海外一人旅を英語を学ぶ目的に


 

 今回は私の主観で考える英語を学ぶ目的についてお話しします。

 英語を学ぶ目的と聞くとどのようなことを考えるでしょうか。外国人とコミュニケーションができるということや、グローバル化が進む中で英語が使えることで世界中の人や物と繋がることができるといったことが言われますが、そういった目的が多くの子どもたちにとって本当に魅力的な目的と言えるでしょうか。おそらく、多くの子どもに限らず、大人にとっても「日本だけで十分じゃない?そもそも日本のこともあまり知らんし」という人も多いと思います。

 しかし、海外の観光地を雑誌や映像で見ると「いつか行きたい!」となる人は多いと思いますし、実際に子どもたちに海外の写真を見せると凄く興味をもってくれます。なので、私は英語を学ぶ目的が「興味のある海外の国や街に行って楽しめるようにする」でも良いと思っています。そして、ツアーなど安心安全な海外旅行がある中で、強く勧めたいのが海外一人旅です。海外を一人で行くとなると、全て自分で自由に行動できるゆえに様々なことを自力で解決する必要があり、ツアーとは比べ物にならないぐらい負担が増えますが、それゆえに良い体験ができます。非常に私の主観的な考えではありますが、英語を学ぶ最大のメリットは海外一人旅ができるようになることだと思います。

 今回の内容では一人旅だからこそ得られた貴重な体験についてのお話と、それに絡めて学びというものがどのような中で充実したものになるのかを考察をしてみました。


英語は高校レベルで十分

 私が初めて海外旅行をしたのは大学院2回生の3月でイタリアのフィレンツェに行きました。中学2年生の時にフィレンツェを舞台にした『冷静と情熱のあいだ』を見たことや、セリエAのフィオンレンティーナが好きだったこと、そしてルネッサンスが花開いた場所ということもあって、いつか行きたいと思っていましたが、大学生としての生活がかなりのハードモードだったので海外旅行する時間もありませんでした。なんとか学生のうちに一回は行っておきたいという気持ちから勢いでフィレンツェ行きのチケットを購入しました。

 海外旅行大好きな割に初めて行ったのは割と遅めです。それ以降、結婚して新婚旅行としてツアーの海外旅行に行くまでにローマやアムステルダム、ブリュッセルに一人旅をしました。行った街の数は多くありませんが、どの街も1週間近く滞在して街を歩き尽くすぐらい味わいました。

 全てを一人で何とかするには当然のことですが英語が必要になります。私は今でこそ美術の教師をしていますが、元々は英語を専門にしていたので、コミュニケーションや情報収集という面ではほぼ問題は起きませんでした。標識や看板の多くは現地の言葉ですが、多くの場合は英語も一緒に表示されていたので助かりました。ただ専門的な英語の知識がなくても、私の感覚では、高校レベル(英検準2級〜2級)ぐらいの力があれば、十分に一人でも楽しめると感じましたし、中学校卒業レベルでもそれなりに何とかできるとさえ思いました。海外一人旅のハードルは多くの人が思っている以上に低いのではないでしょうか。


海外一人旅の最大の魅力

日本では味わえない非日常的性

 名所や名作を実際に目にする感動は紛れもない海外旅行の魅力です。しかし、私がブログという場で超主観的な話ながらも、あえて紹介したいことがあります。それは日本ではまず味わえない非日常的なトラブルや出会いの数々です。以下の内容は私が実際に味わったトラブルや出会いの一部です。

赤はトラブル青は出会い

フィレンツェで


◯フィレンツェに入る前のスキポール空港(オランダ)で出入国審査官に旅の目的を聞かれて「Sightseeing」という決まり文句を言ったにも関わらずオフィスに連行されて職務質問される。自分が怪しいものではないということを理解してもらい無事フィレンツェへ。

◯中央駅のロータリーに着いていきなり男性から「親戚がボローニャから来るけどお金を盗まれて交通費が払えない。20ユーロくれないか」と言われた。もちろん拒否。

◯ピザ屋のトイレを利用して出ようとしたらドアノブが壊れていて(ノブがなくて穴しかない状態で)出られなくなる。お店の人がすぐに対応して無事脱出。

◯ジョットの鐘楼(ドゥオーモの側にある)に登り、フィレンツェの街並みを堪能していた時にアジア系の高齢女性が一人で登ってきて、お互いに目が合ったので「日本人ですか?」と聞き、日本人としての仲間意識を実感。数日ぶりの日本語会話をする。


ローマで

◯コロッセオの近くを歩いていると、中学ぐらいの少女が話しかけてきて気を取られている隙に別の女性(少女の母?)に背後からカバンの中を探られる。その場で気がついて事なきを得る。

◯スペイン広場で男性から声を掛けられて「ナガトモ、ニホンジンスゴイ」「ナカタモスゴイ」と言われたので何となく対応していると、「ユートモダチ、コレアカシ」と言いながらプロミスリングを腕につけられ、「15ユーロ」といきなり言われる。「買わないし要らない」と言って拒否。

◯ローマから空港へ向かう特急列車に乗ったものの、購入チケットに指定席のサインが押されていなかったことで車内で罰金(50ユーロ)。「そんなルールは知らないし、チケットはお金を出して買っているのだから何とかならないのか」と話をするも、「後日支払いの場合は100ユーロの罰金です」と車内に掲示されている罰金に関する内容を示される。罰金をその場で払い空港で買い物ができなくなる。

◯サン・ピエトロ大聖堂が見える橋から絵を描いていた時にアジア系の若い女性から声を掛けられる。一人旅をしているネパール人で私の絵に興味を持って話し掛けたとのこと。少しお互いの自己紹介をしてFacebookのアカウントを交換。その後も何度かチャットをする関係に。


 アムステルダムやブリュッセルでも色んなことがありましたが、長くなるのでこれぐらいにしておきます。印象に残っているのがトラブル多めです(苦笑)

 一番ピンチだったのは初旅行の際のスキポール空港での入国審査官とのやり取りで、あの時はフィレンツェに行けないまま関空に戻ることを覚悟したぐらいです。そう考えると、それ以外のトラブルは大したものではなかったので、初めての旅行で経験できたのはある意味良かったのかもしれません。

 こういったトラブルや出会いといった経験は日本ではなかなか経験できない貴重なものばかりです。こういった経験はスリルも伴いますが、生きた学びになります


海外に一人で

 知らない街に行くと、見るもの全てが新鮮に映ります。しかもそれが文化も言葉も全く違う海外の街なら尚更です。それまでの当たり前が当たり前ではないことを大いに実感する学びの機会に溢れています

 自分の考えが日本人としての常識に過ぎないと分かった時に、自分の中での世界が拡大を始めます。海外に一人で行くと、全てのことを自分で対応しなければならなくなるゆえに、知らない海外の事情にしっかりと向き合うことになります。そういった経験ができるパスポートとして英語力が重要な意味を持つと思います。

 安心安全なツアーでの旅行はそういった意味で一人旅に比べると得られる経験が限定的と言えます。添乗員の管理で目的地にもスムーズに行けて、周りには同じ日本人がいる。この安心感が魅力的と思えるのであれば、ツアーで海外旅行を楽しむのも良いと思います。しかし、海外での経験を通して自分の中に変化を生み出し、その後の人生に大きな影響を及ぼすのはやはり一人での海外旅行だと思います。挑戦を楽しむ力、できることを生かして課題を解決する力、多様性を受け入れる力、こういった非認知能力の獲得のきっかけにもなる価値ある経験が潜在しているのではないかと考えています

 AIやロボットへの置き換えが難しいとされる人間ならではの創造力を生かした仕事をする上で非認知能力は重要と考えられていますが、私としてはそれ以上に、そもそも人間が充実した楽しい時間を送る上で非認知能力が重要だと思います。

 自分自身の世界観をアップデートする非日常性溢れる海外一人旅。それを可能にするためにも英語の学習が重要ですし、多くの人が高校生までにそういう経験をできるようになれば受験のための英語学習への考え方も変わるでしょうし、探究的な学びや大学での研究もより良い方向に進んでいくのではないかと思います。




非日常を味わうことで日常に感謝できる

 非日常を味わって刺激に溢れた充実した学びをすることは世界観を広げることになりますが、それと同時に日常的なことへのありがたさを実感する機会にもなります。私はこのことも大変重要な非日常を味わうことの意味であると考えています。

 先日ANCSという造形教育に関する研究と実践を行っているグループのフォーラムに参加するために兵庫県立美術館へ行ってきたのですが、その記念講演で中邑 賢龍先生(東京大学 先端科学技術研究センター)の話を聞いて大変共感したことがありました。

 中邑先生のプロジェクトでは参加者の子どもたちにあえて理不尽な経験をさせます。しかし、その経験を通して日常にあるものへのありがたさを強烈に実感することができるようになるなど、人間に潜在する感性の可能性を呼び起こします。温かいコーヒーが美味しいこと。お風呂のお湯が温かくて気持ち良いこと。こういったことは普段から当たり前のものとして捉えているゆえに、大した感動を味わうことがなくなってしまっている人も多いと思いますが、ある厳しい経験をした上で味わうと格別のものとして感じられるようになります。「もの」が変わらなくても自分が変われば感動体験ができるようになる。これは豊かな人生を送る上で非常に重要な視点ではないでしょうか。

 世の中が便利になって欲しいものは簡単に手に入る時代になりましたが、それで人々の幸福度が上がったかというとそうでもありません。しかし、本当は大変恵まれた生活をしていて、日常的に触れているものとの自分自身の付き合い方をアップデートするだけで意外と幸福を感じられるものです。ただ、そのような気づきを得ることが簡単なようで簡単ではないというのが実際のところ。それゆえに、積極的に普段やっていないことに挑戦したり、海外へ飛び出してみたり、そういったちょっとした勇気が重要になります。

 日本国内の旅行も大変魅力的ですが、カルチャーショックを強烈に受けるような体験はやはり海外が充実しています。そんな海外へ飛び出す勇気を後押ししてくれるのが英語力だと思います。私は今は美術教育に専念していますが、機会を見つけては英語を学ぶことの重要性を子どもたちに話をするようにしています。世界に興味を持つことは結果的に日本について更に興味を持つことにもつながります。英語を学ぶメリット、そしてモチベーションとして、海外一人旅もしくは留学という興奮する視点がもっともっと推されても良いのではないでしょうか。少なくとも「外国人とコミュニケーションするため」という、多くの人にとって自分事になりにくい目的よりは良いように思います。あくまで私の主観ですが。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は英語を学ぶ目的を海外一人旅にすることの可能性についてお話しさせていただきました。非常に主観的な内容ですが、何か参考になるものがあれば嬉しいです。

 美術と英語、どちらも異文化理解教育の中核を成す教科なので、これからも海外文化に興味をもち英語の学習に意欲を燃やす生徒が生まれるように、できる範囲で取り組んでいこうと思います。

 それではまた!

 


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