生徒のICTリテラシーを向上させるために教師に求められること
今回は生徒のICTリテラシーを向上させるために教師に求められることについて私の考えを述べてみようと思います。今年で勤務校でのGIGAスクール推進リーダーも3年目に突入し、過去2年間で多くのことについて学びながら実践してきました。自分自身のICTリテラシーはこの2年と少しの間に劇的に向上したと感じており、最近は以前からやりたかった授業が美術だけでなく、道徳や総合の授業でも行えるようになり、新学習指導要領とGIGAスクール構想の掛け合わせによる恩恵を大いに受けていると感じています。
ただ、校内や市内の教師や生徒のICTリテラシー向上にはまだまだ大きな課題があり、私の勤務校でさえもGIGAスクール構想を十分に推進することができていない状態です。その原因として生徒のICTリテラシーに課題があるだけでなく、教師のICTリテラシーにも課題があり、むしろ、後者の方が深刻であると考えています。
デジタルネイティブと言われる今の子どもたちにとって、スマートフォンやタブレットは物心ついた頃から身近にあり、活用してきており、情報を共有したり、オンラインゲームなどで共同作業したりすることを普段から自然にしています。つまり、今の多くの子どもたちにはICTを活用して主体性を発揮して協働的で対話的な学習活動をする素養があると考えられます。それに対して教師の多くはICTが仕事を処理するためのツールであり、授業で活用する視点もあくまで「教える」ための提示ツールとしての認識に留まっている傾向があります。
今回はそのような状況において、教師が生徒のICTリテラシーを向上させるために求められていることについて私見を綴っていきます。
生徒に使わせたいICTの活用方法に対する捉え方は教師のICTリテラシーのレベルで異なる傾向
今年、私の勤務校では教師にGIGAスクールの推進に関するアンケートを取り、授業における生徒のICT活用に対する捉え方と教師自身のICTリテラシーレベルを調査しました。その結果、ICTリテラシーが高く、普段から生徒がICTを活用して協働的に学ぶ機会を設定している教師は生徒にICTをより自由に使わせたいと考えている一方で、普段からICTを授業で生徒に協働目的で使わせることなく、授業を進めるために教師からの資料提示にICTを使うことがメインになっている教師は、授業中に教師が指示を出した時にのみ生徒にICTを使わせたいと考える傾向があることが分かりました。
このような傾向はわざわざアンケートをしなくても、分かりきっていたことですが、教師がICTを協働的で個別最適な学習のツールとして認識していれば、生徒にICTの使用を制限して、全て教師の指示に従って使わせるという考えにはなりにくいものです。それに対して、一斉指導メインで、授業を教科書に沿って予定通りにスムーズに進めたいと考えている場合、協働的で個別最適な学習の時間をそれに追加して行うことは困難であるため、授業に関係のないことが起きかねない生徒の主体的なICT活用は避けようとします。
ただ、少し学習指導要領を見たことがある人であれば、協働的で個別最適な生徒の主体性に重きを置いた授業と一斉指導による単一的で生徒にとって受動的な授業のどちらが学習指導要領に則ったものであるかは分かると思います。今の時代において、教師が授業時間のほとんどを一方的に一斉指導し、その内容の理解度を測るために問題やテストに取り組ませるような授業は一刻も早く変えていく必要があります。このような授業は生徒に学習に対するネガティブな考えを助長することになるでしょう。
一斉指導で一律に生徒の学びを制限することが落ちこぼれや吹きこぼれの原因になることはよく言われています。であるならばその状況を変えるのが教師に求められていることであり、そのために教師がICTをそのように活用する視点を持つことが不可欠であると考えています。
ICTの活用で生徒が自主的に問題をたくさん取り組むことが可能になれば、教師も必死になって「教える」必要もなくなりますし、生徒も授業で分からないことを我慢しながらノートに写し書きしたり、内容が簡単すぎて暇を持て余したりするような生徒もいなくなります。こちらの記事はそんな状況を分かりやすく説明しています。https://toyokeizai.net/articles/-/182818
結局のところ、教師がICTリテラシーを上げることができれば、自然と生徒にもそのような視点でICTを活用させたくなります。つまり、国や各地方自治体、各学校はまず教師のICTリテラシーを「リスキリング」する必要があります。率直に言うと、主体的な学習態度を育成するはずの教師であれば、そもそもICT教育に関しても主体的に学ぶ存在であってほしいですが、残念ながら教師の中にも「勉強=我慢して覚えるもの」というネガティブな視点を持っている人が少なくありません。好きな教科であれば趣味のように学んできた人が多いのも事実ですが、全ての教科が好きという人はこれまで教師をしてきて出会った記憶がありません。そういう私も、高校理科の「化学」「物理」は理系コースに所属していながら当時学ぶモチベーションを失ってしまったため、今でも苦手意識がありますが、他の好きな教科同様にいつか趣味のように勉強したいと考えています。
話がそれますが、メタバースが一般普及すればこれらの教科はそのポテンシャルを大いに発揮すると考えています。化学反応や波動の世界がメタバースで視覚化され、個別最適に学べたらこれらの教科は相手が文字通り無限に広がる宇宙を相手にすることになるので、終わりなき冒険がスタートすることでしょう。
生徒のICT使用制限と教師のICTリテラシーが低い状況は教育の停滞
ICTを活用して一斉指導を極力少なくして学習の効率化を図り、生徒の協働的な学習活動の場を環境設定していると生徒から学ぶことが大変多くなります。ICTの活用方法について学ぶことも多くあり、それが授業改善につながり、ますますICT活用が不可欠なものになっていきます。
この逆に生徒のICT使用を制限して、教師にとって「不都合」なことが起きるリスクを避けるぐらいならまだマシですが、その教師のICTリテラシーが低いままだと、これは完全に教育の停滞、相対的には後退を意味すると考えています。生徒からすると、「なんでこの先生はこんなにも退屈で面白くない窮屈な勉強を強いるの?」と口々に不満を漏らします。そういう状況に遭遇すると、一刻も早く生徒が勉強に対するネガティブイメージを膨らませる状況を改善したいと思ってしまいます。しかし、ここで焦って「生徒にICTを自由に使わせましょう!」と言っても、反発を喰らうだけであることはこれまでの2年間で身に染みて分かっています。人間は合理性だけでは動かないものであり、自分とは違う考え方の意見には「感情的に」反発するものです。そして人間は本能的に変化を嫌い、安定を好みます。
なので、まずは地道にではありますが、学校内で教師のICTリテラシーを上げることに集中することが大切であると考えるようになりました。文科省や各地方自治体で勉強できるツールは用意されていますが、それらを利用するのは一部の教師であり、ただ毎日同じように平穏に授業や業務をしたいと考えている安定志向の人にはそもそもそれを学びたいと思うモチベーションが起こりにくいものです。
しかし、スマートフォンがガラケーに代わってモバイルの主力になったように、最初は必要性がないと思っていた人でも、その便利さが分かればその流れば不可逆です。インターネットや携帯電話にさえ消極的であった私の親でさえも、私に子どもができたらしきりにリモートミーティングを求めたり、動画を送ってほしいと言うようになりました(笑)。
「私はコンピューターが苦手だから新しいものは無理」と言う人が多いですが、そんなことはなく、シンプルにモチベーションの問題でしかありません。そういったモチベーションが上がる仕掛けをつくるのがICT教育担当やGIGAスクール推進リーダーの役割ですし、管理職にその重要性を理解してもらえるようにアクションを起こし、その状況を校内や自治体に広げていくことが大切であると考えています。もちろん教育委員会から降りていくる研修なども重要ですが、それで劇的に変化するとはこれまでの状況を鑑みると難しいでしょう。地道な草の根活動でそれをどんどん外に波及させていくことが現場には求められているのではないでしょうか。
生徒が自由に使える環境は不可欠
全て教師がコントロールして、教師の都合だけでICTを生徒に使わせるような状況は、生徒のICTリテラシーの向上を考えると非常に厳しいと言えます。教師のICTリテラシーが大変高く、コンピューターでできる全てのことを知っているようなレベルであれば良いですが、私も含めてそうではない人ばかりです。そのような状況で教師と生徒が共にICTリテラシーを高めていくためには、自由に使える環境が不可欠です。
もちろん、教師が生徒の活動をしっかり見守り、不必要に危険な行為が生まれないようにリスク回避することも大切ではありますが、ICTが分からないからこそ色々とお互いに試してみるような環境がないと、一向に可能性が広がりません。ICT活用の可能性を教師と生徒が協働で探ること自体が主体的で対話的な学習にもなります。授業の目的がICT活用の可能性になってしまっては、肝心の教科の学びが疎かになってしまうので、授業におけるICTリテラシーの向上は副次的なものであり、学びをサポートするためのものであるべきと考えますが、授業中にそういった時間を少し設けて生徒同士で情報交換しながら協働学習するのもいいでしょうし、そこに教師が入って一緒に学ぶのも大切なことだと思います。そして授業外の時間にも生徒が主体的にICT活用について学ぶことができる機会をもてるように使用できるようにすることが望ましいと考えています。
自由に使わせることは当然リスクを伴うことですが、それはICTに限ったことではありません。鉛筆を持てば教室の壁や机に落書きをしますし、友達と戯れ合えば殴り合いもおきます。それらはいずれも力の使い方を間違えているだけの話であり、これもリテラシーの問題と言えます。いくら上手に字が書けても落書きとなれば器物損壊です。リテラシーは経験に基づいて育まれるものであり、誰かにコントロールされているうちは大きな向上が期待できるものではなく主体性に基づいた活用能力であると私は考えています。それゆえに、自由に使うことができる機会を設定することが必要だと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は生徒のICTリテラシーを向上させるために教師に求められていることについて私見を述べさせていただきました。GIGAスクール構想も早3年目がスタートしていますが、ICTの活用状況は学校によって大きな差が生まれてきています。これは深刻な状況と言えますが、それを憂いてばかりでは何も進まないので、自分にできることをとにかく夢中でやっていくことが大切であると考えて、こんな記事も書いています。これからも日々研究と実践をしてそれをなるべく多くの人と共有して、少しでもGIGAスクール構想が前進するように取り組んでいきたいと思います!
それではまた!
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