感情絵日記に1年間取り組んでみて 〜無限の表現とスモールステップ〜

  今回は私が1年間継続して行ってきた感情絵日記についてお話しします。これは1日の感情を振り返ってイメージできたことを基に色と形と構成を画用紙に描きとどめ、感情をまとめる言葉を一言メモ、1週間単位で絵を更新していくというものです。

 これを始めようと思ったきっかけはたまたまtwitter上で海外の美術教師のブログを見たときにVisual Journalingについて書かれているものがあり、イメージを絵で蓄積していくことに創造性を広げる可能性を感じたためです。最近マインドマップなど、絵やイメージを使いながらメモをしていくことが考えを深めたり、創造力を引き出したりする上で有効であることが注目を集めていますが、このVisual Journalingは絵をメインにしてそれにリンクする言葉や文章を書き添えるものなので、コンセプト的には似たようなものなのではないかと感じたので、私もやってみようと考えました。

 ただ、このVisual Journalingをそのまま取り入れても良かったのですが、自分なりにアレンジしてみようと考えました。私は簡単な日記をこれまで約3年継続してつけているので、これと関連させたものにし、1日を振り返ってイメージできた感情を基に絵を描き、日々絵を重ねて、1週間単位で絵を更新するという方法を実践しました。

 これまでにも書いてきましたが、私は普段あまり絵を描きません。美術教師ではありますが、専門は教育学と美学なので、必要に迫られない限り(教材開発など必要に迫られることはよくあるので一般的な人と比べると描く機会はもちろん多いと思います)絵は基本的に描かないスタイルでこれまでやってきました。休日に絵を趣味で描くというのは1年に数回あるかないかぐらいという、美術教師として失格ではないかと思うぐらいに普段絵は描きません。そんな私でも1年間絵日記を継続し、2年目に突入しているので、圧倒的な取り組み易さと言えます。今回の記事を読んで、「私もやってみよう」と思える人がいらっしゃれば嬉しいですし、美術教育の観点からも、子どもたちに手軽に絵に取り組んでもらえるようにするきっかけづくりになると思うので、可能な限りこの感情絵日記の魅力についてお話ししていきたいと思います。


毎日自分の感情と向き合う機会を作ることの意味

 これは日記でも同じことが言えますが、自分の感情と向き合うことで自己理解、メタ認知して自分をコントロールしたり、メンタルを良い状態に保つことに役立ちます。私は就寝前に絵日記と日記をつけているのですが、寝る前に日記を書くことで頭の中を整理することができ、それによって自律神経が整って良い睡眠が得られるという研究結果を以前に読んだことがあり、それ以前から日記はつけていたのですが、寝る前に継続して行うようになりました。この取り組みによる効果のおかげかどうかは分かりませんが、寝つきにくさを感じる日はここ数年間ありませんし、寝起きは毎日スッキリしています。毎日運動する余裕もあって、30代も半ばを過ぎましたが以前より活動量は増えているので、日記を継続していく価値はあるように感じています。

 日記だけでも書く価値はありますが、これに加えて、感情を振り返り、それを色や形、構成に置き換えて絵日記にすることで、言葉(ロゴス)だけでは表すことができない情念(パトス)の部分から自分を表現することができます。当然のことですが、絵日記には普通の日記とは違った利点があると考えています。

 この感情絵日記には感情を忘れないようにするために感情に関連する言葉も書き添えるようにしました。言葉は日本語でも英語でも何でも良いと思いますが、私は英語で普段とは少し違った視点を生かしてメモするようにしています。日記は文字だけなので、どうしても説明的で論理的なものになりますが、それに対して感情に関する絵は抽象的で感性的なものになります。これらが掛け合わされることによってそれぞれを補うことができるため、自分の感情を深く理解し、メタ認知に繋げることができると感じています。メタ認知は新たな行動や計画につながるため、日々メタ認知を生み出す機会を感情絵日記によって作り出すことには大きな意味があると思います。毎日継続していないと、絵もスカスカになってしまうので、一旦継続し始めると止めにくいという構造もあるように感じています。しかし、これが面倒で嫌なことなら地獄でしかありませんが、逆にストレス発散の場にさえなることもあるので継続することは容易なのではないでしょうか。お風呂でイメージを膨らませ、風呂から上がったらサッと1分ぐらいで絵にする。これならナイトルーティーンに入れることは難しくないと思います。


様々な色・形・構成の実践 〜表現のスモールステップ〜

 感情絵日記はメンタルやメタ認知の面での有効性だけでなく、様々な色・形・構成の実践の場として、造形について学習する上でも有効です。1年間続けてみて分かったのは、1年間の中で描き方が何度も変わり、画面構成の仕方や抽象と具象のバランスなど、感情を表現するために様々な試行錯誤を行うことになりました。言葉で感情のバリュエーションを300以上表現することは至難の業ですし、実際にテーマとなる感情はしばしば被っていました。いつか同じようなものを描いてしまうのではないかと思っていましたが、結果的には全て全く違った絵になりました。テーマさえ決まってしまえば、無限の色彩、形、構成のバリュエーションによって唯一のものになります。毎日自分の中から生み出されるものに基づいて表現することで得られる経験値は、答えのあるものを再現するために訓練した経験値以上に、私たちの生きる力になっていくれるのではないかと思いますし、広がった引き出しはアイディアの創出に大いに貢献してくれるのではないでしょうか。感情絵日記 動画



 このことを踏まえた上で、子どもたちに造形教育することは非常に重要ではないでしょうか。とりあえずテーマを適当でも良いので決めて、そこから色を塗って一応絵にしてしまう。極端な話、色のついたパレットでさえも絵として捉えることは可能です。絵を描くスモールステップとして、絵具をパレット上で混ぜて遊んでみるというのは有効なことです。よく絵を描くために絵の具を出したはずが、パレット上でぐちゃぐちゃにして画用紙に絵の具を塗らずに遊んでいる生徒がいますが、あれはあれで大切な造形体験をしていると言えるのではないでしょうか。そのような活動を見ると私は「情動(パトス)に取り憑かれたトランス状態」になっていると感じさせられます。トランス状態が解けて、濁って使えなくなった絵の具を前にして「絵の具を無駄にした!」と嘆く生徒の姿を見るのもある意味微笑ましいものです。しかし、これは本当に絵の具を無駄にしていると言えるでしょうか。事実として100円や200円程度のコストが掛かって何も作品ができなかったことを考えると、それは無駄かもしれませんが、「絵具を通して得られた体験活動」と考えると、このコストは実に低いものであり、決してテーマパークに1万円払って得られた体験と比べても劣るものではないのではないでしょうか。



習慣になれば楽 そのためのコツについて研究する

 よく言われることですが、毎日継続するために習慣化が日記には不可欠です。しかし、一旦習慣づいたらやめることが逆に難しくなるのも習慣の特性です。習慣化したことは他人から見ると「努力している」ように見えるかもしれませんが、当の本人からすると息を吸うのと同じような感覚で取り組んでいるのであり、習慣づいたことをやらないでいると逆に窒息するような息苦しささえ感じてしまうものです。

 習慣化して様々なことを自動化することができると、その分達成できることも増えて自分の可能性を大きくすることができます。昨今教育の世界では「主体的な学習態度」「よりよく生きる人間性」という言葉をよく聞くようになりましたが、これらは学びの習慣化によって、学校だけでなく、普段の生活でも主体性をもって学ぼうとする態度を育成することを目指したものであると思います。そのように考えると、教育者が「習慣化するためのコツ」について語れるようになることが大切なのではないでしょうか。「頑張れ!」「努力は嘘をつかない!」というありふれた言葉に感化されて、子どもたちが色んなことを習慣化できるのであれば、誰でも立派な教育者になってしまいます。教育の専門家である教師だからこそ、「習慣化するためのコツ」について誰もが納得して、実践してみようと思えるような説得力を研究していかなければいけないと感じています。

 これに関する研究や書籍、動画はたくさんあるので、これらを子どもたちに勧めたり、見せたりするというのも有効でしょう。しかし、それでは子どもたちからすると、「そういう人たちもいる」と感じて他人事になってしまいかねません。大切なことは身近なところに習慣化を実践する人がいること、このことに目を向けさせることです。

 習慣化の実践者として頭に浮かび安いのが、家庭で毎日料理を作ったり、掃除や洗濯をしたりして普通に生活できる状態を用意してくれる人の存在だと思います。そういったことは当たり前であり、それこそ習慣化しているため子どもたちは目を向けることを忘れがちですが、実は習慣化すれば面倒だと思うようなこともそれほど苦しくなく毎日継続できることでしょう。そして周りの人に対する目の向け方が変わることになるかもしれません。

 そのように考えると、学校の友達や教師からも習慣化について学べる要素がたくさんあることでしょう。毎日継続して勉強や部活動に励んでいる生徒、日々授業を工夫して魅力的な授業を実践することに努める教師、そういった姿に目を向けさせた上で、習慣化するためのコツを伝えることが重要だと思います。そのような習慣化のコーディネートとファシリテートの役割が教師にはあるのではないでしょうか。

 習慣化するためのコツは詳しいことは書籍などでいくらでも調べられますが、私が習慣化するために意識していることを今回は紹介して今回の記事を締めくくろうと思います。

 主に4つ、

①取り組むタイミングと場所を決めておき、ウィルパワーを使わないようにする。

②本当にやりたいことをやる。あまり背伸びせずに、できる範囲のものでやる。

③多少手を抜いても大丈夫なレベルで継続できることをする。

④「遊び」の一環になるものをする。⇦結局は「遊び」こそ全て!

 といったものになります。何か参考になるものがあれば嬉しいです。


最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は感情絵日記に1年間取り組んで見えてきたことを基にして、自分自身と向き合う機会を作ることの意味、様々な色や形、構成をスモールステップで表現すること、そして習慣化についてお話しさせていただきました。

 これからも感情絵日記を継続しながら、他のことにも関連させて、さらに発展させていきたいと考えています。また来年、2年間感情絵日記を継続した暁には記事を書けるように習慣に力に頼っていきたいと思います。また、今回の内容を読んで、「自分もやってみよう」と思われる方や、美術教育について何かしらの生かせるポイントがあったと感じてもらえる方が居られたのであれば嬉しいです。

 それではまた!

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