ときめき溢れる生活と美術教育
今回は生活に必要なときめきと美術教育の関係について、近藤麻理恵さんの「人生がときめく片づけの魔法」を読んで参考になったことに触れながら、私の考えをまとめてみました。
前回の記事でも少し近藤麻理恵さんのことについては触れましたが、「人生がときめく片付けの魔法」は、読んだ人に大きな影響を与える本だと思います。写真は「人生がときめく片づけの魔法2」ですが、もちろん「人生がときめく片づけの魔法1」も読みました。今は実家の母に貸出中です(笑)
このシリーズ、以前からYouTubeなどで近藤麻理恵さんのことや「こんまりメソッド」と呼ばれる片付け法については知っているつもりでしたが、改めて本を読むと、片付けに対する認識が深まり、片付けせずにはいられなくなるほどでした。想像以上にこの本の影響力は大きかったです。
巷に溢れる自己啓発本のように抽象的な世界だけで思考を巡らして満足した結果、何も実践に移せないという現象はよくあります。しかし、この本は、読んでいると片付けしたくてたまらなくなり、自然と行動に移してしまうぐらいマインドコントロール力が強いです。今世紀世界で一番売れているシリーズの一つは侮れません。
近藤麻理恵さんの片づけ法「こんまりメソッド」は、具体的な片づけや収納についても説明がありますが、どちらかというと哲学や思想に関する側面が大きく、強くマインドセットに働きかけるところがあるのが特徴だと考えています。それゆえに、豊かな情操を養うことを目的とする美術教育に通じる部分が大いにあると考えています。
ときめくものを身の回りに
満足感の高い生活をするために、自分にとってときめくものを身近な状態にしておくことが重要な要素の一つであることは間違いないでしょう。逆に言うと、自分にとってときめかないものはなるべく避けたいところです。しかし、身の回りを見渡すと、意外にときめかない物が溢れているかもしれません。
私自身、これまで赴任先の美術室や準備室を始めとした自分が関わる様々な部屋や場所を片付けして快適な場所に変えてきた自負がありました。しかし、「人生がときめく片づけの魔法」を読んでいると、自分の片付けに対する考えが中途半端であり、もっとときめく場所づくりができるのではないかと思わされるようになりました。実際に自宅の空間を見渡すと、ときめかないものが次々に目に入ってきました。
こうして自宅で自分の部屋やクローゼットの片付けを始めると、次から次に処分の対象となる書類や本、服、道具などが見つかりました。そしてそれだけでなく、昔もらったプレゼントで開封していないものや旅行先で購入した思い出の品、かつてときめいて使っていたものなど、たくさんの眠っている品が見つかりました。
片付けは「ときめくもの」「ときめかないもの」を自己認知するイベントであり、実際に触ってみることを通して抱く印象が不可欠と言うことを近藤麻理恵さんは述べています。本や服なども一旦全て収納から出して、一つ一つに触れながら印象を確認するのがこんまりメソッド。これは美術教育にも通じる話で、素材や表現方法は実際に自分の手で使ってみなければ、何が良いか分からないものです。
実際に自分の部屋を片付けていると今でもときめくものがたくさん見つかり、キャンドルランプや新婚旅行で購入したカロチャ刺繍など眠らせるには勿体無いものがありました。こういったものは大切に取っておいても使われないままで、場所を圧迫するだけです。そういうものが一つや二つぐらいならスペース的には問題ないかもしれませんが、塵も積もれば山となります。「使わずに取っておこう」というマインドセットは危険で、ときめくはずの物まで機能不全にしてしまい、身の回りの環境を悪化させます。ときめくものは迷わず使い、その役目が終了するまで重用することで、私たちは生活の満足度を高めることができると考えられます。
封印から解放されたキャンドルや刺繍などを活用すると机の上がとてもムーディーになりました。書斎の作業机なのでものがたくさんありますが、こういったものもキャンドルの光が当たるとすごく印象が変わります(笑)。ちなみに私はこの書斎で風呂上がりから就寝までの時間は本を読んだり日記をつけるなど、リラックスタイムを過ごすようにしています。
ときめき溢れる美術の学習にするために
こんまりメソッドの視点は情操を養うことを目的とする美術教育においても重要であると考えています。自分が理想とする形や色、構成、素材、イメージなどと向き合い、表現したり鑑賞したりするのが美術の学習であることを考えると、自分にとってときめくものと向き合い、生活を豊かなものにしていくこんまりメソッドにはかなりの共通点があり、参考にするべき視点があります。
こんまりメソッドは生活に最低限必要なものだけで暮らすミニマリストの考え方とは似て非なるものです。近藤麻理恵さんと言えば断捨離のイメージが強いかもしれませんが、本を読んでいると、基本的には「ときめくものは残す」という考え方です。つまり、最低限の生活に必要ではないものも、心の満足度を上げるためには残し、しっかり活用することを勧めています。
その典型と言えるのが、クローゼットの中に好きなポスターを貼ったり、思い出の品を飾るというものです。部屋はものを少なくしてのんびりくつろげる快適空間にしつつ、クローゼットを開けると別世界が広がってテンションアップ。そんな空間の特性を生かした2つの幸せを感じられる「仕掛け」がとても素敵だと思います。このような考え方は、美術で学習するアート思考(最低限の生活には不要でも、感情や情緒を豊かにする思考)とデザイン思考(ものごとを最適化し、快適で便利な環境をつくる思考)の絶妙なバランスの上に成り立っていると考えられます。
どうすればよりときめく作品やデザインになるかを考え、実際に手を動かすことを通して発見し、そこからさらにより良いものにしていく。そういう営みが美術の学習であり、美術教育の醍醐味だと私は思います。しかし、美術教育には根本的な問題があります。それは「授業時間が少ない」ということです。週に1時間程度では、深いレベルで美術を学習し、アート思考やデザイン思考の重要性について語れるようにはなかなかなりません。
そのように考えると、最近注目を集めているSTEAMやPBLといった総合的な視点が求められる学習観は、美術と社会のダイナミズムが実感できるため、美術教育にとってはプラスと捉えることができると感じています。しかし、この学習方法でも、大抵の内容は自分の人生に直接的に働きかけているわけではなく、授業の中での取り組みで終わってしまうことがほとんどです。生活を変えるというレベルには到底及ばないと言えるでしょう。
それに対して、こんまりメソッドは自分自身の生活にコミットするものなのでより影響力が大きいと考えられます。生活と仕事(勉強)をする際の判断軸として「ときめき」があれば、人生そのものを美術的に捉えることもできるようになり、それは自然と美術の学習の充実にもつながります。
美術の教科書にも身近な美(自然のグラデーションや水道の蛇口の反射など)に目を向けることの大切さを取り扱ったページがあります。生活全般を美術の教科書と捉えることができれば最高ですし、そういうことは頭の中では多くの人もなんとなく分かっていることだと思います。しかし、ここには実際に手を動かすという部分が欠けています。それに対して、片付けという手を動かさなければ始まらないこんまりメソッドは美やときめきと向き合う機会を能動的につくり出すからこそ、その価値が多くの人に影響を与え、マインドセットを変え、行動を変えてときめく人生にしているのではないかと思います。
近藤麻理恵さんの本を読んだことは美術教育を考える上でとても良い機会になりました。GIGAスクール構想や主体的で対話的な深い学びなど、教育を変容させる重要事項はたくさんありますが、「こんまりメソッド」も情操面では欠くことができない要素として考え、美術教育に励んでいきたいと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は「ときめき溢れる生活と美術教育」ということで、近藤麻理恵さんの「人生がときめく片づけの魔法」から美術教育に参考にできることを述べました。何か参考になるものがあれば嬉しいです。
これからもたくさん本を読んで、実践に生かせそうなことがあれば本の紹介もしていきたいと思います。
それではまた!
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