生徒と教師でつくる美術室 vol.1 〜幾何学形色画用紙で構成遊び〜
今回は生徒と教師でつくる美術室についてお話しします。
新学習指導要領の下、主体的な学習態度の育成がますます強調されるようになっており、この流れがこれまでの教育観を根本的に変えていく時代になりつつあります。授業の主人公は先生ではなく生徒であり、生徒が自ら考え、「学びたいから学ぶ」という学習態度を育めるように、教師は教育をマネージメントすることが求められるようになりました。
これまでの「知識を教える教師と学ぶ生徒」という一方通行的な授業ではなく、生徒は自ら学び、学んだことを実践して、その中でさらに学びを深めていく時間が主な学習時間になります。そして、そのような授業では「教師が生徒から学ぶ」という機会さえ珍しいことではなくなります。
生徒の主体性を刺激するために、私はこれまで美術室の環境改善を行ってきました。教室には生徒の作品のレプリカを展示し、自由に使える道具類を教室の中央に設け、最近はICTの面でも環境整備を行ってきました。その中で、予てより私がモットーにしている「遊び」による学習や仕事の促進に関することを、もっと美術室という空間でできないか考えるようになりました。そして、私は「美術室を更に遊べる空間にする」という今年の目標を考えました。この目標はいくつかある目標の中の一つで、比較的なんとかなりそうな部類なので、今年の最後には実現したことをたくさん報告できるように
美術という教科を授業の時間中に楽しめるように教材準備したり指導方法を工夫するのはもちろんのことですが、究極の理想は授業をしなくても自動的に学習活動をできるようにすることにあります。これを達成するまでの道のりは決して簡単なものではありませんが、少しずつ実現していくことは可能であると信じて、色んなことを試していきたいと考えています。その先に、美術室が教師だけによって改善されていくのではなく、生徒との協力の中でより良い場所に変化していくのではないでしょうか。そのような取り組みは次第に学校のあらゆる空間に波及して、学校を美術の力で良い方向に前進させていくことにも繋がるのではないかと考えています。学校を美術教育でハックするぐらいの心意気がを持ちたいと思います(笑)
使われなくなったホワイトボードを有効利用
今回は、生徒と教師でつくる美術室をテーマに、「幾何学形の色画用紙で構成する遊び」について紹介します。これをしようと考えたきっかけは美術室にあったホワイトボードがほぼ使われない状態になっていたことにあります。最近は黒板さえあまり使う必要がないぐらいにICTを使い倒している(一応黒板も視覚援助のために活用していますが、チョークはほとんど使いません)ので、これまで黒板の補助に使っていたホワイトボードはなおさら使わなくなっていました。このホワイトボードという大きなスペースをより良く使うために何かできないかと考えたとき、生徒が色や形、構成で遊べる仕掛けを作ろうと考えました。それが「幾何学形色画用紙で構成遊び」になります。
これを作成するために色画用紙を四角形や扇形に切り、これらを組み合わせることで様々な形を創り出すことができるようにしました。色画用紙はラミネートして裏面にマグネットを貼り付けしています。
この仕掛けをした時、実はそれほど大きな反応はなかったのですが、少しずつ生徒はパーツを動かしてARTSの部分がHATSになったり、ちょっとした模様が生まれたりといった程度に遊ばれていました。おそらく、勝手に触ってはいけないという「常識」が強烈なブレーキをかけていたのだと考えられます。しかし、ある日の休み時間、突然このパーツが私が担任している生徒の手によって大きく動苦ことになりました。
そうして生まれたのがこの作品です。全てのパーツが余すことなく有効活用されています。この作品を制作している生徒の様子(3人で協力してやっていました)を観察していると、トライ&エラーを繰り返しながら少しずつ色んなモチーフが形成されていました。最初は生徒の陰で作品がどのように変化しているかよく見えなかったのですが、ちょっと目を離してホワイトボードに再び目をやった時には絵が完成していました。その間数分の出来事。とりあえず手が猛烈な勢いで動き、パーツがあっちこっちに移動しているのは何となく見えていましたが、まさかここまでしっかり構成されて現れるとは思いもしていなかったので、改めて遊びに夢中になった時の人間の創造性というものを考えさせられました。あと、手前味噌にはなりますが、私が担任をしている生徒だったからこそ、「動かしても大丈夫」という安心感があったのかもしれません。表現をする上で安心感は非常に重要な要素になります。
レゴブロックのような手軽さ
私自身は幼い時にレゴブロックが家になく、代わりに積み木に夢中になっていましたが、友達の家に行った時はよくレゴブロックで遊んでいました。おそらくレゴブロックにハマったことがある人や、単純にレゴが好きな人は多いと思います。レゴブロックは知育玩具の代表格としてあげられる言わずと知れた世界的なヒット商品で、基本的には幼児が対象ですが、このレゴブロックで遊ぶ感覚、創造性というのは一生役に立つと私は考えています。
レゴブロックは単純な形のパーツが多く、作成者の想像力を自由に働かせて様々な形に発展させることができます。その発展のプロセスは写実的な要素を持ったものもあれば、恣意的に作られたみたこともない形のものなど様々です。そしてどのようなものになったとしても、結局は作成者が満足すればO Kという遊びの気軽さで取り組むことができます。
実は私はこの幾何学形色画用紙を仕掛ける前はレゴブロックを教室に置こうと考えていました。ただ、レゴブロックでなくても同じような要素でできるものがあるのではないかと考え、色画用紙で代わりのものを作成しました。私は結果としてこの選択が良い結果をもたらしたと考えています。なぜなら、単純な形の色画用紙でもこのようなものを表現できるということが生徒に理解してもらえると、色や形、構成を単純なパーツから始めても大丈夫というスモールステップの考え方で表現できるようになります。造形遊びや制作で大切なことは「とりあえず形や色で一歩踏み出す」ことにあります。一歩踏み出してそこから連続的に構成していけば、次第に意味や独特の構成が生まれていきます。
今後の展望
この幾何学形色画用紙でさらにたくさんの生徒が遊べるように、絵を写真でデータとして残し、これをホワイトボード付近に掲示しておくと、違う絵に更新されたとしても痕跡は残りますし、色んな表現ができるということや、他の人もたくさんこれで遊んでいるということが分かるようになるので、黒板に落書きをして遊ぶ生徒がたくさんいるように、このホワイトボード上での遊びも一般化していくのではないかと考えています。そうしてたくさんの絵が創出されていくと、スモールステップが踏めず、なかなか表現ができない生徒が一歩踏み出すためのヒントとして写真として蓄積された絵が役に立つでしょうし、表現が得意な生徒にとっても、単純な形でいくらでも魅力的な表現はできるというマインドセットを持たせることができると考えています。
この試みは実験的なものなので、今後どういった展開を見せるか予想がつきませんが、少なくとも使われなくなったホワイトボードがこれまでよりは有効に活用できていると思います。ここから生徒の創造力を信じて、様々な化学反応が起きることを期待したいと思います。そして生徒との協力の中で、更に美術室を発展させていくことができるよう、様々な角度から工夫していきたいと考えています。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は「生徒と教師でつくる美術室」ということで、幾何学形色画用紙で構成遊びできるホワイトボードについて紹介しました。おそらく今後黒板もICT化の中でこれまでほど使わなくなり、広大なスペースを持て余すことになるのではないかと思いますが、そのスペースがただの寂しいスペースにならないように有効活用していけたらと思います。美術室の中を見渡して、寂しそうにしているスペースがあれば、遊びの魔法をかけることができると良いですね。
それではまた!
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