造形遊びの可能性 〜段ボールパネルを創造の場に〜
今回は大きな段ボールパネルを活用して造形遊びすることの可能性について考えてみました。これまでにも段ボールに協働で色を塗って造形遊びするということは美術の授業外でやったことがあるのですが、美術の授業の一環として取り組み、とても大切な発見をすることができたと感じています。
私が勤務する倉敷市では毎年2月に倉敷っ子美術展という美術科で取り組んだ作品の展覧会があり、展示用に段ボールパネル(90cm×180cm)が活用されます。展覧会で使った段ボールパネルは学校にそのまま提供されるので、これを活用して造形遊びと共同制作を掛け合わせたものに取り組んでみました。
きっかけは「大きな作品に取り組んでみたい」という生徒の振り返り
これをしようと考えたきっかけが、先日課題の個人制作が終了した生徒に授業の残り時間で共同制作に取り組んでもらっていたのですが、4人で協働で制作したのがとても楽しかったそうで、振り返りで「今度はもっと大きなものに取り組んでみたいです!」と書いていました。なので、展覧会で使った大きな段ボールパネルを作業机いっぱいに広げて自由に協働で取り組めるようにしてみました。振り返りで得られる生徒からの要求は授業内容をアップグレードする上で貴重です。
課題の制作が終わって、もう一作品制作するには時間が足りない、そういう授業の微妙な余り時間がある場合も多いのではないかと思います。私は、そういう時間はスケッチブックに自由に絵を描いたり、教室にある素材を自由に使って自由制作、造形遊びをしたりできるようにしてきました。しかし、基本的に個人制作が中心であり、共同で制作してもこじんまりとしたものが多い傾向が見られました。なので、私はもっと新たな体験、強烈な刺激のある活動を探してきました。今回大きなパネルを活用して協働で取り組んでもらったことで造形遊びの新たな可能性に気がつくことができたと感じています。
大きな段ボールパネルに自由に絵を描いて良いということを知った生徒は伸び伸びと筆を走らせたり、手に絵の具を塗って描いたり、絵の具をぶちまけたり、スパッタリングを使ったり、造形遊びをしながら画面を塗りつぶしていました。最初は躊躇いが見られますが、一度誰かが描いてしまえば堰を切ったように次々に手が加わっていました。
面白いもので、造形行為は瞬く間に発展していきます。1人で造形遊びをしていてもそれなりに次々と行為は発展していくものですが、複数名の協働になると、発展が非常に早いです。10分もすれば多様な工夫で構成された画面になっていました。かなりグロテスクな造形もありましたが・・・。それも子どもたちの表現力の要素と考えなければいけないと思います。
そんなパネルは授業が終わっても作業机に放置。当然次に来るクラスはこのパネルを目にして、「何これ!?」と驚きの反応をします。そして、また同様に時間の余った生徒はこのパネルで造形遊びをして画面が発展しました。
鑑賞と制作が一体化した造形遊び
大きな支持体を活用して協働で取り組んだり、他の生徒が取り組んだものの上にさらに表現を重ねていく生徒の取り組む姿を見ていて、改めて考えたことがあります。それは、このような造形遊びとしての側面が強い活動は鑑賞と制作が一体化しており、表現者が新たな視点を見つけ、創造力を開放するきっかけになるのではないかということです。他者の表現したものや目の前で造形する姿を刺激にしながら自身の表現活動を発展させていく。ここに造形教育の大きな価値があるのではないでしょうか。
美術の授業では「評価」をするために、個人の制作の完成度が重視されがちですが、忘れてはならないのは、「評価」のために美術の授業があるわけではなく、「美術教育の意義・目的」「学習目標」を達成するために美術の授業があるということです。そうであるなら、造形遊びで得られた色や形、素材の活用、造形的視点を無視することはできないと思います。
ただ、「評価」は「学習目標」の到達度を測る上で当然欠かせないことです。そのことを考えると、造形遊びをさせただけでは何を学び、達成できたかを判断することが困難です。そもそも何を造形したのか作品としての情報もないため、評価することは不可能と言っていいと思います。造形遊びが大切であることを認識しつつも、こういう面があるゆえに授業で積極的に取り入れることを難しくしているのかもしれません。これまで造形遊びは授業でとり入れられつつも、制作に向けたウォーミングアップ的な役割を担っていることも多かったのではないかと思います。
しかし、そんな状況を救う方法がGIGAスクール構想によって実現しました。ICTを活用して写真で記録をとり、Googleスライドなどでポートフォリオにもなる振り返りシートを活用すれば、生徒がどんな活動をして何を学習したのかを蓄積することができます。これが評価の対象になれば、「完成作品」にとらわれずに評価することが可能になります。そのために到達度を暫定的に示すルーブリックの活用も効果的だと思います。生徒からすると、造形遊びしているうちにルーブリックによる評価が上がっていくわけですから、安心感をもって取り組むことができます。
おまけ パネルは文化祭の展示でも活躍
私の勤務する中学校では先日文化祭が開催されました。実は転勤して今年で3年目ですが、過去2年の文化祭はコロナによる規模縮小で行っていたため、美術科の展示は無しで、勤務校で初めての作品展示になりました。しかも展示スペースがかなり限りられていたり、過去に勤めていた学校では沢山利用できた防球ネットが4つしかないため展示の環境的に非常に難しい状態でした。
そこで造形遊びで手が加わった段ボールパネルを展示スペースの拡大に活用することにしました。ただの段ボールではなく、遊び心の感じられる造形が加わっているので、こういう活用方法もありではないかと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は大きな段ボールパネルを活用して造形遊びすることの可能性について書きました。遊びと学習の関係性についてはこれまでも研究してきましたが、やはりこの問題は深める価値が大いにあると改めて考えることができました。
これからも段ボールパネルという場で造形遊びを継続していきたいと考えていますので、また追加報告できればとお思います。
それではまた!
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