中1最初の授業で「やりたいと思ったら即行動」のマインドセットに
新年度が始まり、私が担当する中学1年生の全てのクラスの授業が1回目を終えました。初めての美術の授業では学習における大切なマインドセットを持ってもらえる仕掛けを可能な限りたくさん体験してもらえるようにしています。例えば、「美術と感動的で文化的な生活」「徹底的に遊ぶ」「マナーさえ守れば全てOK」「失敗最高」「主役はみんな」「先入観の排除」「自分の感性を生かして自由に表現」こういったことをスライドを使ったり、実際に表現したり中で生徒に伝えるようにしています。こうして、中学校で学習する美術に対して良いイメージをもってもらえたら、美術へのモチベーションを促進することになるので、1発目の授業を非常に大事にしています。
今回は、1発目の授業で生徒に伝える内容で、特に私が重要視している「やりたいと思ったら即行動」について私の考えをまとめました。これは個性を発揮した自由な表現を可能にするスモールステップであり、これをマインドセットにできれば、自然と結果はついてくると考えています。なぜなら行動と思考は一体化したものであり、双方は不可分なものであるためです。
本当に自由に表現できる時間であることを認識できる仕掛け
美術は個性を発揮して自由に表現する時間。これは自明のことのようで、往々にして教材や制作条件、制作環境に制限が多すぎて実現できていないことがあります。これとは逆に、教材や制作条件が生徒の活動を促進する仕掛けに乏しく放任的な時間になっても、結果的に表現活動における自由を経験することが難しくなってしまうこともあります。教師が個性を発揮できる仕掛けをつくることができているか否かで活動の充実度は大きく異なることになります。
私が特に重要と考える「やりたいと思ったら即行動」という考え方は、何の仕掛けもない中でいきなり言われても、そのような経験とメタ認知が十分でない場合、何をどうすれば良いのか考えることが難しく、充実度の乏しい時間になりかねません。なので、何ができるのかイメージをもたせる仕掛けが大切になります。
上は最初の授業で配布するプリントです。授業の流れで逆さグリッドデッサンで先入観を排除してモチーフの位置関係さえ掴めばある程度似せて描くことは簡単にできるようになり、デッサンはコツさえ掴めば皆同じように描けるようになるという描画体験をした上で、個性的な表現をするために大切なことをプリントの空いているスペースを活用して最後に表現を通して考えてもらうようにしています。
ルールあってこそ自由ということをよく聞きますが、このルールが教師が生徒をコントロールする都合を強く反映させたものになると自由を発揮することがそもそも難しくなります。あくまでルールは安心して挑戦できる仕組みとして機能する必要がありますし、やりたいことに挑戦する中で自分の世界が広がり、自由が個人の中で開拓されていくものです。この時初めて「ルールあってこその自由」が成立しているのではないでしょうか。ルールも生徒の活動をファシリテートする仕掛けになるように考えることが大切だと私は思います。
生徒の自律を信じ、活動を促進する
札幌農学校のクラーク先生が校則は「Be jentle.(「紳士たれ」で十分です)」と答えたように、ある程度自律ができるようになった人を相手にする場合、適切な行動や倫理は理解しているわけなので、わざわざルールで縛るようなことをしなくても良いですし、そんな話をされる側としても気持ちの良いものではないと思います。「言われずとも分かっている」ことでわざわざ釘を打ち、貴重な時間を失うだけでなく相手のモチベーションまで低下させることが一体誰のためになるというのでしょうか。教師には生徒が気持ちよく活動できる言動が求められていると思います。
プリントに自由に表現する時間は5分程度と非常に短い時間ですが、「やりたいと思ったら即行動」するだけで瞬く間に個性的な工夫が生まれていきます。そうして美術の授業では思う存分安心して挑戦できることを認識することができれば、非常に行動的なマインドセットを持つことができるようになります。
生徒の話を聞いたり授業の感想を見たりすると、小学校では自分がやりたいようにさせてもらえなかったことや、人と違ったことをしたいと思った時は教師の許可を得た上でやっていたという生徒がかなり多くいることがうかがえます。小学校の先生も児童が少しでも良い学習ができるように日々工夫して取り組まれていると思いますが、指導のやり易さや、児童が失敗をしないようにするために教材を画一的なものにして、結果的に児童の主体性を犠牲にしてしまっている可能性について考える必要があると思いますし、児童の主体性から学ぶことが大変多いということを踏まえて授業をデザインすることも大切だと思います。
美術に取り組む生徒のことを考えると、やりたいと思った熱い瞬間に行動できる安心感と道具や材料面での充実した環境が必要です。道具や材料が生徒の目に触れない場所、例えば美術準備室などに保管されていると、そういったものを使おうと思うきっかけさえなくなりますが、逆にいつでも使えるように教室の目につく場所に置いてあればもちろん活用される可能性は高くなります。この差は非常に大きいと言えます。
道具や材料は使われてこそ価値を発揮するものゆえに、生徒が使いたくなるように目に触れる仕掛けをしておくことが大切です。これも一つの鑑賞教育の一環であり、道具や素材と出会ったり触れたりという経験を充実させるようにしています。生徒に良い刺激を与える可能性のあるものを準備室に保管したままずっと使われずに埃だけ被って劣化していくのは勿体ないとしか言いようがありませんので、可能な限り、使えるものは美術室に置いておくようにしています。
道具を自由に使えるようにするのは覚悟の要ることではありますが、意外と大きな問題は起きないものです。望ましくない使われ方を発見した時はすかさず対話的に指導をしますが、それも含めて道具の教育的価値になっていると思います。
最後まで読んで下さってありがとうございました。今回は中1最初の授業で「やりたいと思ったら即行動」のマインドセットをもってもらえるようにする工夫について紹介させていただきました。やりたいと思ってすぐに行動することは美術の自由な表現を行っていく上で重要なスモールステップになります。生徒にはたくさんの経験をしてもらい、表現したり創造したりすることの面白さを大いに味わってもらえる授業デザインを考えることが大切です。現状、通知表という評価が最終的には出てしまいますが、評価の優劣以前にまずは美術というもの自体を、そして全ての授業の学び自体を「楽しい」「もっとやりたい」と生徒が思えるようになったのであればこの上ないことであると思います。人生という長いスパンで考え、結果は後から自然とついてくると信じて、創造力を発揮できるスモールステップを踏めるようにするのが教師という仕事の大切な役割の一つであると思います。
今回の内容が読まれた方にとって何か参考になるものになれば嬉しいです。今後も生徒の行動を刺激する授業づくりや教室環境を目指して研究と実践を行っていきたいと思います。
それではまた!
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