教科横断的な美術の学習について①

 最近のマイブームがナッジ(行動をそっと後押しする仕掛け)であることを以前のブログでもお話ししましたが、私は生徒が美術の学びを主体的に行えるナッジについて重点的に研究していきたいと考えています。これまでも美術室の環境や教材を工夫することによって生徒の「やりたい」という気持ちを後押しできるように取り組んできましたが、さらに行動に結びつくような仕掛けを計画しています。

 現段階で私がイメージしている美術教育におけるナッジのタイプは3種類あり、「教室環境」「教材」「問いかけ」を工夫して、生徒の学びを後押ししたいと考えています。今後この種類を増やしていけるように、視野を広げていきたいですが、まずはある程度イメージできていることを具現化しつつ、その中での反応から新しい世界を拓いていきたいと思います。このブログでは不定期にはなりますが、構想したことや実践・研究して得られた気づきをまとめていきます。


教科横断的な学習をテーマに

 今回は教科横断的な学習を実現するためのナッジについて少し考えてみました。私自身、元々は美術専門で大学に入ったわけではなく、美術を志したのは22歳(大学4回生)のときで、それまでは言語学(英語)や文化に関することをメインで勉強していました。そんなこともあって、美術の造形的な知識で考えるよりも、どちらかというと文化学や言語学、哲学といった面、時には数学や理科的な側面(一応高校は理系クラスで、得意科目は英語と国語、苦手科目は化学と物理でした…(苦笑))から美術を捉える傾向があり、自然と教科横断的な美術の学習をしてきたと言えます。それゆえに、自分自身、美術の学習で教科横断的に知識を応用して取り組むことは当然できるものであると思い込み過ぎていたところがあったのかもしれません。


自らの判断で教科横断的に考えることの少なさ

 美術の授業をしていると、他教科で学んできたことを応用することが多くの生徒にとって「盲点」であることにこれまでたくさん気づかされてきました。例えば、


「コンパスがないと綺麗な円が描けないと思っている」←定規で半径を何点かマークして結べばコンパスの性能に囚われない円が自在に描ける。(数学)

「なんとなくシンプルでも良いと思っている」←短歌や俳句、詩のように構成するパーツが鍵であり、無駄なものを省き、修辞を生かすことでイメージが強調される。(国語)

「虹はとりあえず7色使えば良く色の順番は関係ないと思っている」←プリズムによる太陽光の分散・分光やグラデーション、三原色の理論について知っていれば表現は簡単にできる。(理科)

「造形表現は具体的なモチーフがないとできないと思っている」←音楽という形や色のない表現にも雰囲気があったり浮かび上がるイメージはある。(音楽)

「彫刻刀でうまく削れないのは力が弱いためだと思っている」←筋力も多少は関係あるものの、むしろ関節や体幹の使い方の問題であり、体をうまくコントロールすれば力を入れなくても彫刻刀で削ることはできる。(保健体育)

「日本人としての単視点的で常識的なイメージに囚われる」←異文化の考え方、捉え方で考え直してみる。(外国語)


 教科横断的な視点で捉えれば、解決したり、課題によりよく取り組んだりすることが可能ですが、これが自分の判断で自在にできる生徒は少数派です。いわゆる「絵心」という言葉がよく示す写実的な表現能力も、基本的には対象を座標的にデータ化して捉えることさえできれば、質感など雰囲気に関する細かいことは再現できなくても、形だけはある程度正確に描けるはずです。これについても数学的な知識の応用です。


ちょっとした応用でも美術の魔法で面白い造形が生まれる

 今回は試しに数学を利用した教科横断的な美術表現をしてみました。図に関することであれば三平方の定理や三角比に関する正弦定理、余弦定理といったものが製図では活躍しますが、そんな知識よりも単純で簡単な関数のグラフの応用で美術的な表現をしました。




 iPadのフリーボードでかいたので操作に不慣れで少々線がずれていますが、一次関数と二次関数のXの係数を変化させてできるグラフの線で構成画を描いてみました。やっていることはとても単純ですが、シンメトリーでバランスの良い図を描くことも簡単にできます。関数を使わなくてもこういう図はかけるわけですが、係数の変化によって角度がどのように変化するのか視覚的に掴めますし、要素を追加して図を発展させることもできます。




教科横断的なものを生徒の目に入れる

 今回かいたものは非常に簡単なものですが、生徒の様子を見ているとバランスを取って図を描くこと自体が困難で、そのための方法を知らないケースも多く見受けられます。数学の知識を少し活用するだけでもそういう状況を改善することができるのであるならば、こういう考え方があるということを知ることができるように、教室環境に仕掛けを作れば、バランスを取るのが苦手な生徒がそこから学んで知識と技能を身につけることもあるのではないかと思います。

 まだ構想段階ですが、各教科に関連した美術作品を掲示したり、閲覧可能な資料として用意したりして、生徒の興味を惹きつけるような仕掛けを施したものを用意したいと考えています。そして、ただ見て「ふーん」で終わってしまっては勿体無いことなので、これがナッジとして機能するように、すぐに行動に移せる仕掛けも作りたいです。


教科横断的な学習は生徒の主体性をベースに

 生徒が教科横断的な学習に取り組むことには大きな意義があると考えますが、私は教科を横断する判断は生徒に委ねることが美術の学習では大切であると思います。生徒が表現したいことをベースに考えるのであれば、その多様性ゆえに応用する教科や内容は異なるためです。表現への応用となれば複雑な教科横断になり、複数教科の横断になることも普通に考えられます。

 教師は生徒に教科を横断することの大切さを常に意識させつつ、そういうことが容易にできる教材を用意したり、プロジェクトベースの学習を行ったりするなど、生徒が教科横断できる状況を作ることが大切だと思います。

 そのためには教師自身が多様な学びを柔軟に受け止める心とそれを理解できる知識の獲得に日々努めることが必要です。これはとても挑戦的なことではありますが、それゆえに面白い仕事になると思いますので、自分自身楽しみながら実践と研究に取り組んでいきたいと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は教科横断的な美術の学習について私が考えていること、そして数学の知識を応用して手軽にできることを紹介しました。何か参考になることがあれば嬉しいです。

 教科横断的な学習をナッジによって仕掛けることができれば美術以外の教科に対する興味関心を持つことにもつながると思いますし、そういう学びが美術にも生かされると思います。主体性を発揮して学習する生徒が少しでも増えるように、自分なりにこれからも色々と試行錯誤していきたいと思います。

 それではまた!

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