レタリングで遊びながら学べる授業デザイン

 今回はレタリングの授業について私が実践しているものを紹介します。今年は中学1年生の授業を3年振りに担当していて、新学習指導要領、GIGAスクール構想バージョンで初めて臨むレタリング関係の授業となり、以前のものから大きく授業デザインを変更しました。 

 実際に授業をやってみて、これまでのレタリングの授業ではできなかったようなレベルの学習活動ができたので、要点をまとめてみました。


やめて良かった明朝体とゴシック体の一斉指導

 これまで一般的だったレタリングの授業は「永」の字を活用して明朝体やゴシック体を書きながら学んだり、その他にもローマン体やサンセリフ体というものがあるということを知識的に知る程度のものが多かったと思います。そういう私も旧学習指導要領、GIGAスクール構想前の時代にはそのような授業でレタリングについて学び、ポスターなどに活用できるようにするというのを当たり前のものとして考え、授業実践してきました。

 「永」の字は「永字八法」と呼ばれ、これを明朝体やゴシック体で書けるようになれば色んな字に応用が効くということで、以前は一斉指導の形で永の字をゆっくりと丁寧に分かりやすく教えていました。グリッド入りの用紙を用意しておけば、ある程度正確に書きやすくなるため、これで多くの生徒が永の字の明朝体やゴシック体を書けるようになり、それなりに達成感も味わってもらえるのですが、この方法では永の字を書き終える頃には授業時間の半分が過ぎており、残り時間で自由に字を選んでレタリングをしても大して多くの文字が書けるわけではありません。鉛筆で文字のバランスを正確に取って、アウトラインを描いて、中を塗りつぶす。この作業自体がかなり大変です。


 しかし、明朝体もゴシック体も字のバランスさえある程度取ることができれば、下書きせずに筆やマーカーでどんどん書いていけば短い時間で多様なバリュエーションのレタリングができます。形が正確かどうかは二の次にして「レタリングを意識して書く楽しさ」を授業という限られた時間で最大限に生かす上で、正確な形にあまりとらわれないことが大切です。筆で勢いよく書いただけでも書道になって格好良い字が生まれます。

 このように鉛筆できっちり形を取って正確に描く方法以外にも様々な書き方があって、レタリングは楽しいものであることを導入の際に短時間でイメージできるようにすれば、わざわざ明朝体とゴシック体を長時間かけて一斉指導するよりも、個々がやりたい方法を選んでスケッチブック上に積極的に書いていくため、授業の中での学びの量は圧倒的に大きくなります。


Googleスライドで多様なレタリングを集める

 GIGAスクール構想によって生徒は自分の端末を好きな時に利用できるようになり、私の自治体ではChromebookが採用されているので、Googleスライドを活用して生徒が手軽にレタリングを楽しむことができるようになりました。


 私は振り返りシートをGoolgeスライドで普段から活用しているのですが、これは学習レポートとしての機能も持たせています。レタリングの授業はグラフィックデザインの授業の一部として位置付けており、普段活用している振り返りシート上に様々なフォントの文字を集めて学習の成果として分かりやすくまとめられるようにしています。文字は図形に挿入できるので、背景とフォントの色を工夫して、既に学習している色面構成の視点を踏まえてデザインを生み出すことも可能です。



 Googleで検索すればネット上にはいくらでも格好良いレタリングが活用されたデザインがあるので、そういったものを集めるのも有効です。

 こうして振り返りシート上に様々なデザインの文字がたくさん集まり、デジタルとアナログの両面からレタリングの魅力について学べるようにしています。



規律重視の授業からアクティブで協働的な学習環境へ

 以前のレタリングの授業では生徒は自分の席でレタリング字典を見ながら静かに集中して取り組んでいました。無心になってマインドフルネスの世界に行くことが好きな生徒にとってはそれも良かったかもしれません。規律という面でもバッチリ整った授業となっていました。何だかんだ美術が苦手だったり、嫌いだったりする生徒でも多くはレタリングの授業自体は割とハマる傾向があり、好きな文字やフレーズを頑張って書いていました。成果も出やすいので、以前からやりやすい授業の部類だったと思います。

 しかし、生徒の主体性をより重視してレタリングの学習をできるようにしようと考えると、一律同じ指導をする時間は極力減らし、やりたいことに主体的に取り組める授業デザインを考える必要がありました。

 これに関しては、Chromebookが使えるようになったことで個別最適なレタリングの学習を促進できたことが大きかったと思います。これまでのレタリングの授業では考えらなかった量の文字と生徒は触れることができていましたし、書くことが苦手な生徒でも積極的にフォントを変化させて様々なデザインを楽しむことができていました。ただ、一番大きかった変化は生徒への取り組ませ方のマインドセットであったと感じています。

 以前は鉛筆できっちり下書きとアウトラインを描いてから塗りつぶす「お手本通り」のレタリングを授業の大部分で強要していたのをやめて、美術室の環境を生かして、クレパスや水彩、墨汁など様々な画材で書けるようにし、作業場所もそれに伴って自由に選べるようにしました。ある場所ではChromebookで文字を集めて机に座って学習しているグループ、ある場所ではアクションペインティングのごとく書道的にレタリングを実践するグループ、またある場所では絵文字に取り組むグループ。多様な表現に取り組み遊びながら学ぶ姿が見られるようになったことが一番大きな変化でした。

 この遊びながら学ぶマインドセットを可能にしたのが新学習指導要領であると感じています。主体的な学びによる豊かな人間性の育成は究極的には遊びと学び、さらには遊びと仕事を一体化させるものであると考えています。

 主体性をテーマに授業をデザインし、ICTの力も借りることによって、学びの幅をこれまで以上に広く深いものにできるようになりました。教師が主体性を発揮して授業をデザインし、生徒も授業で主体性を発揮して素晴らしい学びを生み出すことができれば、それがまた授業デザインに反映されていきます。GIGAスクール構想の面白いところは、授業資料が生徒とデジタルで共有されているが故に、授業資料を改善すればそれが即生徒と共有されます。つまり、教師と生徒の協働作業、シナジー効果によって学習環境が発展していきます。

 教師の想像通りにできる授業をしっかり構築することもあって良いと思いますが、いくら完璧にデザインしたと思っても生徒の主体的な学習の中で予想外のことは生まれます。そんな時にそれを活用する視点がこれからの教育では大切であると考えています。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はレタリングで遊びながら学べる授業デザインについて説明しました。何か参考になるものがあれば嬉しいです。

 グラフィックデザイン関係の学習はPBL(課題解決型の学習)に生かしやすく、これから2学期にこの学習の大詰めに入っていきます。最終的にどんなデザインが生み出されるのか楽しみです。学習の最終的なゴールが予想できない授業デザインを今後も考えていきたいと思います。

 それではまた!



 

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