誰でも簡単に遊べる版画 〜ステンシル版画で世界に一つだけの花〜


  今回は誰でも簡単にできるステンシル版画の教材を紹介します。タイトルからも分かるように、テーマは花です。

 ステンシル版画は紙を切り抜き、空いた穴に絵具をスポンジなどで着彩する孔版と呼ばれるタイプの版画になります。この版画では色を混ぜながら版を写し出していけるので、色の工夫を楽しむことができるのが大きな特徴です。また、多版多色木版画のように重ねる版を増やすことで多様な色彩表現が可能になり、重ねる版の図柄を変えたり、版をセットする場所を変更したりして構図をアレンジしたりするのも簡単にできます。つまり、ステンシル版画は色と構成で大変遊べる方法だと言えます。

 ステンシル版画の弱点と言えるのが形の表現力です。ステンシル版画は基本的には切り絵の要領なので、シンプルな図柄にせざるを得ません。同じ孔版の仲間である紅型の版やシルクスクリーンであれば、少々細かい図柄も可能ですが、やはり他のタイプの版画に比べるとカッターでの切り抜きによる図柄なので、基本的にはシンプルなものになります。しかし、だからこそ、形がそれほど高度に表現できない人でも取り組みやすいのがステンシル版画なのではないかと考えています。形を(上手に)表現する上での苦手意識がそのまま美術や図工嫌いになっているケースも少なくないので、あえてその部分を弱めて、色と構成の工夫だけでも表現を楽しめるということを経験できるようにすることは大切な意味を持っていると思います。

 今回紹介する「ステンシル版画で世界に一つだけの花」という教材では誰でも簡単にできる切り絵の図柄と着彩、構成の工夫で個性的な花を表現します。制作は基本的にノープランで造形遊び的に取り組めるので、美術や図工の授業で扱う場合は1〜2時間程度でできます。


制作方法

 制作では、まず、コピー用紙などどんな紙でも良いので四つ折り程度にして好きな形にハサミやカッターで切ります。切った紙を広げるとシンメトリーの図柄ができます。この図柄は絵の得意不得意なく表現できるものですし、紙を開くまでどんな図柄になるか予想しにくいので、たくさん取り組ませて多様な図柄を作っても良いでしょう。制作する本人がとりあえず満足するまで作らせて良いと思います。好きなように取り組めるというのも遊びの要素として大切です。

 こうしてできた図柄を台紙にセットして、何枚か重ねたり、同じものを繰り返し用いて、絵の具を含ませたスポンジでポンポンと穴の部分から着彩します。

 着彩ではスポンジ以外にもスパッタリングという網とブラシでスプレーのように絵の具を飛ばす技法も使うことで幻想的で透明感のある表現が可能です。色の工夫だけでも多様にできるので、まずは色で遊びながら図柄を写し取っていけるかが大事です。


 図柄を1枚写し取ると、より良い状態がイメージできるようになるので、多くの場合は自然と要素が加わっていきます。ここでは典型的な花のイメージではなく、形を組み合わせていった結果、花らしいものになっていくという感覚で作業を進めると良いでしょう。




 花の絵が完成したら、茎や葉っぱなどを追加しても面白いかもしれません。茎はステンシルにせずに、筆で直接描いたり、クレパスなどで描くのも良いでしょう。葉も同様で良いでしょうが、折角なのでこれもステンシルにしてスタンプのように加えたいところに着彩していくと自由に葉をアレンジすることができますね。


中学校なら1年生で取り組みたい教材

 この教材は難易度的には小学生が造形遊び的に取り組めるものです。明確な見通しなしに、色や構成で造形遊びをしているうちに作品ができてしまうので、美術の教材というよりは図工的な要素が強いです。しかし、中学生にとってもこのような造形遊び的な作品制作の時間というのはあっても良いと思います。このような制作でも、事前に自分の特徴をメモしてアイディアを膨らませたり、制作中に花に対するイメージが膨らんで、何かを象徴するものになっていけば十分に1年生の美術で学習するべき内容に関するものになります。  

 このような教材に対して「描画技術を軽視し過ぎているのではないか」という意見も出るかもしれません。紙を切ってシンメトリーな模様を用いれば誰でもそれなりに構成美が作れます。それゆえに、高い描画力を持っている生徒は長所を生かすことが難しくなるかもしれません。しかし、描画力というものは本来「リアル」で「上手に」表現することだけのものではなく、「形をコントロールしていかに多様な表現ができるか」というのが大切なのではないかと思います。そうであれば、たとえ最初は普通の図柄ができていたとしても、高い描画力を持っている生徒は形を多様に表現する力を発揮して、巧みなハサミやカッターさばきで驚異的な図柄を表現したり、絶妙な版の組み合わせで印象に残る形を表現することも可能なはずです。

 結局のところ、表現の発展性というところさえ確保しておけば、どこまでも高い技術が発揮されるようになると思います。そもそもリアルなデッサンを実現しているのも、元々は一本のシンプルな線を描くところがスタートです。それがどんどん更新されて実在性のある表現に発展するわけです。ただ、デッサンはゴールがイメージできるのに対して、このステンシル版画で花を表現する制作では形、色、構成、イメージがどこまで発展するか制作する本人でさえ予想できない冒険性があります

 表現の面白さを、中学校1年生という美術の学習の早い段階で経験できていれば、その達成経験から後の活動に良い影響が出ると考えられます。「美術って難しそう」という先入観を持っている生徒は残念ながらこれまで多く見てきました。しかし、絵画表現というものが実は楽しみながらどこまでも発展させられるものであることを体験を通して感じることができれば、きっと先入観や苦手意識に変化も起きるのではないでしょうか。そうして児童や生徒の表現に対するマインドセットを良い方向に導けるようにするのが教師の大切な役割だと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は誰でも簡単に遊べる版画ということで、「ステンシル版画で世界に一つだけの花」という教材を紹介させていただきました。スポンジとコピー用紙、画用紙、ハサミと絵具さえあれば簡単にできるので、美術教育関係以外の形にも是非遊び感覚でトライしてみてほしいと思います。

 それではまた!

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