそらくこれから私はJamboardを活用して授業をすることが多くなるでしょう。これまで黒板に掲示して視覚的に分かりやすくする工夫をたくさんしてきましたが、その度に模造紙を使ってかなりの手間をかけて授業準備をしてきました。一度作ってしまえば数年間は使えますし、授業の転換でもサッと外したり掲示したりできていましたが、紙ベースで作ったものは授業をアップデートすると作り直しすることになり、その度にかなりの労力が必要でした。また、黒板やホワイトボードのスペースの限界によって妥協せざるを得ない状況が続いていました。Jamboardを利用することで授業資料をスペースの制限を受けずに掲示することができますし、掲示する元のデータを変更するのは容易なので授業をアップグレードする際の手間も省けます。

 そして「共有」の面での課題解決は、今回の記事のメインテーマとして扱うアクティブラーニングの面で大きな進歩をもたらしてくれるものと考えています。私は制作時間の最後や授業のまとめの時間に「制作のKey Word」というものを考えさせる時間を設けています。これを通して、良い作品を作る上で大切なことを考え、それを共有することで考え方を広げたり、深めたりする活動につなげてきました。しかし、この「制作のKey Word」を共有するために使っていた方法が「黒板に書きに来る」という方法であったため、30名程度が書き終わるまでに10分程度の時間を必要としていました。黒板にはスペースの限りがあり、大勢が同時に活動するには非常に不便であったと言えます。この方法で良い意見はたくさん出ていましたし、この意見の共有を通して最後の子どもたちの振り返り活動の充実には「ある程度」つなげることができていたと思いますが、それにしても10分という時間はあまりにも長く、この時間のロスを防ぐことによって他の活動をさらに充実させることができるようになるはずです。

 この「制作のKey Word」をJamboardの活用によって時間の短縮と内容の充実が可能となりました。まず生徒も編集可能な状態のJamboardのファイルを用意します。これによって、全員が一斉に編集が可能の状態になります。そして付箋ツールを使って各々の考えを貼り付けていきます。これを例えて言うなら、教室のどこからでも見えるような巨大な字を書き込める付箋を手にした生徒が黒板の前に立っている状態です。

 完全に自由に貼り付けされると、一瞬で画面がカオスになるので、ある程度のカテゴライズをルール化しておくと、より活動の効果は上がると考えられます。例えば、「知識・技能に関すること」「思考・発想に関すること」「気持ちに関すること」のように分けておくと、それに関する考えをその近くにまとめることができ、見やすい状態になります。ちなみにこの最初の画面は背景設定にしておくと、生徒が誤って付箋やテキストを消去したり、移動したりすることがなくなるので、予め背景設定をしておくと良いと思います。

 





 このようにJamboardを活用したことによって、これまで全員が考えを書くまでに10分程度かかっていたのものが、たったの数分でたくさんの考えが集まるようになりました。しかも圧倒的に考えの数も多くなったのが印象的です。ちなみに、上の図は授業での言葉を再現したものです。実際はかなりカオスな感じになっていましたが、言葉数自体は一つの画面に収まらないぐらいに多くなっていました。教師は画面を見やすくなるように調整するなど、子どもたちの活動をサポートする役割が今後必要になるでしょう。
 このツールの魅力は、「気楽に」考えを投稿することができる点にあると思います。黒板などで周りに注目された状態で考えを書こうとすると、どうしても自分の中に制御が働いて、「常識的な」考えを書いたり、失敗を恐れて誰かと同じ考えを書いたりといった、とても勿体無い状況が生まれやすかったと言えます。挑戦的な子どもばかりではなく、やはりまわりの目が気になる子どもは多く、自分の考えが認められる前の状態でまわりの注目を集める状況というのは、多くの生徒にとっては心理的不安を感じることでしょう。
 しかし、Jamboardで付箋に考えを書く場合、非常に匿名性が強くなるため、気軽に考えを出すことができます。匿名性には良い点も悪い点もあると言えますが、多様な意見を集めたい場合は「気軽に」表現できるというのは大切な要素だと思います。多様な考えが集まってくると、「それなら自分も…」となって考えを投稿しやすくなるでしょう。また、自分の中に発表したいことがたくさんある子どもなら、考えを追加することもできるので、発表が得意な子どもにとっても有益性があると思います。
 多様な考えの共有によって、一人では到底気がつけないような「なぜ」「どのようにして」「何」を知ることができ、その後の振り返り活動が充実します。Jamboardの活用によって、振り返りの時間をこれまでよりも長く取ることができるようになり、余裕をもって考えることができるようになります。そうして深い学びにつながるメタ認知を促せるようになると期待しています。

対話型鑑賞の際にも有効
 


 Jamboardを活用すると、作品鑑賞も充実すると考えています。対話型鑑賞というアクティブな鑑賞方法が最近よく言われるようになりましたが、これを授業で行った場合、特定の子どもとのキャッチボールになってしまって、ほとんどの子どもは教師と発表者のキャッチボールを傍観しているような状態になります。キャッチボールをしている人たちはとても楽しいので、教師も授業後に満足感があるかもしれませんが、これぞまさに自己満足。教育は子どもたちが主役なので、教師の自己満足になってしまってはいけません。
 そのような状況になりやすい対話型鑑賞の弱点をJamboardは解決してくれると考えています。鑑賞する作品を共有して、そこに付箋で気が付いたことを貼り付けさせていくと、多様な気づきを共有することができるようになり、その多様な気づきがまた多様な考えをうむことになります。
 従来の対話型鑑賞では教師が中心になって一つの部分に注目させながら考えを広げたり深めたりすることが一般的だったと思います。しかし、全員が同時に考えを述べられるようになり、「色に注目する人」「形に注目する人」「構図に注目する人」など自分たちで深めていくことが可能になり、学習がこれらの掛け算になっていきます。教師はその深まりを見取り、最後にまとめ、子どもたちが振り返り活動でメタ認知の機会をつくり学習を仕上げる。そういった活動が実現すると、「対話的で主体的な深い学び」は達成されていくことと考えています。
 このような授業になっていくと教師の仕事はとても楽になりますが、子どもたちの学習がアクティブなものになるためには、教師が主導しすぎないことが必要です。活動の場をコーディネートしたり、活動をファシリテートすることがアクティブラーニングにつながると考えています。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はGoogle Jamboardを用いたアクティブラーニングについて考えを書かせていただきました。まだGIGAスクール構想が本格実施になって間もないので、これからさらに色々なことを試し、たくさんの失敗をしながら新しい時代の教育をつくっていくことになります。私自身、まだ使い慣れていない部分もたくさんある中で、授業で活用して手応えのあったものはこのようにしてまた記事にしていこうと考えています。今回の記事を読んで改善するべき部分や何かお気づきのことなどありましたら、是非コメントしていただけると嬉しいです。
 次回は「個性的な表現を実現するポイント」について記事を書かせていただきます。よく美術では「個性が大事」と言われますが、この言葉について深く認識していないと、簡単に個性という言葉で片付けてしまう悪癖がついてしまいます。個性を伸ばす教育は当然大切ですが、そもそも「個性」というものが何かについて曖昧な状態で指導をしていても、「あなたの個性を生かしてください」と言われた時に、明確にそれを生かすことができる人にはなかなかなれないと私は思います。美術教師の大切な使命は「個性を生かす方法を体験を基に体型的に学習する」ことにあると私は考えています。少し哲学的な内容になるかもしれませんが、少しでも読んでくださった人のお役に立てるような内容にしようと考えていますので、また目を通していただけると嬉しいです。
 それではまた!

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