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11月, 2024の投稿を表示しています

廃材を(ほぼ)そのまま利用した試作品

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 今回は美術室にある廃材をほぼそのまま利用した工芸の試作品を紹介します。しかし、これらはただの作品紹介ではなく、美術教育の一環で行っており、私としては大変意義深いものであると考えています。  作品制作という点でも、遊び心だけで大変気軽にできて、しかもそれらしく見えるものを紹介しますので、良かったらトライしてみてほしいと思います。 竹と木の破片でペン立て 1年生は現在木の工芸の授業をしています。木材はペーパーナイフ用の板を一律で購入しているのですが、それに加えて木の廃材や竹も教室には自由に使える材料として用意しているので、生徒は各々の取り組みたいものに合わせて作品制作に取り組んでいます。  工芸の授業では糸鋸やノミ、ハンマーなどを使って加工するので、たくさんの材料の切れ端が出ます。そんな廃材もすぐに捨てるのではなく、廃材ボックスに入れて皆が自由に使えるようにしています。そうしていると、思わぬ出会い(セレンディピティ)があるもので、ある人からしたらただの廃材でも、別の人からすると閃きを生み出す形であることも多々あります。私はバターナイフやペーパーナイフ、スプーン、フォークなどこれまで試作品をたくさん制作してきましたが、これらはほぼ全て廃材を見て閃きが得られた切れ端を活用しています。  先日、授業の最後5分ぐらいに電動糸鋸の周りを掃除をしていて不意に竹の切れ端を発見しました。最初はゴミとして捨てようと思って拾ったのですが、妙に心をくすぐられる竹の形をよく見ると、何かを立てることができそうなキャップ状の形をしていたので、これを安定して立たせるために何か良い手段はないかと考えました。そこで、電動糸鋸機の台の下に廃材ボックスを用意しているので、そこから候補を探してみることに。すぐに良さそうな形の木材が見つかりました。三角形に近い形の薄い木材で木目が細かく見えており、竹の模様と対照的な雰囲気を持っていました。これを土台にすれば竹が安定すると考え、ボンドで接着。何も加工を施していないので制作時間は1分弱でしたが、個人的には十分に満足できる作品となりました。  当初はペン立てにしようと考え、早速利用しようと思ったのですが、フォークやスプーンが突き刺さっていても面白いと考えこのような写真となりました。私は試作品を見て触れるように教室前方に設置しているので、そこにこのような形でセットする...

新型やくもで発見した伝統文様から地元愛を育む美術の授業を考える

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    11 月 22 日に開催された中国五県造形教育研究大会(島根大会)に参加してきました。公開授業の自画像の鑑賞(中 3 )、研究協議のふるさと教育、教科調査官の平田先生の講演、どれも大変学びのある内容で、改めてじっくりと美術に取り組んだり、学習を通して地域に目を向けて自分たちにできることを考えられるようにしたりすることの重要性について考えを深めることができました。今回はその大会レポートについてお話ししたいところですが、行き帰りで利用した新型やくもで不意に発見したものについてお話ししたいと思います。 シートに麻の葉文様  待望の新型やくも初乗車ですぐに目に入ってきたのがシートの模様でした。なんとさり気なく麻の葉文様が施されていたのです。現在中 2 の美術の学習で日本の美について取り組んでいるので、これは良い教材を見つけたと思って写真撮影。身の回りのデザインに伝統文様が利用されていることを示す良いネタになりました。麻の葉は古来から神事において人を守る魔除けの意味で用いられてきたものなので、出雲へ向かう特急にピッタリのデザインです。ちなみにグリーン車には積石亀甲の文様が施されているそうで、こちらは富や長寿を意味しています。  新型やくものシートに施されたそんなこだわりを感じ取って、文様をデザインに利用することの意味について改めて考えることになりました。 文様の意味を知り、それが何に活かせるものであるのか。そういう視点を美術の学習の中でも大切にしたい と思いました。伝統文様や和柄でどんな品をプロデュースしたいか。そんな題材設定の美術の学習活動もできるのではないでしょうか。 麻の葉に気が付かないことも  実は同じ列車に美術の先生が他にも乗っていて、終着駅の出雲に到着した時に出会って、早速新型やくもについて話をする機会があったのですが、その先生はシートに麻の葉文様が施されていることに気が付かなかったそうです。私は最近、毎日のように麻の葉を含む日本の伝統文様を授業で目にしているので一瞬で気がついたのですが、普段あまりそういったものを目にしていないと認知しにくいものかもしれません。その先生もそういう類のことを言われていました。   文様に気がつけると、そこに込められた思いを感じられますし、意味がわからない場合は調べることもできますが、そもそも認知にあがら...

余ったプロジェクターを活用して光のアート体験を日常的に

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 倉敷市の中学校に待望の大型ディスプレイが導入され、これまで使用していたプロジェクターが教室で不要になったことで、美術室に回してもらえました。実は美術室にあったディスプレイは私の私物の40型TVで、それがないと提示できる機器がない状態がこれまでずっと続いていたというのも異常な状況ではありますが、とりあえず教室の環境は大型ディスプレイの登場で格段に良くなったと言えます。  ただ、プロジェクターを美術室に回してもらえたと言っても、これまで使用してきた40型TVの方が見やすく、これまで通り授業で使っています。なので、普通に考えたらプロジェクターは教室に不要となるわけですが、折角なのでこれでより充実したアート体験をできるように、工夫した使い方を考えてみました。  スクリーンに投射するのが普通のプロジェクターの使い方ですが、プロジェクターから出される「光」としての特性を生かせば面白い使い方もできるので、今回の内容で何か参考になるものがあれば嬉しいです。 天井にメディアアートの動画を投影  教材を提示する役割はTVで十分ですし、黒板のスペースは教材関係のものを掲示したいので、プロジェクターは天井に向かって投影し、メディアアートの動画を投影するようにしています。チームラボや落合陽一などのメディアアートがYouTubeで手軽に見られるので、それを天井に映しています。ただそれだけですが、その映像を見た生徒は感嘆の声をあげます。  一流のアーティストの作品を実物で見ているわけではなくても、色面構成的に非常に優れたものなので、動画であっても美意識に働きかけるものは十分にあると思います。元々こういったアーティストのメディアアートは抽象的なものが多く、テーマ性のある色と構成で魅力的な雰囲気を演出しています。 形への意識が強すぎて色や構成の面での工夫に意識が回らない生徒は多くいますが、こういう動画によって、色と構成の工夫への視点を考えて制作に取り組みやすくなると期待しています 。  プロジェクション・マッピングなども含めてメディアアートは近年人気が高まっていますが、昔からイルミネーションなど、光を利用したアートは多くの人の心を魅了してきたと思います。しかし、光を生かしたアート体験を美術の時間にできているかというと、あまり多くないような気がします。実際に厳密に調査したわけではありま...

教材のテーマを抽象化して多様な制作を可能にする

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 今回は私の美術の教材観について考えをまとめてみました。現行の学習指導要領が施行される数年前から指導要領を読み込む中で、主体的で対話的な深い学びや個別最適化、課題解決型の学習(PBL)ができる教材や学習環境について研究と実践を重ねてきました。  美術教員として正規採用される以前から主体的な学習や、個別最適化への視点は大事にしてきましたが、 作品の完成度を追求する中で、多様性のある制作と主体性を伸ばして広く深く学ぶ機会を少々犠牲にしてしまっていた と反省しています。  そんな下積み時代を経て、この5年ぐらいは、さらに多様で取り組み甲斐のある学習を追求するために、現行の学習指導要領、そして今後の学びの在り方を考えてきました。そのような中で、教材観に大きな変化が生まれ、最近は少しずつ手応えを掴むことができるようになってきました。その大きな鍵となるのが 「仕掛けとしての教科書利用」 と 「教材テーマの抽象化」 です。今回はこの二つの内容から私の教材観について説明をしていきます。 教科書活用のマインドセットとは  美術教師の中の会話でよく挙がるのが、美術の教科書の使いにくさです。なぜ使いにくいかと言うと、美術の授業の多くは制作時間であり、教科書を見ても違う教材の作品が多く、制作手順や方法、付随する知識内容が不十分であるため参考資料として使えないと考えている教師が多いためです。せいぜい技法のページとテスト用に知識問題として色の知識に関する資料をぐらいしか使わず、制作の説明はプリントで済ませ、教科書はほとんど見ることなく3年間。そんなケースも少なくないと思います。実際に、私が美術の教科書をよく使い、ページのほとんどを3年間で活用するという話をすると大変驚かれます。  美術以外の教科は知識を獲得するために教科書が使いやすくデザインされていますが、美術の教科書はそもそもテストのための知識獲得を目指したものではなく、見ることを通して美意識を刺激するための「仕掛け」としての役割があると考えています。教科書会社の方ともお話をする機会がありますが、やはりそういうことを狙いにしているようで、知識や技術は資料集にまとめて、教科書は指導要領に則した指導がされるよう、学びのガイドライン的な役割としてデザインしているとのことです。   教科書を使わなくても授業はできますが、学習意欲に火をつけたり、絵画...

ハロウィンでパンのマグネット

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 先日の10月31日はハロウィンということで、毎年恒例の実家のパン屋である達脇ベーカリーの商品を模したマグネットを制作して、「Trick or treat」と言ってきた生徒に配りました。  今年は9つ作成して朝の会が終わって1時間目の授業が始まる前に次々に「Trick or treat」と言って来られて一瞬で9つ全てなくなってしまいました。達脇ベーカリーの宣伝のためにももっと作っておくべきだったと少々後悔していますが、全く認知されていなくて大量に余った年もあったので、パンマグネットがもらえなくて残念がっていた生徒には「また来年!」と言って今後の布石にできたのは良かったと思っています。  このパンマグネットは磁石と(軽量)樹脂粘土とアクリル絵具があれば簡単にできます。樹脂粘土を使った工芸品についてはたくさんの情報がWEB上にあるので、作ることに興味があれば是非挑戦してみてほしいと思います。  昨年もハロウィンでパンマグネットを配る記事を書きましたが、今年は違った視点で文章を書いているので、昨年のものと併せて読んでいただけると嬉しいです。 昨年の記事へのリンク 簡単に作れて楽しめるお菓子の模型  これはお菓子作りが好きな人に共感してもらえるのではないかと思いますが、味の良し悪しは置いておくとして、パンを含めてお菓子は造形的な難しさがそれほど高くなく、しかも大量生産したらかなりそれらしく見えるという手軽さと作る楽しさがあると思います。それは粘土で模型を作る場合も同様で、ちょっと手を加えただけでそれらしい品になります。  樹脂粘土は絵具を混ぜると綺麗に色が染まるので、生地の色を忠実に再現することが可能ですし、軽量樹脂粘土は質感的にもパンや焼き菓子の雰囲気を出しやすく、かなりリアルな仕上がりになります。  手に取って構造を分析してみると、その簡単さに気がつけると思います。実際に手作りでお菓子を作る人であれば何の難しさもなく形を作ることができるでしょう。焼き色を調整してつけたり、カレーパンなどのようにゴツゴツした質感を再現したりするには、少々技術や知識が必要になりますが、それほど難しいものでもありません。   パンやお菓子といった身近なもので簡単に表現できるものを粘土で作成する経験は、粘土造形のスモールステップになります 。幼い子どもが粘土に興味をもち、造形することが好きになる...