義務教育最後の美術の授業でジャムボード協働学習
3月も後半に入り、中学3年生たちは卒業していきました。私自身、3年間クラス担任と美術の授業を全クラス担当した学年だったので、彼らの授業がもうないことに物凄く寂しさを感じていますが、彼らが卒業後も美術を生活のさまざまな場面で生かしていってくれるものと期待しています。
今回は3年生最後の授業で行った作品鑑賞会での協働学習について紹介します。最後は「美術の可能性とは」ということでGoogleジャムボードで意見共有をしました。ここに掲載している画像は授業で実際に使ったものをベースにこのブログ用に調整したもので、1クラスだけでここまでギシギシに様々な意見が出ていたわけではありませんが、どのクラスも十分に素晴らしい考えの共有ができていました。
今回この協働学習をしたことで改めて教育と美術の可能性について考えることがあったので、記事を書いてみました。
充実した制作体験ができるように
3年生の最後の制作はスクラップブッキングかボックスアートで3年間の思い出を詰め込む卒業制作に取り組みました。上のジャムボードでの意見共有はこの制作の作品鑑賞会でのものです。この制作ではB4木製パネルをベースに、生徒たちは思い出の品や写真、これまで学習してきた様々な知識や技術、デコレーションに活かせる様々な材料を活用します。
今回生徒の作品を掲載することはできませんが、イメージを掴んでもらえるように私の試作品からどのようなものであるか想像してもらえたらと思います。私自身、試作品とはいえ思い出の詰まった海外旅行をテーマにしているので頑張って制作したのですが、生徒の作品はこの様な試作品よりも圧倒的に熱量のあるものがたくさんありました。生徒からは学ぶことが本当に多いです。
スクラップブッキングは写真を飾るクラフトですが、B4木製パネルを活用するため、どちらかというとボックスアート的な要素が強くなります。中には写真を使いたくない生徒もいるため、ボックスアートとしても制作できるようにしています。
3年間の思い出を詰め込むために生徒たちには様々な材料を持参してもらいます。修学旅行のパンフレットや学級通信、総合体育大会のトーナメント表、委員会の任命書、過去の美術作品、エヴァンゲリオンやガンダムのプラモデル、お菓子の箱、キーホルダー、壊れたモーター、部活動Tシャツ、レゴブロック、ランドセルなど、もう使わない物でなんとなく捨てにくい、しかしいずれゴミとなって捨てられる運命にあるものは迷わず持ってくることを勧めました。この他にもビーズや毛糸、綿など作品に生かせる材料も各自で用意し、様々なものを活用して最高の卒業制作になるよう取り組んでもらいました。
多くの生徒は3年間の思い出を詰め込んで意欲的に制作を進めていました。その一方で、この制作は非常に自由度が高く創造性が求められるものであるため、生徒の中にはなかなかアイディアが出せずに制作が進まない生徒もある程度いました。3年間授業を担当して自由に制作を遊ぶ力を育めなかったことに自分自身反省するばかりですが、そんな生徒でも自分の力で少しでもパネル上に工夫ができれば一歩前進と考えて制作をサポートしました。そんな甲斐もあってか、最後の最後に「美術の面白さに気がつくことができた」と言う生徒もいて、いくらか心が救われる思いがしました。全ての生徒が主体的に美術を学べるようになるまで美術教育の研究と実践は続けていきたいものです。
充実した制作時間を生徒が送れるようにするためには、制作内容が自分事になるようにすることが大切で、そのために生徒の作りたいものをよく理解し、多様な想いに応えられる柔軟な内容と指導が必要と考えています。生徒の学習体験がより良いものになった分、まとめや振り返りでのメタ認知も充実します。逆に体験の不足した状態で言葉だけインプットしてもそれは確かな学びにはなりません。
作品鑑賞会と3年間の美術を締めくくる協働学習
〜ジャムボードのキーワード収集力〜
3年間の最後の授業では卒業制作の鑑賞会を行い、お互いの工夫や作品に込めた想いを共有して楽しみました。そして、最後に3年間の美術の学習を振り返って「美術の可能性」について考え、Googleジャムボードで意見を共有しました。
「美術の可能性とは」という質問をされたらあまりにも抽象的な内容なので、どのように答えて良いか困るかもしれません。説明するにはあまりにも壮大な内容です。しかし、生徒からは次々に言葉が出てきました。しかも美術の核心をつくようなものが少なくありません。刺さる言葉のオンパレードでした。ジャムボードに並んだ言葉を見ていると美術の可能性についてイメージが自然と湧いてきます。これはジャムボードならではのキーワードの収集力にあると思います。同様のことはGoogleスライドなどでもできますが、意見を出すだけなら匿名性が高く、付箋の操作もしやすいジャムボードの方が手軽で、短時間でキーワードを集めるのであればジャムボードは非常に有効です。ちなみに、今回私が特に印象的だったのが「ブラボーカンパニー」という言葉で、この言葉自体は検索すると存在しますが、美術という現象を表す言葉として非常に的を射るものであるように感じました。
普通の感想文を集めた場合、説明的になってしまい、一つの言葉に対する印象が薄くなってしまいます。それに対してジャムボードの付箋は最大121文字の文章も入力できますが、基本的には短文や単語で表現することに適しています。それゆえに、キーワードが強調された印象的な意見を集めることに繋がります。この点はTwitterと似ていますね。ジャムボードは一つの画面で印象的な言葉を埋めることができるため、ある意味Twitter以上に強力な意見共有のツールになります。
3年間の美術の学習の締めくくりにジャムボードを使わずに紙の付箋や黒板に意見を書いて集めるのも良い方法だと思います。デジタルかアナログかに関しては個人的な好みがあると思いますし、どちらが良い悪いの話で片付けられるものではないと思います。GIGAスクール構想を推進する立場である私ですが、今でも紙媒体を使うことはよくあります。ただ、多様な意見を短時間で集め、そこからさらに発展的に意見を集めていくのであれば、共有力の高いデジタルのジャムボードが有効だと思います。
学習のまとめは学習者がする
これまでは学習内容が明確に決められていて、それをいかに理解することができたかが問われる傾向が強かったと言えます。そのため、学習のまとめは授業者が主に行う予定調和的なものが多かったと思います。授業内容がただ知識を習得して覚えたり、理解したりするだけなら授業者が要点を簡潔にまとめることもできます。
しかし、PBLなど、生徒自身が主体的に課題を設定して学習する活動がメインになってくると、学習の内容が多様性するため、まとめの内容を授業者が事前に予想することが困難になります。しかし、このような状況だからこそ、多様な考えを共有して深い学びができるようになり、教師も生徒から学ぶことさえ可能になります。
教師の役割は、これまでのような知識を教える立場から学びを調整したり、促進したりする立場へと劇的に変化しようとしています。生徒が学んだことを協働的にまとめ、学習活動が充実するようにジャムボードやスライドなど、「共有」「協働」に優れたデジタルのツールも有効活用していきたいところです。
教育の専門機関である学校は、これまでは生徒に知識を教授する場としての側面が強かったといえますが、AIを活用したアダプティブラーニングの登場によって今後は大きく変わることが予想されます。学校だからこそできる学習体験を充実したものにし、協働的な学びの機会を設定して学びを深めたり、印象づけたりすることによって、子どもたちだけでなく、教師にとっても学ぶことの魅力を実感し、生涯に渡って学びたいと思うモチベーションを育てることにもつながることでしょう。今回、美術の可能性について生徒にまとめてもらった言葉を見ているとそんな希望を感じることができました。生徒の学びに向かう力を信じて良い学びの場を調整する新しい時代の教育。この仕事の魅力について考えを深める機会にもなったと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は義務教育最後の授業でジャムボードを活用した協働学習を紹介させていただきました。GIGAスクール構想も来年度から3年目になります。これまではICTの使い方を探る感じが強かったのですが、それぞれのツールの持ち味が実践を通してかなり明確に分かるようになってきました。春休みの間に、来年度の活用に向けて良い準備をしていきたいと思います。
それではまた!
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