世界一基準を参考にしてアイディアスケッチと制作に取り組む仕掛け

 美術の指導をしていると、生徒のアイディアスケッチや作品を見た時に多くの生徒が色や形に関する固定観念に縛られた状態であることを認識することがあります。固定観念に縛られた表現というのは多くの人と共有できるある意味で「普通」で「分かりやすい」ものと言うこともできますが、それが制作者の本来の理想を形にしたものであるかというとそうではないことが多くあります。
 そういった制作者の内側にあっても本人が意識できていない理想やモチベーションを引き出すのが美術教師の大切な役割であり、学習をファシリテートする大切な視点であると考えています。
 今回は生徒が固定観念から(ある程度)解放されて自由に創造することを楽しむことにつながる指導の工夫を紹介します。結論から言うと、それは「世界一基準」について考えさせるということです。「世界一基準」のものを目にすることで、自分のものの見方が非常に限られた世界観によるものであることを自覚し、形や色、構成の工夫によって自分にとって本当の理想を表現することにつながると考えられるためです。
 今回は「世界一基準」について生徒に考えてもらえるようにするために私が美術室で行なっている仕掛けについて紹介します。

世界中の美しいものにアクセスできる環境



 Googleスライドで世界中の魅力的な自然や造形物を集めたページを作成し、それを印刷したものを美術室に掲示しています。Googleスライドで作成しているのでQRコードも簡単に作成でき、それを貼り付けておけば、ICT端末ですぐにアクセスすることが可能です。
 Googleスライドの写真にはサイトへのリンクを貼り付けており、ググらずともすぐに魅力的な世界の自然や文化財にアクセスできるようにしています。
 世界や宇宙に目を向けるといくらでも魅力的なものがあり、そういったものを制作する際の参考にするかどうかで色や形、構成の捉え方が大きく変わってくるものです。理科や社会の学習で美しい世界を普段から目にしているはずですが、それを自分自身が生かすという視点は意外と多くの人が持てておらず、自分事として考えていないのが普通です。せいぜい将来旅行で行ってみたいと思う程度ではあまりに勿体無いので、その美しさを自らの創造活動にも生かすことができるきっかけを作ることが大切であると考えています

コンフォートゾーンから外へ

 世界一基準となると、それを表現することは簡単なことではありませんが、形や色、構成を工夫する際の参考にはなります。このような制作は当然のことながら普段そのような造形美の世界に制作者として関わっていない生徒にとって難易度の高いものになります。
 ただ、多少難易度は上がったとしても、工夫の余地がいくらでもあるということを認識した上で制作に取り組むこと自体に大きな意味があります。形や色だけではどうしても再現できないような質感をどのようにして表すかということや、どんな材料を使うと理想に近づけることができるかといったことを考え、試行錯誤する中で達成感の溢れる作品が生まれ、充実した学習となります。


 世界一基準を活用する例として、私は粘土造形の試作品として屋久島の縄文杉を参考にしました。もし作品が縄文杉そのものであれば、作品はただの劣化版になりますが、世界一基準のものを他の何かと組み合わせることによって、美術作品ならではの世界に一つの魅力的なものになります。
 このような学習は生徒にとって非常にチャレンジングなものですが、そもそも良質な学びや創造性溢れる表現というものはコンフォートゾーン外の自分の限界を超えた領域で達成されるものです。そういう体験が主体的な学習態度を形成し、制作のレベルアップだけでなく、普段から美意識を働かせたり、この世界の魅力的なものや興味深い現象に対する好奇心を伸ばしたりすることになると考えています。

さりげなく工夫



 今回の内容とは関係が薄いですが、この掲示物は教室の窓ガラス(スモークガラス)に貼り付けているので、廊下側から掲示物の紙が見えます。廊下側から見る掲示物の状態がただの画用紙の状態であったり、コピー用紙が透けた状態であると見栄えが悪いため、こちら側もデザインの工夫をしています。
 この模様は全てARTのステンシル文字を作成して構成したもので、ある程度体系化した配色でスパッタリングによって着彩しています。模様を作成となると、難しく考える人もいますが、幾何学的な法則を単純に活用しただけでできます。今回作成した模様は全て画用紙を四等分する線を引いて、シンメトリーや回転を活用して作成しています。手間はかかりますが、配色と構成の実験になるので、楽しく作成することができました。
 

 世界一基準を考えてもらうために仕掛けた掲示物ではありますが、模様の方にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。ステンシルを活用した模様は手軽にできますし、どんな文字、どんな形でも構成の工夫と、基本的な幾何学的な知識の活用でできるので教材としてもおすすめです。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は世界一基準を参考にしてアイディアスケッチと制作に取り組む仕掛けを紹介しました。生徒はICT端末で簡単にこの世界の様々な美しいものにアクセスすることができる時代ですが、その視点がなければどれだけハイスペックな端末を持っていても大した成果を期待できません。しかし、ちょっとしたきっかけで世界が広がり、学習への主体性に火がつくこともあります。そんなきっかけとなる仕掛けをこれからも大切にしていきたいと思います。
 それではまた!

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