新年度のスタート 〜生徒の主体性について徹底的に向き合う1年に〜


  桜が満開を迎え、4月に入って早くも散り始めていますね。旬の時期はあっという間に過ぎるということや、これまでお世話になってきた人々とお別れして、次のステージに移っていくことに少々感傷的になってしまうこの時期ですが、こういう心の動きがあるからこそ、また頑張っていこうという気持ちにもなれるような気がします。

 今回は2023年度を迎えるにあたって、自分にとっての教育活動の勝負どころについて考えてみました。以前にも2023年の抱負について元旦の投稿で書きましたが、今回の内容は私のメインの仕事である美術教育について今年度の展望をまとめました。


生徒の主体性を刺激する仕掛けを徹底

 以前は、しっかり取り組める生徒は「良い」、逆に意欲的に取り組めていない生徒は「悪い」と考える傾向がありましたが、そのように考えても授業や指導は改善しません。先日、最後の最後に美術の面白さが分かったと言って卒業していった生徒がいました。この生徒が美術を面白いと感じた要因は、課題の制作が終わった後、残りの時間で自由制作をしていて満足のいく制作ができたことにありました。それまでの制作の状況と比べて明らかに主体性を発揮して取り組んでいる姿が見られ、作品が完成した際に「制作してどうだった?」と私が聞いたら、「美術面白い」の一言。この言葉は大変嬉しかったと同時に、これまでの自分の柔軟性の不足した指導と教材に対して深く反省することになりました。

 本来、教師の指導や教材は生徒が主体性を発揮して取り組めるようになるための「仕掛け」でなければいけませんが、その生徒には私の「仕掛け」が機能せず、自由制作で初めて主体性に火がついたということなので、その生徒が美術をそれまで楽しいと思えていなかったのは私の責任です。唯一救われた思いがしたのは、その生徒が自由制作で活用した素材は廃材コーナーに集めていた木材や自由に利用して良い美術室の道具類であり、これらは私がこれまで美術室の環境改善の中で自由に生徒が使えるようにしたものであり、それがあったからこそ、その生徒の自由制作にもつながったということです。指導や教材云々ではなく、魅力的な制作環境を用意することの大切さ、そして生徒がやりたいようにやれる状況をつくりだす寛容な姿勢がいかに大切であるかを考えるきっかけになりました。

 授業では学習目標を達成できるように教材を利用します。これが逆に教材からスタートしてしまうと、その教材が合わない生徒は学習目標を達成することが難しくなってしまいます。分かりやすいです教材を例えるならデッサンがありますが、これは立体感や質感を表現するための知識と技能を獲得するためにデッサンという教材をするのであり、このデッサンのモチーフが紙コップや直方体などに限定される必要はありません。大切なのは立体感や質感を表現するために生徒が最も主体性を発揮して取り組める柔軟性を教材にもたせることにあると思います。教材に縛られて学習目標が達成できないのでは本末転倒です。

 そのように考えると、教材は生徒の主体性が反映させられる柔軟な設定にすることが必要になります。色面構成であれば、定規やポスターカラーで制作するだけでなく、デジタル作品も選択可にするなど、生徒の多様性を最大限尊重したものにすることが必要になると思います。

 学習環境を整え、生徒がやりたいと思えるように仕掛けをつくる。今年はこの部分を徹底的に研究して授業に反映させていきたいと思います。


スモールステップで知識と技術を身につける教材設定

 生徒の主体性を重視しつつも、基本中の基本と言えることは身につけられるようにして、その上で自ら判断して制作ができるようにすることが大切です。造形遊びは大切ですが、より高いレベルで幅広い表現をするためには知識や技術の獲得は軽んじて良いものではありません。

 ただ、この知識や技術の獲得のハードルが高くなり過ぎると、制作に対してモチベーションを上げることが難しくなりかねないため、スモールステップで手軽に達成でき、工夫次第でいくらでも発展させられるような取り組ませ方が必要になります。

 例えば赤黄青の三原色を混色すれば基本的な色相は表現可能で、色相環を作ることもできます。ただ、これが色相環を作ることに重きが置かれて「上手に」混色で表現しなければいけないという縛りが生まれてしまうと、上手く色が作られない生徒にとっては大変な作業になってしまいます。学習の目標が混色によって多様な色が作れるようにするというのであれば、色相環や完璧な混色に縛られる必要はありません。三原色を混ぜながら色遊びしている中で「結果的に」色相環に見られるような色が作れていれば学習の目標は達成していると考えて良いでしょうし、自由に色遊びしながら表現した絵には色相環で縛った色塗りでは味わえない造形体験が得られる可能性もあります。最終的に画面が黒っぽく濁ってしまったとしても、その過程で様々な色を作った事実が無効になるわけでもありません。

 スモールステップが手軽に踏めて、しかも楽しめるようなものになれば、その後の制作も生徒が主体性を発揮して取り組むことができる姿を想像できます。知識や技術の獲得がただ説明を聞いて、指示通りにやるだけだと退屈ですし、時間も必要になります。説明はなるべく手短にして、生徒が実際に手を動かす中で知識や技術を実感に基づいて獲得できるように、教材や授業を計画したいと思います。


時間にゆとりのある取り組み

 生徒に学習して欲しい内容はたくさんありますが、これについて教師が欲張ってしまい、カリキュラムが時間に余裕のないものになってしまうと、せっかく生徒が主体性を発揮し始めたとしても中途半端なところで終わってしまいかねません。なので、学習内容は教師の方で欲張って内容モリモリにしてしまうのではなく、生徒が主体性を発揮した結果、自然とたくさんの内容に触れることができるように、内容の精選をしたり、手軽な制作から始められる教材設定をしたいと思います。

 これまでは完成までに8時間程度制作時間が必要になる教材もありましたが、これが3〜4時間程度でも完了できて、残り4時間は学習経験を生かして自由制作できるぐらいの設定であれば、より生徒の主体性を引き出すことにもつながると思います。あくまで教師が設定した教材はスモールステップのための仕掛けであり、最終的には自分のやりたいことを自由に取り組むPBL(課題解決型学習)の視点をメインにしたいと考えています。


指導と評価の一体化 〜ルーブリックの活用〜

 生徒が主体性を発揮して、一人ひとりが多様な学習に取り組んでいくと、完成作品だけで評価をすることができなくなります。評価のためには「どのように取り組んだか」を見取ることが必要になります。最近よく耳にするようになった「指導と評価の一体化」とはまさにこのことを示しており、作品やテストの結果だけではなく、学習過程自体を評価の対象として捉えていかなければいけません。



 これを行う上で有効なのがルーブリック。達成状況の目安を生徒に分かるように示すことで、生徒は自らの学習を調整することが可能になりました。ルーブリックで学習内容が評価されていることを認識できていれば、作品の完成度を過度に気にすることなく、生徒は失敗を恐れずに安心して挑戦することができます。昨年度、Googleクラスルームの機能でルーブリックを導入して、Googleスライドの振り返りシートと連携させたことで、ある程度ルーブリックを参考にして学習を調整する生徒の姿が見られました。今年度これを継続・発展させて、生徒がより安心して制作に挑戦でき、ルーブリックによるフィードバックを参考にして学習活動のレベルアップを図れるようにしたいと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は新年度のスタートということで、生徒の主体性について徹底的に向き合うために取り組んでいきたいことをまとめさせていただきました。今回ブログでまとめたことによって、自分の中で考えをより明確にすることができたと感じているので、これから研究と実践にさらに励んでいきたいと思います。

 今年で教諭になって早10年(教師生活は13年目)。節目となる1年です。これまでで最も充実した教育が行えるよう、日々取り組んでいきたいと思います!

 それではまた!

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