廃材を(ほぼ)そのまま利用した試作品
今回は美術室にある廃材をほぼそのまま利用した工芸の試作品を紹介します。しかし、これらはただの作品紹介ではなく、美術教育の一環で行っており、私としては大変意義深いものであると考えています。
作品制作という点でも、遊び心だけで大変気軽にできて、しかもそれらしく見えるものを紹介しますので、良かったらトライしてみてほしいと思います。
竹と木の破片でペン立て
1年生は現在木の工芸の授業をしています。木材はペーパーナイフ用の板を一律で購入しているのですが、それに加えて木の廃材や竹も教室には自由に使える材料として用意しているので、生徒は各々の取り組みたいものに合わせて作品制作に取り組んでいます。
工芸の授業では糸鋸やノミ、ハンマーなどを使って加工するので、たくさんの材料の切れ端が出ます。そんな廃材もすぐに捨てるのではなく、廃材ボックスに入れて皆が自由に使えるようにしています。そうしていると、思わぬ出会い(セレンディピティ)があるもので、ある人からしたらただの廃材でも、別の人からすると閃きを生み出す形であることも多々あります。私はバターナイフやペーパーナイフ、スプーン、フォークなどこれまで試作品をたくさん制作してきましたが、これらはほぼ全て廃材を見て閃きが得られた切れ端を活用しています。
先日、授業の最後5分ぐらいに電動糸鋸の周りを掃除をしていて不意に竹の切れ端を発見しました。最初はゴミとして捨てようと思って拾ったのですが、妙に心をくすぐられる竹の形をよく見ると、何かを立てることができそうなキャップ状の形をしていたので、これを安定して立たせるために何か良い手段はないかと考えました。そこで、電動糸鋸機の台の下に廃材ボックスを用意しているので、そこから候補を探してみることに。すぐに良さそうな形の木材が見つかりました。三角形に近い形の薄い木材で木目が細かく見えており、竹の模様と対照的な雰囲気を持っていました。これを土台にすれば竹が安定すると考え、ボンドで接着。何も加工を施していないので制作時間は1分弱でしたが、個人的には十分に満足できる作品となりました。
当初はペン立てにしようと考え、早速利用しようと思ったのですが、フォークやスプーンが突き刺さっていても面白いと考えこのような写真となりました。私は試作品を見て触れるように教室前方に設置しているので、そこにこのような形でセットすると、伝説のフォークみたいな感じになりますが、こういう遊び心を見せること自体が大切だと考え、工芸の学習期間中は常にこのような状態で活用しています。ちなみに猿のレリーフはただのノリで置いているように見えるかもしれませんが、一応浮き彫りとはどのようなものか説明するための資料として置いています。
切れ端にヤスリがけしニスを塗っただけの箸置き
見方によってはただの切れ端でゴミにしか見えませんが、箸置きとして見れば立派な形です。あとはこの形をそのまま生かして質感を良くするだけで、やすりがけとニス塗りを合わせて30分程度で完成しましたが、それらしい作品に仕上がったと思います。
何かに見立てる力と気づく力の醸成
美術教育となると、描いたり作ったりする技術にフォーカスが当たりやすいのですが、それと同じが、それ以上に私は何かに見立てる力や、作品にできることに気づく力は大事だと私は考えています。ただ、これらの力は本来人間にかなり備わったものであると言えます。私の2歳の娘の様子を見ていると、色んな身の回りのものを何かに見立てて活用しています。そうして、こちらが何も教えていなくても、自然とおままごとが発展していくという事実を考えると、大昔から道具として使えるものに気がついたり、何かに見立てて使ったりする力は人間に本来備わったものであると考えられます。
しかし、そんな力が中学生ぐらいになるとうまく発揮できなくなってしまう傾向があります。おままごとをしなくなって、実用的で現実的な行為が中心になると、何かを他のものに見立てて使うことが異常な行為に見えてしまうこともあるでしょうし、見立てる習慣がないと、有り合わせのものでなんとかしようとする(ブリコラージュの)機会が乏しくなり、活用できるものに気づく力も錆びついていきます。ただ、忘れてはいけないこととして、幼い子どもの自由な発想に大人は驚くことがありますが、そういう大人も子ども時代には周りの大人を持ち前の発想力で驚かせてきたはずです。潜在能力としてこういった力があるはずであり、大人になってからでもきっかけ次第で力はある程度復活するのではないでしょうか。そういった意味で、私は立場上、常に生徒の若い感性を刺激にさせてもらえているのでありがたいことだと思います。
義務教育の最後になる中学美術はそんな見立てる力と気づく力を生涯に渡って伸ばし続けるマインドを深い体験と言語化による学習によって醸成する役割があると考えています。無心でできていたことは理性や固定観念によってできなくなってしまう可能性がありますが、そうならないように、知識と経験を理性の面から育めるのが美術教育です。そう考えると、美術教師の役割は非常に重要であり、生涯遊び心を発揮して創造的な生活をできるきっかけを与える教育ができているか、よく考えて指導をデザインする必要があると思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は廃材をほぼそのまま利用した試作品と、そういったものを教育的視点で生徒に示すことの意義について私の考えを述べさせていただきました。何か参考になるものがあれば嬉しいですし、是非廃材などで遊び心のある作品を作ってみてほしいです。
遊び心のある創造性はウェルビーイングに溢れた生活を支える大切な要素です。美術に限らず、教育の根幹に関わる大切な部分だと思いますので、これからも実践と研究を重ねていきたいと思います。
それではまた!
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