GoogleスライドとGoogle図形描画の活用でデザインを共有する

 


 今回は前回のGoogle図形描画に関する内容の発展系で、Googleスライドとの合わせ技で可能になるデザインの学習について紹介します。これはまだ授業で実践していませんが、色面構成系のデザイン学習をするときには取り入れてみようと考えています。

 Google図形描画は無料のツールということもあって強力な機能はありませんが、基本的な図形の活用や色の選択ができるため、シンプルな図や絵を作成するには十分です。このツールを活用して、私はこれまで中学1年生が平面デザインの基礎を学ぶ際に取り組んできた「自然物による色面構成」に生かせると考えました。

 自然物を用いた色面構成ではデフォルメを学習し、構成美を生かして画面構成することになります。ただ、デフォルメという単純化・簡略化・強調する表現は普段絵を描かない生徒や苦手意識がある生徒にとっては実はハードルが高く、典型的で没個性的な形にデフォルメしてしまい、そこから発展することができないケースをしばしば見てきました。また、モチーフの形に囚われすぎて細かい部分を細密に表現してしまい、デフォルメできないというケースも多くありました。細かい描写で難易度の高い色面構成になり、着彩するときに難易度が上がり過ぎて画面がぐちゃぐちゃになり、結果として達成感を十分に味わえないということも多々見受けられました。


必然的にデフォルメで表現 〜単純形で遊ぶように〜

 しかし、そういった表現することが苦手な生徒や細かく表現してしまう生徒でも、幼少期は積み木やレゴブロックといったシンプルな形の組み合わせで造形遊びしながらユニークな形を作るのが好きだったというケースも少なくなく、表現に困っている生徒には「積み木やレゴで遊ぶように」と伝えることで手が動き始めて満足のいく制作ができる生徒もいました。それでも、「描く」ということ自体がハードルが高く、ましてや色を塗るのも苦手&苦痛という生徒もいて、そのような生徒でも気軽に取り組めて、得意な生徒も可能性をとことん広げられるような方法をこれまで模索してきました。その結果Google図形描画が有効なツールであると考えるようになりました。



 Google図形描画は表現できる形がシンプルなものに限られ、モチーフを必然的にデフォルメすることになります。しかし、形や色を気軽に組み合わせたり変更することができるため、デフォルメした形を発展させることが容易にできます。単純な形の組み合わせでも、個性的なものを作ることができ、しかも絵をコピーして色々な色のバリュエーションを試すことで、多様な美しさを表現できるということを体験できれば色面構成の学習の重要なポイントはクリアしていることになります。これが積み木やレゴブロックで遊ぶような感覚でできれば、かなり良い学習体験になるのではないかと考えています。

 Google図形描画は個人作業でこのように役に立ってくれることが期待できますが、これに加えてデジタルならではの「共有」の要素が入ることで、その魅力は格段に増すと考えられます。その共有のツールがGoogleスライドになります。


Googleスライドでの共有が可能性を広げる

 Google図形描画で作成したものはコピーしてGoogleスライドに貼り付けることができます。図形描画でグループ化したものはそのままコピーして貼り付けられます。そして、Googleスライドをクラス全体で共有できるものにすれば、各々が作成した絵を共有することができ、それを参考にしたり、場合によってはコピーして、自分の図形描画に貼り付けて編集することも可能になります。


 しかし、これは「美術の制作は個人の表現力が大切で、他者の表現を真似することは良くない」という考えに対抗するような方法になるため、この方法に拒否感を感じる人もいるかもしれません。ただ、そっくりそのまま作品をコピーするのではなく、あくまで表現材料として他者のアイディアを活用するというのであれば、特に問題はないと思います。そもそも教科書や美術資料には、参考にできる情報が詰まっていて、それらに触れた上で制作をすることは珍しくありません。ましてやデザイン分野であれば、ある程度の型があって、それを活用するというのは自然なことです。レタリングなどはその代表例ですね。大切なことは自分なりにいかに活用するかであり、最初は色んなものを参考にしながら自分の好みを発見することにあると思います。

 クラスでデザインを共有するというのはチームになってみんなで魅力的なデザインを考えていくことに繋がります。1人で考えられるデザインは時間的にも限りがありますが、30人程度いれば、短時間でもたくさんのデザインが集まります。これは元々デザインが得意な生徒にとっても有益ですし、デザインに対して苦手意識のある生徒にとってはとても助けになることだと思います。美術やデザインが苦手という人でも普通に良い感じに身なりをデザインしている人がたくさんいることを考えると、デザインを選択することは嫌いではないという人は少なくないと考えられるので、選択できる環境を用意することには大きな意味があると思います。

 自分の好きなデザインを選択し、自らの作品に生かすことができれば、表現は格段に広がり発展していくと考えられます。例えば、1つ優れたデザインを考えることができたとしても、いざ色面構成をするとあまりに普通で平凡な構成になってしまうケースがあります。


 上の例のような状態でも、このりんごを工夫して構成すれば個性が少しずつ出てくるものですが、やはり素材が不足している感じは否めません。しかし、他者が考えたりんごを活用し、形や色、パーツをアレンジして構成に生かすことで、作品は多様に進化させることができます。






 Google図形描画を用いると試行錯誤が簡単にできるので、その分アイディアも広がります。これだけ様々なデザインを活用して色面構成に生かすことができると、紙だけでデザインを考えて画用紙に制作する場合よりも、かなり取り組む際のハードルは下がるだけでなく、形と色、構成を工夫することへのポジティブな姿勢を育むことができると予想されます。美術教育のDXはまさにこういうところにあると思います。Googleのツールでクラスが美術の時間にチームとしてつながり、お互いの表現力が進化していくことに期待しています。


アナログも欠かせない

 しかし、私としては、このようにデジタルで作品のアイディアをたくさん考えた上で、最終的には画用紙と絵具で表現する時間も必要だと考えています。なぜなら、デジタルできることとアナログでできること、双方の魅力について体験する良い機会になるためです。

 画用紙に描く際にはデジタルで作成したものをベースに、さらにアイディアを発展させて即興的に作品を進化させていくことが重要だと考えています。デジタルでもそれなりのアプリケーションを用いれば、アナログでできることは基本的にできますが、デジタルではアナログにあるような「予想外」の展開というのは限られます。例えば、絵具の塗りムラから新たな模様のアイディアが浮かんだり、思わぬ混色が生まれたりといった「予想外」の要素はアナログならではの魅力です。こういった描くことによる「遊び」を体験できるか否かというのは学習の充実感を大きく左右すると思います。美術の授業なので作品評価というものが付き纏いますが、予想外のことが起きて、例え作品が台無しになるようなことがあったとしても、それまでの過程が否定されて、低評価になるようなことは「指導と評価の一体化」という観点からもあってはならないことです。表現は挑戦した分、失敗も当然生まれます。しかし、その失敗が評価においてマイナスに働くようなことがあると、生徒は挑戦する意欲を失い、「遊び」のない安全策に終始するようになります。「先生、これ変じゃないですか?」「先生、これやっても大丈夫ですか?」という感じに一々表現する際に確認する生徒と出会ったことがあると思いますが、そういう生徒にも表現で挑戦して遊ぶことの素晴らしさを経験してもらえるようにするのが美術教師としての大切な役割だと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はGoogleスライドとGoogle図形描画でデザインを共有してアイディアを広げる可能性について紹介させていただきました。もし、授業に生かせそうなポイントがあったのであれば嬉しいです。私も色々と試行錯誤しながらGIGAスクール構想の恩恵を美術教育に反映させていきたいと思います。そして、デジタルとアナログ、双方の魅力を体験的に学習することを通して、新しい時代の「確かな学力」と「生きる力」を生徒が培えるようにしていきたいです。そのためにも、私自身新しいことを学び、教育という仕事で遊び続けたいと思います。

 それではまた!

 


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