粘土造形指導のスモールステップ
先日、私が担当しているある中学1年生の振り返り(粘土造形)の内容に愕然とすることがありました。その振り返りの内容の一部は「粘土は小学校2年生の時に油粘土を使って以来なのでなかなかうまく扱えなくて…」というもの。小学校よりも授業時間数が少ない中学美術で私は毎年粘土造形の時間を取ってきたのでこの事実には衝撃を受けました。本当かどうか確かめたかったので、他の生徒にも聞きましたが同じで、他市から来た生徒も小学校で粘土をずっと使ってこなかったということが発覚。私が担当している生徒がたまたま粘土を扱ってこなかった可能性も否定できませんが、少なくとも粘土での立体表現が絵画や工作と同じような割合で行われていない傾向があるのではないかと思います。
粘土が避けられる傾向にあるというのは以前にも聞いたことがあり、粘土で手が汚れたり、投げたり、管理が難しかったりといった「面倒」が大きな負担となり、粘土造形には消極的ということが原因で指導者からあまり好まれていないということでした。実際に私の勤務する自治体では小学校に限らず中学校の授業関係の作品展でも粘土を扱った作品は絵画やデザイン、工芸に比べると圧倒的に少ない状況です。これも私の勤務地の特色なのかもしれませんが、粘土造形に関する「面倒」な部分は全国共通の悩みなのではないかと思います。
ただ、粘土も最近は色んな種類のものがあり、樹脂系のベタつきにくいものもありますし、紙粘土を使ったとしても手を汚しながら制作を楽しみます。生徒の多くは粘土で得られるダイレクトな反応が好きです。つまり、粘土造形の「面倒」は生徒の問題というよりは指導者の方にウェイトがあると考えています。
今回は粘土を教材として扱う際に、私が工夫している粘土の管理方法や指導方法を紹介します。粘土に取り組ませたくても管理や指導の面でハードルが高いと思って粘土を扱うことを避けてきた方にとって教材として扱うスモールステップを踏む上での参考になる内容になれば嬉しいです。
粘土は必要な分だけ渡す
おそらく、粘土の管理については多くの指導者を悩ませているのではないかと思います。私も指導する中でどうすれば一番粘土を無駄にすることなく、生徒が快適に取り組むことができるか試行錯誤して、自分の中では現段階でベストと言える方法に至っています。
私は粘土は一人一袋分用意しますが、いきなり一袋配らないようにしています。これをしてしまうと、保存する粘土を固めてしまったり、無計画に粘土を使って足りなくなったり、粘土を無駄にしてしまうことがよく起きます。なので、制作を始める段階では2分の1袋分を生徒に渡し、必要があれば、粘土を追加で取りに来てもらいます。追加の粘土は4分の1ずつ渡すようにして、おかわりは2回までできるようにすることで、粘土の使用量を把握しやすくしています。
粘土を渡す際には計画に沿って順調に進んでいるかどうかを確認するようにしています。この際に「ちょっと粘土が足りないかも」「形が崩れてしまう」などの反応がある場合は、紙や針金、木材などの芯材を活用して粘土の消費量を抑えつつ、安定した形にする方法を提案します。場合によってはスケールを調整する必要性を話すこともあります。小さなパーツから制作しているつもりでも、その部分が大きくなってしまうと、全体の形が巨大になってしまい、粘土が全く足りない状態になりかねません。そうなる可能性があると感じた時には全体のスケールを意識して制作することの重要性を認識させます。
粘土の量を生徒と対話しながらある程度こちら側で調整することができれば、無駄な粘土の消費を避けられますし、粘土を管理することも容易になります。生徒にはジップロックのような密封できる袋を用意しておき、着彩した粘土を保管する場合にはラップに包んで他の粘土と色が混ざらないようにさせます。こうすることで、生徒自身でも粘土を良い状態で管理することができるようになります。
芯材は色々と用意しておく
針金や木材、ダンボール、紙といった芯材はある程度のサイズの粘土造形には不可欠です。芯材によって粘土の消費量を抑えるだけでなく、細長い形や外れやすい部分の強度を上げることができ、粘土造形の可能性を大きく広げてくれます。
芯材にこだわりがある場合は家から使いたいものを自由に持参させるようにしています。昔はスチール缶を生徒分集めてペン立ての教材をしていたこともありますが、最近はテーマ設定と基本材料(粘土や画用紙など)のみ教材として用意していますが、何を制作するかは基本的に生徒に委ねているので、生徒ごとに使う芯材が異なってきます。
芯材を全く使わない生徒も中にはいますが、芯材を使うか使わないかも生徒の判断に任せています。ただ、結果的に多くの生徒が何かしらの芯材を活用して制作します。最初は粘土だけで制作していこうとする傾向がありますが、それだけでは難しいということを粘土が崩れたり、パーツが取れたりする中で自然と理解していきます。この学びのプロセス自体が大切で、最初から失敗させないように一律に芯材で骨格をしっかり作ってから取り組ませようとすると、粘土はお預け状態になってしまうため、粘土制作へのモチベーションを失ってしまいかねません。粘土の楽しさはまず粘土を触ることで分かるもの。夢中で粘土で形を作りながらも、芯材がないと理想を形にできないことを実感すれば自ずと芯材を使い始めます。こちらから強いて芯材を使わせる指導は不要になります。
ウォーミングアップの造形遊び
粘土にも色んな種類があります。学校でよく使う紙粘土や石粉粘土、樹脂粘土、油粘土など、それぞれ特性の異なる粘土なので、いきなり本番の制作に入ってしまうと粘土の特性を活かせずに満足度の低い制作をしてしまう可能性があります。なので、まずはウォーミングアップとして制作で使用する粘土少量を用意して造形遊びさせることが大切です。
普段から粘土に触れる機会がそれほどないのが多くの小学生や中学生の実情だと思います。そんな子どもたちでも一旦粘度に触れるとテンションを上げて形を作り、色を混ぜ始めます。このような造形遊びの中で粘土の特性を理解し、制作に対する見通しを多少なりとも持つことができるようになります。
ウォーミングアップで作った物が1週間して固まり、形が変形した状態を見ると、どうすればよかったのか考える機会になりますし、乾燥した粘土に彫刻する想像を膨らませることもできます。その上でアイディアスケッチや本番の制作に取り組めば、いきなり本番の制作に入るよりもスムーズに進めることができます。
ちなみに、ある実験では2つのグループにそれぞれ決められた時間で「可能な限りたくさんの作品を作るように指示されたグループ(量重視)」と「可能な限り質の高い作品を作るように指示されたグループ(質重視)」に分かれて作業に取り組ませたところ、可能な限りたくさんの作品を作るように指示された方が結果的に質の高いものを作ることができたという話があります。これはどうしてかと言うと、たくさんの作品を作る中で改善点が見つかり、質が後からついてくるということです。逆に初めから質重視でいくと、行動量が少なくなり、改善ペースも鈍いものになってしまいます。なので、とりあえず作品さえできなくても良いのでまず何かしらの形を粘土で作ってみる「経験」が大切であり、ウォーミングアップの造形遊びが重要な粘土造形の導入になります。
作品主義になってしまうと、こういった造形遊びの時間が軽く見られるようになってしまうかもしれませんが、造形遊びの時間というのは生徒の活動を見取って、課題解決に必要な環境を調整する機会にもなるので、指導者にとっても大切な時間です。可能であれば生徒と一緒に造形遊びに関わるのも良いと思います。
最後まで読んで下さってありがとうございました。今回は粘土造形の際の粘土の管理方法や指導方法について紹介させていただきました。何か参考になるものがあれば嬉しいです。
個人的には毎年全ての学年で粘土に関する造形の時間を少しでも設定してほしいと思うぐらい粘土の学習効果は高いと考えています。学習指導要領の話で言うと共通事項に関することが自動的に反映されていくぐらいに制作者の感覚を刺激して表現させる可能性があると感じていますので、粘土を扱うことをこれまで控えていた方には是非新年度の教材設定に入れてほしいと思います。
令和5年度も後少しで終了ですね。最後までエンジョイして締めくくりたいと思います。
それではまた!
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