「教育セミナー in おかやま」で発表してきました

  今回は10月21・22日に岡山コンベンションセンターで開催された「第6回教育セミナー in おかやま」に実践発表者として登壇してきたので、その内容について紹介させていただきます。内容としては過去にこのブログで紹介してきたものばかりですが、発表に際して端的にまとめることができたので、それを基に本記事を書いてみました。


1人1台端末 GIGAスクール構想の可能性



 私は学校の中で情報教育担当をしていますが、元々ICTが得意というわけではなく、普通に使っている程度でした。授業でも2年前までほとんど使うことがないという状態でしたが、いざ立場的にICTを使わざるを得ない状況になってGoogle Workspace for Educationを活用してみると、その可能性の大きさにすぐに気がつくことができました。

 まだまだ活用には不便さを感じることも少なくはありませんが、「こんなことができたらいいな」と思ったことはほとんどの場合は少し勉強すれば実践に移すことが可能です。動画の活用や考えを共有する協働学習、生徒の主体性でどこまでも発展する学習。こういったことがGIGAスクール構想によって実現した1人1台端末で一気に可能になりました。このGIGAスクール構想はまさにSociety5.0と呼ばれるAIとデジタルによって生活の基盤が変化する時代の象徴であり、そういう社会の変化を見据えて教育が行われなければいけないというのは、新学習指導要領の内容でも強調されていることです。


効率的な知識・技能獲得と発展性のある思考・表現活動

 GIGAスクール構想によって、これまでとは比べ物にならないレベルで効率的な知識・技能獲得が可能となり、それによって発展性のある思考・表現活動も見られるようになりました。このような学習を実現するために、大きく以下の3つのポイントでこれまで実践と研究を進めてきました。



 これらは教師が「教える」ことメインではなく、学習を「コーディネート」「ファシリテート」するコーチングの側面があります。ここからは、これら3つのポイントについて具体的に説明をしていきます。




 美術の授業では生徒一人ひとりの想像力や理想を引き出し、それを平面や立体で表現することになります。写実的に表現したい生徒もいれば、抽象表現を好む生徒もいます。ルールや型にはまったものを好む生徒もいれば、そういったものを破壊して新しい世界を表現しようとする生徒もいます。発想が膨らめば膨らんだ分、表現の幅は広がるため、教師1人で知識や技能を教えるのは困難となります

 しかし、1人1台端末によって、各々が必要な知識や技能をGoogleクラスルームにアップされた分かりやすい資料や動画を個々が必要に応じて利用できるようになりました。これによって、生徒は多様な表現を吸収しながら作品を発展させ、教師の想像を超えるような魅力をもった作品が見られるようになったと感じています。生徒はこちらが教えなくても知識や技術をミックスさせて面白い表現を発見していきます。


 知識・技能の獲得という点ではGoogleフォームを活用した問題も非常に有効で、デジタルならではの見やすい資料と、フィードバック機能による具体的な解説で快適に問題に取り組むことができます。

 昨年はGoogleフォームでテストを行いましたが、テスト対策問題もGoogleフォームで作成し、生徒は何度も問題に取り組み、知識の定着を図っていました。興味深いのが、普通ならテスト勉強を何度も取り組むというのは多くの生徒にとって楽しいことではないはずですが、データを見てみると、9割以上の点が出ているのに満点を取るまで何度も取り組む生徒が少なくなかったことです。問題に取り組むことが一種のゲームのような感覚になっていたようで、生徒からは「楽しかった」「ハマった」という意見も出ていました。

 このように、Googleクラスルームに有効な資料をアップしたり、知識が定着しやすい問題を設定したりして、知識と技能が身につくコーディネートをすることがGIGAスクール構想によって実現できるようになったのは、これまでの教育や教師の指導のあり方を変える非常に大きな変化だと思います。


 知識・技能の獲得という点でレポート作成はテスト以上に有効であると私は考えています。知識をただ覚えてテストで間違えずに答えるだけでは生きた知識とは言い難いですが、知識を活かして思考するレポートは深い学びを可能にします

 これまでは紙のレポートに取り組んでもらっていましたが、最近は紙とデジタル(Googleスライド)の選択制にしているため、デジタルレポートに取り組む生徒が増えてきました。

 デジタルレポートの魅力は容量に制限のある紙のレポートと違い、主体性のままにどこまでもレポートの容量を増やすことができるということです。まるで大学生の研究のようなレポートを作成する生徒もいます。デジタルレポートは画像の貼り付けや画面の編集が楽で、動画を挿入することも可能ですし、実際に作成した作品の写真を貼り付けることも可能です。

 授業で学習した内容についてさらに詳しく調べ、関心をもった事柄をレポートにすることで、知識面での個別最適化が図れますし、それによって思考・判断・表現や主体的な学習態度が促進されます


2.情報共有と協働作業


 Googleジャムボードを活用して、めあてとまとめ、授業の内容を見られるようにすると、これまで黒板に書いたり掲示したりしていたことが全てジャムボード上に収まるようになります。ジャムボードは20ページまで使えるので、単元内容全てをジャムボード上に予め貼り付けておくと、生徒は見通しを持って学習に取り組むことが可能になります。欠席をした生徒もジャムボードを見れば内容が分かるため、非常に便利です。



 鑑賞の授業でもジャムボードは強力です。鑑賞では自分の感じ方だけでなく、他者の考え方にもたくさん触れて、世界観を広げる経験をすることが大切です。ジャムボードでは生徒が気軽に意見を投稿できるため、付箋の色の使い分けなどを明確に示す表示を入れておくだけで思考活動が自然と発展していきます。



 道徳でもジャムボードは有効で、これまで意見がなかなか上がらなくて苦労したことがある先生も多いと思いますが、発問とレイアウトの工夫をしておけば、後は上がった意見に授業者がしっかりとリアクションをとって(なるほど!、どういうこと?、そういう考えもあるか!)、生徒をのらせることで自然と意見が広がったり深まったりします。このように、教師は生徒が気持ちよく学習活動できるようにファシリテートしながら、考えと気づきを共有していきます。こうすることで、言語活動が苦手な生徒は上がった意見を参考にして自らの考えを表現できますし、元々言語能力が高い生徒でも、多様な考えを吸収して自らの世界を広げることができます。



 情報を共有するというのは大変な可能性を持っており、お互いの学習過程という情報を共有できるようにすると、アクティブな学習が見られるようになります。私は授業の中で注目すべきだと感じた作品の写真を生徒の許可のもと撮影し、Googleスライドにアップして全クラスの生徒と共有するようにしています。最近はクラスごとにスライドのページを分けて、各クラスでどのような制作が行われているのか分かりやすくしています。

 魅力的な工夫をしている生徒の制作過程が見られることは生徒にとって良い刺激となっているようで、他の生徒がどんな工夫をしているのか興味津々でこのスライドを見て、自身の制作の参考にしています。そうしてインプットとアウトプットのサイクルが回ると、どんどん新しい工夫が生まれ、それがまた共有されることで他の生徒が参考にするという、良い循環が生まれています

 お互いの活動から学び合い、アクティブに学習することは楽しい体験ですし、多様で非日常的な体験を伴った活動は記憶に強烈に刻まれ、学習活動のモチベーションにつながるという手応えを感じています。




 振り返り活動にGoogleフォームやスプレッドシートを使うのも手軽で良いですが、Googleスライドによる振り返りには発展性が大いにあります。スライドなら作品写真や参考にした画像、リンク先などをメモしたりストックしたりでき、学習活動を丸ごとポートフォリオにすることができます

 教師からのコメントを画像付きで返すことも可能であるため、フィードバックも充実します。質問があれば必ず返答するようにしていますが、同様の疑問は他の生徒も持っていると考えられるため、先ほど説明した制作共有スライドに質問と返答をアップするようにしています。


 このスライドをGoogleクラスルームで配信しているわけですが、最近はルーブリックを設定して指導と評価の一体化をより確実なものにしています。

 ルーブリックで生徒の達成状況を具体的に示し、学習評価することができるようになったことで、学習過程そのものを評価することができるようになりました。これまでは過程よりも作品を評価する傾向が強かったですが、過程に重きを置くことで、生徒は安心してチャレンジをすることができるようになり、最後の最後まで表現を追求する姿が見られるようになりました。



 GIGAスクール構想によって教師の立場と役割は大きく変化していきます。分かりやすく教えるというのは教師のスキルとして当然必要ですが、1人の教師では限界があります。これからは「教える」ことよりも、個別最適化を可能にする授業コーディネート力、そして生徒の取り組みを見取り、活発にするファシリテート力がプロの教育者として必要になると感じています。

 教師の立場や役割が変化する今後に向けて、私はPBL(問題解決型の学習)やCBL(チャレンジ・ベース学習)の体系化を図っていきたいと考えています。生徒がモチベーションをもって主体的に学習活動に取り組み始めると、教師のイメージを超える学習が当たり前のように見られるようになります。そういう学習をしっかりと体系化することが主体的な学習者の育成、そしてSociety5.0という時代を自分らしく創造的に生きていく人材育成につながっていくことと思います。そして、これこそGIGAスクール構想の可能性であると考えています。



 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は「教育セミナー in おかやま」で発表した内容を基に、記事をまとめさせていただきました。今回の発表に向けて準備をする中で教師の仕事は主体性に火をつける仕掛け(Gateway)作りであるということを改めて考えることができたと感じています。これからも学習者の可能性を信じてICTを活用したり、主体的な学習活動につながる活動の機会を提供したりしていけるように研究と実践に励んでいきたいと思います。

 それではまた!

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