ICTの活用はWOWの「仕掛け」として

 2024年度の授業が始まりました。今年も授業を鋭意アップデートして生徒と共に充実した学習経験をしていきたいと思います。
 充実した学習経験を可能にするために、私は教室を造形活動で思う存分楽しめるように整えたり、体験を通して学べる教材を作成したりと、アナログ面での工夫を普段から行っていますが、ICTも積極的に取り入れています。
 ICTを取り入れることで資料の提示や共有が手軽にできるというのは言うまでもないことなので、わざわざ詳しく話しません。私がICTを活用する最大の目的は一瞬で生徒にWOWと思ってもらえる「仕掛け」としての役割があるためです。特に動画の効果は非常に大きく、これが生徒の端末と共有できるようになったことで生徒の興味関心をより引き出すことができるようになったと感じています。
 今回は私がICTを活用して学習者にWOWと思ってもらえるような仕掛けの視点について少しまとめてみました。

WOWの「仕掛け」として

 ICTとプロジェクターで教科書の内容を提示したり、スライドで学習の要点を強調しながら説明したりといった「教師が生徒に説明するためのICT活用」は広く行われています。私も内容をまとめたスライドを用意して授業で利用はしていますが、基本的に、教科書や資料集に載っている内容をそのまま学習するのであれば、自分で読むだけでも十分であるため、「問い」を投げかけるためにスライドを作るようにしています。資料を見ながら読み上げるスライドの利用は生徒にとって退屈な時間になってしまう可能性が大きく、そのような資料作成は極力避けるようにしています。
 私が何よりスライドの作成で大切にしているのは見た瞬間にWOWと思ってもらえるようなインパクトある「仕掛け」を作ることです。私が担当している美術の教科書は他の教科の資料と比べても構成がドラマティックで感動を演出する仕掛けがたくさんあります。なので、ICTを積極的に活用していると言ってもアナログの教科書を資料提示として使うことも少なくありません。
 ただ、教科書の内容が自分の伝えたいことを全てサポートしてくれているわけではないので、その部分はICTを活用して視覚的なインパクトを最大限に引き出せるように工夫しています。
 例えば、光を表現した印象派に関する学習(学習は対話的鑑賞を基本にして進めていきます)では、教科書や資料集にモネやスーラの表現に関する説明がたくさん載っており、内容的には十分と言えます。モネやスーラの作品の部分拡大図と全体像を見比べるだけでも、その表現方法に対する驚きを伴った感動が得られます。
 当たり前のことですが、美術の教科書や資料集はそういった魅せ方の面でかなりこだわりを感じる作りとなっています。ただ、それでももっとインパクトを学習者に与えて興味を引き出したいと思うこともあります。そういう時にICTで資料を見せたり共有したりしています。


 私がお勧めする資料の提示や共有方法はGoogleスライドの利用です。これの良いところはGoogleクラスルームで生徒と手軽に資料共有できるということや、リンクで動画などをシームレスに挿入することができるところにあります。これによって短時間でスムーズに資料を見せ、学習者主体の活動時間を確保することにつながります。
 リンクを挿入したテキストはデフォルトで青文字になります(色は自由に調整可能)。この部分をクリックすればすぐに動画が再生できます。


 点描による視覚混合の技術が使われているプリンターの印刷。これがどうなっているか拡大して見られる動画を作成しました。可能であれば全ての学習者にルーペを配って網点を見せたいですが、それは費用的に難しいことです。しかし、動画を用意すれば手軽に見せることができます。静かに集中して見ていると思ったら「うわっ!」「えぇ〜!?」というWOWな反応が見られます。



 昔は授業中に数個のルーペを使って見せていたこともあるのですが、これはタイムロスがあまりにも多く、生徒の活動時間がかなり犠牲になっていました。この動画ではあえて白い部分を拡大しましたが、これは白く見えるところも色を調整することの大切さに気がつけるという「仕掛け」にもなっていました。短時間で学びの要素をたくさん詰め込むことができるのも動画利用のメリットだと考えています。
 減法混色である色料の三原色(マゼンタ・イエロー・シアン)を味わった後は、加法混色である色光の三原色(赤・緑・青)も動画で見せます。



 これを見ると目がチカチカしてWOWというよりは悲鳴が上がることもありますが、インパクトのある色の学習になり、内容を忘れにくくなります。
 こういった動画によって色料の三原色と色光の三原色の違いや、目の中で色が混ざって見える視覚混合について充実した学習ができます。
 実は教室には下のような使われなくなったレコードに光の三原色を配置して、回すと色が混ざって見える仕掛けも置いています。この学習を通して光の見え方についてさらに深く理解し、興味を持ってもらえるようにするためにも教室自体にも「仕掛け」をしています。



 こうして見るともう少し緑の割合を多くして黄がはっきりと見えるようにしても良かったような気もします(苦笑)
 この装置は同僚の理科の先生が赤・緑・青のシールを貼り付けた独楽を見せてくれたことと、Threads等であがっていた「ろくろアート」を見たことがきっかけで思いつきました。

資料の詰め込み過ぎを回避し時間を有効に活用

 生徒にたくさんのことを学んでもらいたい。そう考えてつい資料をたくさんにしてしまう先生も多いと思います。私も昔はそうでした。ただ、資料をたくさん詰み、説明したからといって生徒がそれを全て吸収できるわけではありませんし、教師の説明したことを全て覚えることよりも、自分で課題意識をもって取り組み、主体性を生かして学習したことの方が長期的に見ると力として定着する可能性もあります。授業では生徒の興味関心が最大化されることに重きを置いて資料を用意することが大切だと思います。
 欲張り過ぎずに、生徒が負担を感じない程度の学習資料を作成することは簡単なことではありませんし、この研究は自分自身これからも続いていくと思いますが、このバランス感覚への意識を忘れなければ良いよく教材がアップデートされていくと私は考えています。
 「見たければどうぞ」ぐらいの軽い感覚で資料をリンクで貼り付けておけば、興味のある生徒は自ら見ますし、検索が当たり前の時代なので、いくらでも自分で調べることもできます。
なので、「この先が気になる!」と感じてもらえるような仕掛け重視でも良いのではないかと考え、資料を作成しています



 かなりガッツリな学習内容ですが、鑑賞と表現はセットで行うというのが私の授業スタイルなので、体験的に学べる時間も確保しています。
 授業では視覚混合を生かした表現をするために、使う色を三原色に絞って点描を体験する時間を5分程度用意しました。ポスターカラーと綿棒、色鉛筆やオイルパステル、クレヨンなどで描き(使う画材は自由)、短時間でも早速学習したことを自分なりに活用して実験的に表現する姿が見られました。


 ICTの活用はWOWの仕掛けとして使うというのが今回の記事の主題ですが、やはり表現をしている時の方が全体的に気分が上がっている印象を受けます。鑑賞の時間は大切にしつつ、要点を押さえる説明の時間はなるべく少なくし、「やりながら学ぶ」授業を実現するのもICT活用の重要な視点であると思います。技法に関する動画や自分の表現に必要な資料を参考にしながら取り組む生徒も多く見られるようになりました。コンピテンシーベースの実践的な学びで、実際に表現したりつくったりする中で得られる感動の価値は忘れてはいけないと思います。
 デジタル化が今後ますます進むでしょうが、感動溢れるアナログ体験を促進するデジタル活用への視点や仕掛けをこれからも研究していきたいと思います。

 最後まで読んで下さってありがとうございました。今回は学習を促進するICT活用についてお話しさせていただきました。何か参考になるものがあれば嬉しいです。
 GIGAスクール構想も4年目を迎え、デジタルとアナログの良いところを生かしてバランス良く取り組む学習環境が作れるようになってきたと感じています。まだまだ課題は多いですが、日々の気づきを大切にして、今年も前進していきたいと思います。
 それではまた!


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