立体地図と地球儀に魅了されて

  今回は私の幼少期に出会えたもので知的好奇心に大きな影響を与えたと考えられるものを紹介します。結論から言うと、それは立体地図と地球儀で、私はこういったものと幼少期に家で身近に触れることができたことで地理が好きになり、後々地図帳を眺めては都市の人口や山の高さ、川の長さについての知識を自然と吸収していくことができました。

 今回は立体地図や地球儀といった立体情報が与える知的好奇心への影響力について私自身の経験を基に考察し、それを教育に生かしていく視点についても考えてみました。


立体ならではの見る楽しさ


 こちらの日本の立体地図、実は私の父が大学生の時代(今から50年以上前)に作成したもので、今は実家に飾ってあります。地図を厚紙に写しがきしたものを切り抜き、等高線に合わせて紙を重ねています。父曰く、「暇があって作ってみたかったから作った」そうですが、膨大な時間と労力が必要になるこの作業、尋常ではないぐらいに地図と造形が好きでないとできないと思います。ちなみに父は大学では経営を専攻していました。私の実家はパン屋(達脇ベーカリー)で、社長を継ぐためにも経営について学ぶ必要があったのでしょう。75歳になった今でもパンを日々作っており、職人気質という言葉がぴったりな印象です。そんな父が作成した立体地図を見ていると、改めて趣味のもつパワーについて考えさせられます。

 昔の私の実家には地球儀や詳細な世界地図、そして定番のブリタニカ百科事典など、世界の地理について知るツールが充実していました。父は相当な「マニア」だったと思いますし、よく世界のことについて父と話をしたことを覚えています。

 この立体地図を日本の地図であると認識したのは私が4〜5歳の幼稚園に入る前の時期であったことを記憶しています。この地図を見て私は自分の住んでいる街(福知山市)やたまに旅行に行く京都や大阪がどこであるかを知りました。

 地図について情報を得るのであれば地図帳やGoogleマップを使うのが一般的ですが、幼少期の子どもにとっては立体的な模型の方が分かりやすいものです。立体であるだけで感覚が刺激され、イメージもしやすくなります。実際に幼児は身体感覚を働かせて身の回りのことについて学習していきます。現象学の哲学者で有名なメルロ・ポンティは知覚と身体性の密接な関係性について研究し、身体的な経験が知覚に非常に重要であることを述べており、この考え方は学習の在り方について重要な示唆をしていると思います。

 そのように考えると、立体地図は日本の姿について視覚を強烈に刺激して学習を促すものであると言えます。そして、何より造形物としてのパワーが立体地図にはあるため、好奇心が非常に刺激されます。そんな可能性を持っているのが立体地図であると私は考えています。

 立体地図に加えて地球儀も幼少期の私が魅了されたアイテムでした。私の実家の地球儀はライトの機能もついており、よく部屋を暗くして地球儀を青く光らせていました。当時の地球儀を見て衝撃だったのが日本に比べてソ連の大きさが尋常ではないということでした。そして日本の富士山よりもはるかに高い山が世界にはたくさんあり、大陸と大陸がぶつかり合ってヒマラヤ山脈などが形成されたということ、そしてプレートの運動によって日本海溝など海が深く沈んでいることなど、たくさんのことが地球儀から学べました。これらだけでも地理や理科の地学についての素養が身に付くわけで、ある程度文字を認識できるようになった子どもが地球儀に触れられる環境を作るというのは主体的な学習態度を育む上でも重要なことであると思います。

 余談ではありますが、私の実家にあった地球儀にはちょっとした仕掛け(製作した方はおそらく認識していない)が存在しました。アフリカのキリマンジャロとケニア山の標高が間違っていて、ケニア山の方が高いことになっていたことに父が「これはおかしい!アフリカで一番高い山はキリマンジャロや!」と言っていたことを今でも覚えています。父はキリマンジャロが非常にお気に入りで、エベレストはプレートの衝突のおかげで高くなっているのに対し、キリマンジャロは火山活動で「自力」で高くなった世界最高峰の火山であることを熱く語っていました。キリマンジャロ、私も父の影響ですごく好きな山です。


実物との比較で刺激されるイメージ

 普段見ている山や自分が住んでいる場所(平野や盆地など)が立体地図になると全く変わった印象になるというのは幼少期の私にとって大変な驚きであると同時に、自分が住んでいる場所以外の景色はどうなっているのかイメージが刺激されました。

 幼少期の私にはお気に入りの山がありました。それはお盆に大文字のかがり火が灯される姫髪山です。下の写真の中央に見える標高406mの山です。この山に登ると福知山の街が一望できることと、登山道がかなり整備されていて登りやすいことから人気の登山スポットです。私も小さい時はお気に入りの山に登りたいあまりに毎週末のように「姫髪山に登りたい」と言って両親から「また今度」と言われ続けていました。


 私がこの山が大好きだった理由の一つとして、この山は日本で有数の高い山であると当時は思っていました。それもそのはずで自分が普段見ている山の中では一番高く見えていました。しかし、立体地図を見たときに完全に世界が覆されました。姫髪山は立体地図ではほぼ平地ぐらいの扱いで、周りにはこの山よりも断然高い山ばかりであることを認識しました。

 遠くの山ほど小さく見える。こんなことは当たり前のことですが、この比例の関係について強烈に認識する機会となり、遠くに頂上付近だけ少し見える山が800m超え(上の写真の右端の三岳山)であることを知って、少しだけ自分の世界が広がりました。

 山の高さを立体地図で比較しながら学ぶと日本アルプスが大変な山岳ゾーンであることを当然認識します。普段は考えることがなかったようなスケール感を立体地図を見ることを通して掴むことができます。平地のスケール感も同様で、福知山市は盆地に沿う形で市街地が広がっており、幼少期の私にとっては福知山盆地が広大な平地にしか思えませんでしたが、立体地図で福知山盆地と京都盆地や大阪平野、関東平野を比べると、スケールの大きな平地が存在することを認識することになりました。



 立体地図を見ていると実物との比較を自然に行い、感覚が刺激されたりイメージを広げたりしながら世界との関係を新たなものにしていくことができます。小学生などある程度大きくなって言語力や抽象概念を理解できるようになっていくると模型や実物を使わなくても、知識としては覚えられるようになりますが、意外と知識の応用性やリテラシーという点では十分に身についていない状況をよく目にします。結局のところ、身体的な知覚抜きには十分な「知識」にはならないのではないかと思います。

 近頃、実物と触れる体験が学びに強い影響を及ぼすということが様々な研究からも明らかになり、認知能力以前に非認知能力を伸ばすことが長期的に認知能力を伸ばすことにもつながるという説が注目を集めるようになっています。私もこの考えには大いに共感するところで、人間が健やかにそして好奇心を働かせて学び、成長していくためにも、それに適した環境を作ることが教育の大切な役割であると思います。

 父が趣味で作った立体地図ではありますが、私の人生に大きな影響を与えたアイテムであることは間違いありません。まずは大人が好奇心を働かせて何かを生み出してみることが大切だと私は思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は私が幼少期に魅了された立体地図と地球儀についてお話ししました。子どもの好奇心をくすぐるものはいくらでもあると思いますが、私たちが生きているこの世界に対する好奇心を刺激するものというのは子どもの学習においてとても価値があります。大人も趣味として楽しみながらそういう環境を家庭や学校で創造していくことができると世界はさらに楽しく平和なものになるのではないかと思います。私自身、これからも人の好奇心を刺激するようなものを生み出して教育の世界で活動していきたいと思います。

 それではまた!


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