木材の廃材を有効活用
今回は木材の廃材の活用について紹介します。糸鋸で木材を切り抜いて余った部分は廃材になりますが、これを上手く活用すれば簡単に素敵な作品ができます。オリジナリティのある形を考えるのがハードルとして高かったり、電動糸鋸機の扱いに不慣れな人であったりしても、手軽に工芸制作に取り組んで彫刻の経験を積める良い機会にもなります。
学校ならではの木材の廃材ではありますが、お家でも木材ゴミがたまには出ることもあるのではないかと思います。是非そのような時には彫刻で工芸品などを作成する楽しさを味わってみてほしいです。
廃材でも面白い形がたくさん
現在中学1年生の授業で木材を活用した工芸の授業に取り組んでいます。生徒には60mm × 300mm × 8mmの木材を一律に用意し、バターナイフやフォーク、スプーン、箸、靴べらなど、自分が制作したいものを考えて自由に制作しています。
一枚の木材を上手に活用すれば3つぐらいの作品を制作することも可能なので、生徒にはなるべく木材を有効活用するように指導していますが、それでもたくさんの廃材が生まれます。ただ、この廃材の形は多様で、中にはちょっとした工夫で作品にできるようなものもたくさんあります。そういうものを見つけ、廃材の形を生かして彫刻すれば簡単に工芸品が制作できます。
工芸品は機能性に関する部分は似たような形になりますが、持ち手の部分などは割と自由に形を設定しやすいと言えます。しかし、形が自由ゆえに自分で考えるのが難しいという人も少なくありません。そんな時に、見た印象でなんとなく良いと思える形を廃材の中から選択するというのは、作り手にとってハードルが低く、創造的に形を考えるのが苦手という人にとって取り組みやすいですし、形を考えるのが得意という人にとっても偶然性の高い形は創造性を刺激するインスピレーションになるため、多くの人にとって有効であると思います。私自身もこれまでに廃材からたくさんのヒントをこれまでに得てきました。
このペーパーナイフは刃の部分は薄くなるようにしっかり彫りましたが、持ち手の部分は少し形をなめらかにする程度で、全体的な形の印象は廃材の元々の形をかなり留めた状態にしました。これにサンドペーパーをしっかりかけて、ステインと蜜蝋ワックスを塗りこんで完成させた作品は自分でも納得の美しいペーパーナイフになりました。制作時間は30分程度で済みました。
廃材の形をそのまま生かした作品なので、制作時間も非常に少なく済みました。廃材を活用すれば、授業の残り時間が少ない中でも手軽に制作に取り組めます。
彫刻の良い練習になる
私が使っている美術室には電動糸鋸機が4台あります。しかし、30名の生徒が一気に使うとなると、待ち時間が多くなって、1時間待っても電動糸鋸機が使えない可能性さえあります。そんな生徒が時間潰しに廃材を使って彫刻の練習をするのも有効な廃材の活用法であると考えています。
中学生は彫刻刀を使う経験が小学校の木版画やレリーフなどで少しある程度で、彫刻刀で立体作品を制作する経験はほぼありません。そのため、各彫刻刀の使い方を理解していなかったり、そもそも彫刻刀で木材の形を丸彫りで自由に彫ることができることさえ想像できない生徒が多数存在します。「どうしたら木が薄くなりますか?」「どうしたら深く彫れますか?」そんな質問を毎時間のようにしてきます。これに対して「彫ってください。彫った分だけ木は薄くなりますし、彫った分だけ深く彫れます。」と直球で返答することもありますが、そもそもそんなことを考えたことがないゆえにそのような質問をしてくるわけなので、「どうしたら木が薄くなると思う?」「どの彫刻刀を使ったら深く彫れそう?土を掘るときにスコップを使ったことはある?」というように、自分で考えて理解に繋げられるように主に対話的に指導しています。
ただ、このような指導が必要なことには少しやるせない気持ちにもなってしまいます。それだけ造形行為の経験が不足していて想像できない状態で中学生になっているわけで、表面を平刀や小刀でスライスしたら薄くなることやスコップ状のものを使えば深く彫(掘)れるということが感覚的に身についていないだけでなく、知識としても形成されていない状態というのは、かなり問題であると私は思います。皮肉な話ですが、鉛筆をカッターで削ったら「鉛筆ってカッターで削れるんですか!?」と心の底からビックリされることもあります。
彫刻の授業をしていると目を疑うような光景が当たり前のように目に入ります。木がなくなってしまうまで彫り進めてしまったり、彫刻刀の進行方向に手を置くだけでなく木材を手でホールドして力一杯彫刻刀の方に力を加え、案の定思いっきり彫刻刀を手に突き刺す生徒がいたり(当然ですが彫刻刀を安全に使う方法は指導しています)。つまり、彫刻ができないことは普通のことであると考えて指導をする必要があり、制作前に彫刻の練習をして経験値を上げておくことが重要になります。その際に、廃材はちょうど良い練習用の材料になってくれます。
彫刻が本番の制作前に練習できるとなると、生徒も気楽に彫刻を体験することができます。ある生徒は練習ながら非常に面白い造形物を彫り上げていました。この作品は生徒からもらったもので、丸刀の特性を生かして強烈なインパクのある形を生み出すことができています。
彫刻で作品を制作するためにはかなり彫刻刀の扱いに慣れておかないと思うように彫り進めることができません。それゆえに、廃材で手軽に彫る練習をしながら彫刻を気楽に楽しめる機会は、スモールステップで彫刻を学習する有効な手段となります。
試作品を増やす機会
私は普段は工芸品を作ることはありませんが、授業で工芸をする時は廃材を活用して試作品を次々に制作して、色んな作品ができることを生徒に実感してもらえるようにしています。自分が面白いと思ったことはすぐに実践し、それが生徒に伝われば生徒も自然と自分のやりたいことに取り組んでいくと思います。
試作品を作る時には、必ず指導に役立つポイントを作品に反映させるようにしています。ただ上手に作って終わりでは世の中に溢れる工業製品と対して変わらないものになってしまうため、教材としての有効性を試作品に含ませるようにしています。
例えば上の作品であれば、ただ普通にARTの文字を透かし彫りするのではなく、下がき段階で数学的な関係性を生かしてバランス良く文字と組み合わせを設計したことを見えるようにしておくと、そのような視点で設計することの重要性を生徒に伝えることができます。工芸に取り組む前に生徒にはグラフィックデザインの学習でアップルのロゴが黄金比の活用によってバランスの良い形を生み出していることを説明したことがありますが、工芸の授業でもそうして数学に関する話を持ち出すことで数学の重要性を意識することに繋がります。
教科で別々に考えるのではなく、STEAMの視点で授業をデザインすることで、応用力のある「確かな学力」を伸ばすことにもなり、学んだことや普段の生活での経験を生かして創造的な学習活動ができるようになると私は思います。なので、そのような機会に繋げられるような「仕掛け」として試作品をたくさん作っています。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は木材の廃材を有効活用することの可能性についてお話しさせていただきました。もしお家に木材の廃材があって工芸品制作に生かせそうなら彫刻を楽しんでみ流のも良いと思いますし、学校で図工や美術を担当されている先生でしたら廃材を捨てずに有効活用してみて欲しいと思います。生徒の中には、廃材で制作したものが最高傑作になったと言うケースもあるぐらいなので、廃材の活用も含めて最高の作品を制作できるように、積極的に廃材の活用を勧めるようにしています。
廃材に限らず、材料や知識で使えるものは柔軟に活用する。そんなマインドセットを伸ばすことも教育の重要なポイントだと思うので、これからも実践しながら学習環境の在り方について研究をしていきたいと思います。
それではまた!
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