クレパスの魅力 〜実は多様な表現で遊べる優秀な画材〜

 


 今回は誰もが使ったことがあるであろう画材、クレパス(オイルパステル)の魅力について紹介します。

 今回クレパスを記事にしようと考えたのは、この画材に対するイメージが多くの人にとって、以下の絵のようなものなのではないかと思うことがよくあるためです。


 作者が楽しんで、夢中で描いた絵であれば、それは全て良い作品です。このような絵が決して悪いわけではありません。むしろ、伸び伸びと描いていて子どもの元気なパワーが乗り移った感じさえあります。しかし、この絵を分析すると、形が崩れ、色が濁り、肌は色が混ざってイメージしたであろう色とは別の怪しい色になっています。楽しい思い出を描くはずが絵全体からは黒く濁ったダークな雰囲気が醸し出される一方で、人間の顔は確かに笑っています。こんなコントロールの効かない画材に対して、私はずっと苦手意識を持ち続けてきました。授業で使わなければいけない時以外では決して自分から使うようなことはありませんでした。

 しかし、このような表現だけがクレパスの絵だと考えるのは勿体ないことであり、クレパスという画材の特性や使い方を知ると、その魅力を生かすことができるようになり、イメージが180度変わることでしょう。

 ちなみに、クレパスというのはサクラクレパスの商品名で、正式にはオイルパステルと言います。油が多く色の伸びが良いのと、色が混ざりやすいのが特徴です。これと混同されるのがクレヨン。クレヨンはクレパスに比べて油が少なく、鉛筆寄りの画材になります。手につきにくいことから、幼児が殴り描きするのに適した画材で、線描に適した画材と言えます。クレパスは線描に加え、力加減を工夫したり、混色したりすることで多様な表現ができるため、クレヨンに比べて小学校でもよく使われる画材です。

 しかし、なぜかクレパスの認知度は低く、一律でクレヨンと言われている傾向があります。クレパスのパッケージやラベルには明確に「クレパス」と表示してあるのに、それを別物のクレヨンと同じ言われ方をするクレパス。あまりにも扱いが適当です…。特性の異なる画材なので、それぞれの得意とする使い方を理解する必要があります。しかし、これらの画材は保育園や幼稚園、小学校でも低学年までがほとんどで、画材に対する専門的な知識を持っている指導者や保護者は少ないため、クレパスの発展的な表現を経験することなしに次第に使わなくなってしまうというケースが多いと考えられます。このような状況がクレパスに対する「幼稚なイメージ」を形成してしまっているのではないでしょうか。

 私がクレパスの魅力に気がつけたのは、美術の勉強を始めた大学4回生の時です。絵について勉強しようと考え、図書館にある実技書を調べていると、パステルに関するものがありました。「パステルって何?」と当時の私は感じ、それを見ていくと、油性のパステルもあるということを知り、それがよく知っているクレパスであることを知りました。ちなみに、私は当時クレパスとクレヨンの違いさえ認識しておらず、これをきっかけにクレパスとクレヨンが別の画材であり、それぞれ得意とする表現方法も違うということを知りました。

 私のクレパスのイメージは小学校低学年の時から完全に止まっていたので、クレパスで描かれた絵を見て、自分の知っているクレパスのイメージとあまりにかけ離れていたので強烈な衝撃を受けました。当然のことですが、クレパスの特性を生かすことができれば、クレパスならではの魅力的な表現もできるわけで、それ以来、私は試行錯誤をしながらクレパスの表現を学んで今に至ります。

 今回はクレパスの表現方法で是非使ってみて欲しいものを紹介します。私自身、絵画が専門ではない上、クレパスについてもまだまだ勉強不足な点はありますが、今回紹介する表現が少しでもクレパスに対する考え方の変化につながれば嬉しいです。


ぼかし


 クレパスは色をぼかして柔らかい表現をすることが簡単にできます。明確な形を描くと、正確に形が取れているかどうかが気になることもあるかもしれませんが、ぼかしてしまえば関係ありません。化粧をするような感覚で色をぼかしてみましょう。色を混ぜながらぼかすのもとても面白いです。


 ぼかす際には手を使ったり、ティッシュペーパーや布を使ったりすると良いでしょう。手でぼかしていると、手についた色が混ざって、意図しない濁りが発生する可能性があるので、色んな色をぼかす場合はティッシュペーパーを使うことをお勧めします。手でぼかすメリットは、手のダイレクトな反応を生かして描くことができるところにあります。絶妙な変化を出したい時などには手が抜群の表現力を発揮するので、状況に応じて使い分けると良いでしょうね。


混色


 油を含んでいるため色がしっかり混ざります。色相の遠い関係の色を混色すると激しく濁りますが、近い色であれば調和して優しい雰囲気の混色になります。

 絵具の色は自分のイメージに合わせて調整することが大切なので、クレパスに限らず混色によって「調整」することを大切にしたいところです。


スクラッチ


 クレパスや水彩などで着彩した部分の上に黒など明度の低い色のクレパスで塗りつぶし、その部分をニードルなどで引っ掻くと下に塗った色が表出します。この技法をスクラッチと呼び、これによって細密な線描をすることができます。引っ掻く材料には粘土ベラや割り箸など、ニードル以外のものも活用でき、それぞれ違った効果が得られ、このような点でも工夫ができます。


バチック(弾き絵)



 クレパスに含まれる油は水を弾くため、予めクレパスで描いた部分の上から水彩を重ねるとクレパスで描いた部分以外に色がつきます。

 明るく表現したい部分にクレパスで白など明度の高い色を塗っておくと、大胆に水彩で着彩してもクレパスで塗った部分には色がつきません。画用紙のざらついた表面を利用して、クレパスでかすれを表現し、そのかすれを生かしながら水彩と融合させて表現することも可能です。

 バチックの効果を得るためには、適度にクレパスで塗られていない部分を残す必要があるため、大胆に、少々雑に塗るぐらいの感覚で描くのがポイントです。


画材に対する固定観念を払拭する

 中学校の絵画の授業では、教材によっては画材を自由に使用できるようにすることがあります。その時に大抵の生徒が水彩やポスターカラー、アクリル、色鉛筆などを使用しようとしますが、クレパスやクレヨンの表現を紹介すると、「これがクレパス!?」という反応を示す生徒が非常に多く、彼らのクレパスやクレヨンに対するイメージが昔のまま止まっているのだと感じることがよくあります。クレパスに対するイメージが変わり、積極的にクレパスを利用する生徒がこれまでたくさんいました。そして、クレパスとの再会は大抵がポジティブなものになり、満足度の高い作品につながってきたと思います。周りの人がクレパスで魅力的な表現をしているのを発見し、クレパスを用いた表現が連鎖的に広がっていくのを見ると、改めてこの画材の魅力について考えさせられます。

 非常に優れた画材でも、幼い時に使う場合と、ある程度成長してから使うのでは、可能な表現も全く違ってきます。さらに言ってしまえば、適切な学習機会があったかどうかというのも大きな違いになってきます。クレパスを今回は取り上げましたが、これ以外の画材に対してもある種の固定観念、「いい感じに表現できない」というイメージをもっている人はたくさんいるのではないかと思います。しかし結局のところ、どの画材も多様な表現方法があり、苦手意識を持っている画材というのは実は単なる理解不足でしかなく、画材の魅力と戯れる経験がなかったというのがほとんどだと思います。大人になると絵を描く機会がほとんどなくなる人が多いと思いますが、もし、お家で眠っている画材があるのであれば封印を解き、ひと塗りから始めてみてほしいと思います。その時に、上手に描けるかどうかは置いておき、まずは画材で遊んでみてください。この遊びには自分で自由に創造し、発展させる魅力が詰まっています。



 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はクレパスの魅力についてお話しさせていただきました。昔は私自身、苦手を通り越して嫌いだったクレパスも、一度その面白さが分かれば、大好きな画材となり、今では一番好きな画材となっています。ちょっとしたきっかけで考えは変わるもの。「嫌い」「苦手」と感じるものにももしかしたらハマる何かが潜んでいるかもしれないので、そういうことに気がつけることを楽しんでいけたらと思います。

 次回はまたJamboardの魅力を道徳の授業に関連させてお話しする予定です。今年の自分の中での流行語はJamboardに定まりつつあると言って過言でないほど、最近ことあるごとにJamしていますが、このJamboardが最も効果を発揮する授業の一つが道徳ではないかと私は考え、この1学期は積極的に実践してきました。そんな道徳でのJamboardの活用について説明しますので、よかったらまた見ていただけると嬉しいです。

 それではまた!


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