多様な視点でモチーフを捉える 〜自分なりにアレンジ〜
前回は貝殻を用いた水彩画でモチーフに囚われずに表現することについてのお話をしましたが、今回もモチーフと向き合う上で大切にしていることについて書きます。
今回のテーマは「多様な視点でモチーフを捉える」。私たちは普段何気なく周りのものを見ていると思います。花壇やプランターに咲いている花を見てきっと多くの人は「普通に」綺麗と感じるのではないかと思います。そういう「普通」の感覚も心穏やかに生活する上で大切なことだと思います。そして、下のようなパンジーを見て、この写真のように絵を描くというのも良いと思います。大切なのは「自分が描きたいと思ったものを率直に描く」というのに尽きます。絵は他でもない自分自身の幸福のために描くものであり、人の評価を気にして描くものではありません。
視点を変えるだけで発見が溢れる
しかし、たまには「普通」を抜け出して、普段見ていない視点で周りのものを見てみるのも良いかも知れません。例えば、パンジーをこのような視点で見てみます。
見た瞬間のインパクトがありますね。思わず「WOW!」となります。実は細かい線が放射状に広がっていて、よく見るとなんとブラシのようなものが見えます。私はとりあえず身近なパンジーを今回の記事のために撮影したのですが、思わぬ発見で、早速これがなんのためにあるのかググりました。これはパンジーの中心部にある蜜を獲得するために近づいた虫がこれによって中に誘導される仕組みになっているそうです。そんな機能をパンジーが持っているなんて考えたこともありませんでした。
このように普段何気なくみている視点を変えてみると、生活にはそれほど役に立たないような雑学を増やすきっかけになります。しかし、そういう発見は生活に彩りを与えるものであり、この世界をより楽しめるようになる大切なことだと思います。人間は普段ものを見ているようで、実はあまり見ていません。漠然と「綺麗だな」と感じたり、周りのものを知ったつもりになってしまい、固定観念を作り上げていきます。そのようになると、この世界に潜在する魅力を味わいきれずに時間を送ってしまうことになりかねません。そういう点で子どもたちはまだ周りのものに対して固定観念をあまり持っていないため、大人からするとどうしてそんなことに気がつくのかと感心させられるような視点で周りのものを見ていますし、発見する喜びを日々感じながら成長していきます。大人になっても子ども心を忘れないようにしたいところです。
芸術は普段意識していないような世界の美しさを私たちに示してくれるからこそ存在意義を発揮するものだと思います。音楽にしろ美術にしろ、芸術を鑑賞すると満たされた気持ちになりますし、生活の質を上げることにつなげられます。
ありがたいことに、最近は高性能なカメラ機能を持ったスマートフォンが出回り、美しい写真をSNSに投稿するなど、芸術的なものを発信する側になることが容易になりました。多様な視点でモチーフを捉え、芸術性を引き出すというのは割と多くの人にとって身近な感覚になりつつあると思います。
そのような時代で、私は美術教師として「多様な視点でモチーフを捉え、自分なりにアレンジする」ことの大切さを生徒に伝えるようにしています。多様な視点で捉え、面白い形を発見することに留まらず、そこから一歩超えて、自分の価値基準や美意識とミックスしてアレンジすることで、その人にしか出せない「視点」を創造することができます。このように芸術に対して、より能動的に関わることができる生徒を育てていくことが美術教師としてのミッションだと考えています。
視点を変えて見えてきたものを生かす
美術に対して苦手意識がある人もいるかも知れませんが、私はあまり難しいことを考えずに、モチーフを利用して形と色で遊びながら表現することが大切だと考えています。例えば、先程のパンジーであれば、拡大写真を基にして下のような絵を描くことができます。
かなり形がデフォルメされ、色もスッキリとシンプルになっています。拡大した写真をそのまま写実的に表すのではなく、そこから得られた美のエッセンスを抽出して再構成し、別の美に生まれ変わらせることができるのが絵の強みです。モチーフに縛られ過ぎず、あくまで表現するためのきっかけとして考えることで、遊びながら自由に描くことができるようになります。作者が手と筆を直接動かし、画用紙や絵具との相互関係によって得られる総合的な感覚によって、即時的に形や色、構成が表現されていきます。発見した特徴を生かして、どのように美をつくり上げていくか。このような即時的な感覚をいかした創造体験から造形に関する大切な視点を学ぶことができます。また、映像作品では次のようなアレンジが簡単にできるので、アナログとデジタルの両面を生かす視点も大切にしたいところです。
他にも虫食いになった葉を拡大して発見した姿を用いて次のような作品もできます。
壊死した部分の模様や反射光は形や色を表現するためのきっかけぐらいに考えて表現しています。美術は一般的に美しくないと思われているものにも美の可能性を見出し、それを表現に生かしていく側面もあります。若くて綺麗な状態だけが美というわけではなく、古くて年季の入ったものにも相応の美が存在します。それを引き出すために、多様な視点から特徴を掴むことが大切だと考えています。
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