美術室に道具と材料の表示を導入

 学習者の主体性が重んじられるようになり、教師には生徒のやる気に火をつけるファシリテータとしての役割がこれまで以上に強く求められるようになりました。私自身も最近はナッジ(行動をそっと後押しする仕掛け)に注目し、できることから実践しています。

 今回はその一環として私が取り組んだ美術室の道具や材料を表示する仕掛けを紹介します。これは私が務める中学校の図書館で行われていることをヒントにしました。普通図書館は棚の端にジャンルが表示されていますが、本校では棚の表示に加えて天井からの吊り下げ式の表示もあり、遠くからでも一目でどこに何があるかが分かるように工夫されています。美術室では、吊り下げ式の表示にはしませんでしたが、遠くからでもすぐに分かる表示は導入することができました。


美術室の使用可能な道具や材料を分かりやすく表示

 これまで私は基本的に美術室にあるものは「マナーさえ守れば自由に使える」ようにしていました。とは言っても、実際に使うとなると「先生、ボンドを使って良いですか?」「ここにある木材は使って良いですか?」といった確認をする生徒が多くいました。そして、そのような生徒がスイッチとなって他の生徒も続々と美術室の道具や材料を利用し始めるという状況がよく見受けられました。自由に使えると言われていても、自分のものではない道具を使ったり、美術室にある材料を利用したりするのは少々勇気のいることなのかもしれません。

 しかし、表示のあるものは基本的に利用できるということが分かれば、利用する際のハードルがなくなり、気軽に手に取ることができるようになります。大きな表示で、どこに何があるのか目に入りやすい環境となれば、そこにあるものをちょっと使ってみたくなるのではないかと思います。




表示の枠を3種類に色分け

 使えるものが分かっても、完全に自由に使えるのか、それとも使用する際に条件があるのか、こういったところを分かりやすくしておく必要があります。なので、利用後は元通りに戻すものは青枠、無制限で自由に利用できるものは緑枠、利用する際に相談した上で使えるものは赤枠と、表示の枠の色を3色に分けることで、より安心して使えるようにしました。


 緑枠で表示されているものは、私に相談なくても自由に使えるわけなので、生徒が制作をしていて何か使えるものがないか探すときに役立ってくれると思います。これまで美術室全体をあてもなく眺めて回っていたのが、表示を頼りにすることができれば、探すのが非常に楽になりますし、使いたいものがテイクフリーであることを約束されていれば、積極的に材料を活用する姿も期待できます。

 誰かが道具や材料を使い始めることで、それが教室内で相乗効果を生んで他の生徒も次々に美術室のものを利用し、その中で自然と表現も発展していく状況をこれまでにもたくさん見てきました。その状況を生み出す仕掛けとして、手軽に利用しやすい環境(ナッジ)を充実させることが、より主体的に美術の学習に取り組む生徒を育てることになると思います。

 今回用意した表示は第1段階的なものなので、生徒の関心を誘い、より安心して利用できる仕掛けとなるよう、これからさらにアップデートしていきたいと思います。


 最後まで読んで下さってありがとうございました。最近考えているのが、教育は適切な環境を用意して、成長を見守ったり、問いを投げかけたり、対話したりできれば、自然と個別最適な学びになるという仮説です。ルソーやモンテッソーリの教育は多くの教育者を目指す大学生や教科履修生に学ばれているにも関わらず、教師の側からの一方向的な指導の割合が非常に高い状況がスタンダードとして定着しており、逆に生徒の主体性を尊重した学習が大切であると認識され、学習指導要領の柱として位置付けられつつも、なかなか主体性重視の学習を浸透させることができていないというのが現状だと思います。残念ながら、学校教育の中で勉強が嫌いになる生徒は後を断ちません。

 しかし、ほとんどの人が気がついていると思うのですが、人間は興味をもってやりたいと思ったことであれば、スポンジのように知識や技術を吸収できます。なので、自然とそういう気持ちになって行動に移したくなるような仕掛け(ナッジ)を考え、実践していくこと。これには大きな可能性があると思います。

 これからも人が行動に移したくなる仕掛けを様々な場面で考えていきたいと思います。

 それではまた!

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