新型やくもで発見した伝統文様から地元愛を育む美術の授業を考える

  1122日に開催された中国五県造形教育研究大会(島根大会)に参加してきました。公開授業の自画像の鑑賞(中3)、研究協議のふるさと教育、教科調査官の平田先生の講演、どれも大変学びのある内容で、改めてじっくりと美術に取り組んだり、学習を通して地域に目を向けて自分たちにできることを考えられるようにしたりすることの重要性について考えを深めることができました。今回はその大会レポートについてお話ししたいところですが、行き帰りで利用した新型やくもで不意に発見したものについてお話ししたいと思います。


シートに麻の葉文様

 待望の新型やくも初乗車ですぐに目に入ってきたのがシートの模様でした。なんとさり気なく麻の葉文様が施されていたのです。現在中2の美術の学習で日本の美について取り組んでいるので、これは良い教材を見つけたと思って写真撮影。身の回りのデザインに伝統文様が利用されていることを示す良いネタになりました。麻の葉は古来から神事において人を守る魔除けの意味で用いられてきたものなので、出雲へ向かう特急にピッタリのデザインです。ちなみにグリーン車には積石亀甲の文様が施されているそうで、こちらは富や長寿を意味しています。



 新型やくものシートに施されたそんなこだわりを感じ取って、文様をデザインに利用することの意味について改めて考えることになりました。文様の意味を知り、それが何に活かせるものであるのか。そういう視点を美術の学習の中でも大切にしたいと思いました。伝統文様や和柄でどんな品をプロデュースしたいか。そんな題材設定の美術の学習活動もできるのではないでしょうか。


麻の葉に気が付かないことも

 実は同じ列車に美術の先生が他にも乗っていて、終着駅の出雲に到着した時に出会って、早速新型やくもについて話をする機会があったのですが、その先生はシートに麻の葉文様が施されていることに気が付かなかったそうです。私は最近、毎日のように麻の葉を含む日本の伝統文様を授業で目にしているので一瞬で気がついたのですが、普段あまりそういったものを目にしていないと認知しにくいものかもしれません。その先生もそういう類のことを言われていました。

 文様に気がつけると、そこに込められた思いを感じられますし、意味がわからない場合は調べることもできますが、そもそも認知にあがらない状態であるとそのような文様の意味を受け取ることもできません。新型やくものシートに込められたメッセージを受け取れなかったところで明確に不利益を被ることはありませんが、意味を受け取る事ができると、おもてなしを感じて少し幸せな気持ちになれます。私は決して麻の葉文様による魔除けの効果を信じているわけではありませんが、この車両を製作した人たちの想いには触れられること自体が大切だと思います。


身近なものに地域ならではのデザインを生かす

 島根大会のふるさと教育に関する研究協議でも上がっていましたが、地元の魅力について語れる生徒は多くはなく(大人にとっても難しいことかもしれません)、それゆえに、ふるさと教育はとても意義のあることです。新型やくもに施されたデザインは出雲ならではの要素を生かし、それが持ち味になっているように、地元ならではの要素をデザインに生かす視点はデザイン教育において大切な意味があると思います。

 地元を愛する気持ちは多くの人に当てはまるものであり、愛するものであるからこそデザインを考えるモチベーションにつながりますし、デザインすることを自分ごととして捉え、生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる経験にもなります

 私が勤める倉敷だけでも優れた伝統的なデザインや工芸がありますし、日本に目を向けるとその数は膨大なものになります。そんなコンテンツに大変恵まれた日本に住んでいながら、いざ外国の人に日本の魅力を伝えようと思うと、実は意外とよく知らないことを自覚するケースは珍しくありません。日本の紹介で富士山と東京タワー、倉敷の場合は美観地区。定番の紹介ですが、これらだけでは無知を晒しているだけで皮肉過ぎます。

 倉敷であれば紡績業が盛んで、児島にはジーンズストリートがあります。桃太郎ジーンズの質の良さは世界に対しても誇りに思って良いレベルだと思います。倉敷はりこという伝統工芸品もあります。他にもかなり定番かもしれませんが大原美術館や瀬戸大橋、水島コンビナート、少しマイナーかもしれませんが国内でも大変評判の高いレベルの船穂のワイナリー、真備や浅原、玉島の白桃など、全国や世界レベルの優れたものがたくさんあります。カモ井加工紙のマスキングテープ「mt」はマスキングテープの代名詞的な存在で、セロハンテープで止めるという常識を変えました。

 倉敷は歴史ある文化都市なのでコンテンツ的に恵まれていると言えますが、大体どの地域にも伝統工芸であったり、地域特有のものがあるはずなので、デザインを生み出すネタは十分にあるはずです。なので、地元を生かす視点を教材の中に盛り込み、地域の中で美術を生かすという考えと、文化の発展に貢献する態度を育てることは教師のちょっとした工夫でできると思います。この点については私自身、今後教材を改善していく必要があるのですが、地元を生かすだけでテーマを設定しやすかったり、馴染みのあるものを絡めるとアイディアを浮かべやすかったりする可能性があるので、積極的に要素を取り入れていきたいと思います。これまでにもパブリックアートに関する制作で身近な場所で設置するところを考えたり、写真で合成作品を作成したり、身近な地域への視点は入れてきたのですが、さらに力を入れてより自分事として捉えられる制作にしていきたいと思います。



 パブリックアートは、遊び心のままによく知っている場所に設置して楽しめるのが良いです。デザインの場合であればパブリックアートのようなものよりも、より枠にはめていく必要があるので、難しく感じることもあるかもしれませんが、地元の要素を活用する美術の学習機会は、普段あまり使うことがない発想を生かして地元への愛を深めることにもなるため、3年間の美術の学習のどこかに設けて良いと思います。そして、そのためにも地元に繋げられるような余白をもたした教材設定をすることも大切だと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。結果的に、新型やくもでの発見が島根の研究大会で扱われていたふるさと教育にもつながるものだったので、私自身色々と考えを深める出張になりました。

 地元の要素を生かしたデザインは少し目を向ければいくらでも見つかると思いますし、それを生かして魅力的なものを新たに作り出すこともできるかもしれません。そんな学習体験をできるように教師としてできることはたくさんあると思いますので、その可能性を探りながら授業を考えていきたいと思います。そして生徒と一緒に岡山や倉敷をさらに好きになれるように取り組んでいきたいと思います。

 それではまた!


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