教育美術 第1回「国旗で彩られた地図」
今回のはブログ開始2年目の第1号ということで、私が美術のジャンルで一番力を入れてきたと言える「教育美術」について記事を書きました。
私自身はもともと美術が専門ではなく、美術を志したのは大学4回生になってからなので、絵画や彫刻のスキルに関しては美術教師として最低限必要なレベルしかありません。実際にデッサンも決して得意ではありませんし、教員採用試験に合格した時の評価もギリギリセーフというレベルでした。
ただ、美術というもの自体、東京藝術大学レベルのスキルが必要かというとそうではないと思いますし、特に美術教育に関しては、生徒が美術に関心をもてるように授業や教材を工夫したり、生徒と美術を通して関係をつくったりすることが大切なので、自分の表現スキルが高くないことがそれほど不利に働いてきたとは思いません。大切なことは自分にできる美術で勝負することだと考えて、これまで学校で活動をしてきました。
とは言っても、美術教師になりたての時は美術における自分の持ち味を確立できていませんでした。美術を志してから絵画は努力して学んできましたが、如何せん2年間ぐらいのそこそこのトレーニングでは自分の持ち味にするにはあまりに未熟でした。なので、自分の武器を美術以外の要素から考えてみることにしました。そして、それまで専門にしていた英語や異文化に関する知識や関心、そして大学院で主に研究した美学や教育学が美術の経験値の低さを補ってくれると考え、「教育美術」というジャンルが自分を生かせる方法だと考えるようになりました。
「教育美術」という言葉自体は書籍として存在するのですが、私がここで言う「教育美術」というのは、教育を美の要素にして表現することを意味します。学ぶことの面白さに火を付けるような仕掛けを芸術的に表現したい。そういう思いからこれまでに色んな作品を制作してきました。
そもそも、美術作品というもの自体、見る人に何かしらの影響を与えて価値観の変化を引き起こす「教育的な」側面があると思います。そして、刺激的な作品は感動を伴って深く記憶に刻まれます。教育も本来は感動体験を伴った刺激的なものであるべきだと思いますし、主体的な学びもそういう状態によって実現するものと思います。
個人的には教育全体について色々と思うことがあり、述べたいことがありますが、今回は欲張らずに、美術教師の使命である美術教育のために私がこれまで制作してきた「教育美術」の作品を紹介します。これからしばらくの間はこれに関する記事の投稿を続ける予定です。
国旗で彩られた地図
今回紹介する作品は私が勤めた最初の中学校で制作した国旗と地図をモチーフにした作品です。実は当初はヨーロッパの地図にするつもりは全くなかったのですが、イギリスのブリテン島を国旗柄に着彩した切り絵を作成したときに、「これで世界地図を作成したら面白いかも」と考え、西ヨーロッパの国々から画用紙に描いて図をそのまま拡大していきたかったところでしたが、世界地図はあまりにも壮大だったのであえなく大航海時代に入る前に終了。ヨーロッパに絞って作成しました。
国旗のデザインだけでも十分に鑑賞価値があると思いますが、これと地図を合体させて、見ることを楽しみながら学べる地図にしました。国名は左の小さな地図で分かるようにして、国旗と国の形を見て国名を考えることができるようにしています。この地図を見ながらヨーロッパの国名を知ることや、これを利用して生徒同士でクイズを出したりする姿を思い浮かべて制作しました。
私は社会が好きで、幼いときは地図帳を見て色んな国の場所や国旗のデザインを学んだり、世界の主要な都市の人工や有名な山の高さを調べたりしていました。「社会(地理)=妄想旅行=面白いもの」という考えがあったのですが、国名や地理に関することに興味をもっている生徒はそれほど多くないということを学校現場で感じていました。そこで、国旗の洗練されたデザイン、独自性のある国の形を活用してインパクトのある地図を作成すれば社会への興味だけでなく、素材を生かす美術の可能性についても生徒に考えてもらうきっかけになると考え、作品化することにしました。
この作品の制作手順は、まず画用紙に地図を描き、色鉛筆で着彩します。そして、90cm×60cmの合板を2枚合わせて90cm×120cmのサイズにした板にアクリルガッシュで着彩し、その上に画用紙を接着しています。さらにPET板で表面をカバーして木の枠を端に固定して完成。この作品はそのまま学校に寄贈しました。
私はこの作品製作を通して国旗についてより詳しくなりましたし、国旗のデザインと向き合えたので制作自体が楽しく、得られるものがたくさんありました。自分自身も作品によって教育されていたという感じです。
この作品は手間こそそこそこかかりましたが、決して難しい技術を使ったわけではありません。国の形もとことん正確に描いたわけではありませんし、国旗は定規さえあれば基本的には綺麗に描けます。それでも、それなりに見栄えがするのは、国旗がそもそも優れた配色であることと、なんとなく見覚えのあるヨーロッパの地形と国の形を利用しているからこそだと思います。決して芸術的な難易度や高尚なテクニックを使っているわけではありませんが、国旗と地図を組み合わせるというシンプルな方法でも十分です。
普段何気なく接しているものも、ちょっとした工夫でアートになるということに気がつくことができると、一気に美術のハードルは下がります。そういうことに生徒が気がつける要素を作品に仕掛けることが私の考える教育美術です。そして、アイディア次第でスキルがそれほどなくてもユニークな作品は制作できるということを自覚し、生徒が自由に制作できるきっかけ作りをすることが美術教師としての役割だと考えています。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は私がこれまでに制作してきた教育美術の作品から「国旗で彩られた地図」について紹介しました。ちょっとした要素の組み合わせで作品はユニークになりますし、活用する素材次第で学習にも役立つ教育美術が生まれます。そんな教育美術を次回も紹介しますので、もし良かったらまた記事を読んでもらえると嬉しいです。
それではまた!
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