色彩の学習を促す教材① 〜パレット絵画〜
今回は色彩の学習を促す教材の紹介をします。色彩の学習に関しては「色の三要素」「対比」「トーン」など座学的なものも多少は行いますが、私は実際に絵具を使って実験的に色への理解を深める方法をこれまで実践してきました。知識は大切ですが、絵の具で遊びながら色をコントロールする楽しさを知ることが何よりも大切だと考えています。
今年度授業で扱う色彩の教材は過去の反省を元に作成し、より体系的に色彩への理解を深められるものにしました。美術教育に携わる人だけでなく、絵画を描く際にパレットがイマイチ良い感じに使えておらず、色塗りが苦手だったという人にとっても、色彩を扱う上での参考になれば嬉しいです。
パレットを生かした絵画ですぐに混色の実験
これまでは色彩の学習の導入として三原色をスケッチブックに出し、自由に絵具を混ぜて色を作るという方法を取ってきました。これはこれで生徒は楽しそうに色を混ぜて色を濁らせたり、虹色にグラデーションさせて楽しんできたわけですが、その後パレットを活用する際にイマイチ色彩の学習として取り組んだことが生かされていませんでした。このような状況を踏まえて、教材を考える必要があると感じてきました。
以前のものは最初に三原色を出して「自由に混色」→「色彩の学習で色の知識を身につける」→「三原色+白+黒で自由に混色しながら抽象画」という流れで、スケッチブック上に無限の色を作ることを目指して取り組んでいました。
混色の仕方は自由で、生徒は思い思いにスケッチブックを色で塗りつぶしている印象でした。
今年のもの
スケッチブックに自由に混色を作る場合と、パレットの印刷を施したものを使って混色を作る場合では、生徒の取り組み方に大きな変化が見られました。
以前は造形遊びの要素が非常に強く、混色を狙って作るというよりは遊んでいるうちに偶然混色がたくさん生まれるというタイプのものが多かったのですが、今回はかなり色の扱い方を研究している様子が伺えます。
2つの教材は方向性が異なるため単純比較で良し悪しを決めることはできませんが、私としては「パレットを使いこなせるようになってほしい」「混色を自在に作る手応えを得てほしい」「模様を作って抽象画を描いたり、色彩豊かに具象画を描いてほしい」「滲みやぼかしなど水彩の技術も混色の中で生かして欲しい」といった目的があったので、今年の教材のマイナーチェンジはある程度狙った結果を得られたと感じています。
今年の実戦の中で少し意外だったことが見られました。それは、三原色の混色で十分に多彩な色が作れるため、他の色を使わず1時間実験を続ける生徒も多く見られたということです。私自身、三原色で色が自由にできることを知って以来(知識的には小学校の頃から知っていましたが、色を自由にコントロールするという視点で知ったのは大学時代(当時は英語教育が専門))、他の色に比べて三原色を特に水彩画や色鉛筆画で使うことが多くなったので、それと同様の現象が起きていたのかもしれません。色を自在にコントロールする楽しさを味わえることは、主体的な学びを実現する上で大切だと思います。
まずは三原色でグラデーション
先にも説明したように、この教材では最初に三原色(マゼンタ、イエロー、シアン(絵具セットに入っていないためセルリアンブルーを使用))をパレット画用紙に置き、自由に混色するところから始まります。これは混色を学ぶ上での仕掛けで、ほとんどの生徒が三原色を混ぜて黒っぽい濁った色を作ります。混色する前には「この三色でなるべくたくさんの色を作ってみよう」と伝えた上でスタートします。しかし、結果的にはダークな混色ができる。この時点で三原色が混ざると色が濁るということを実感することになります。
しかし、色彩の学習の中で三色が混ざると濁る一方で、二色であれば中間の色(橙、緑、紫)ができるということを確認し、再度三原色を出して混色すると、今度は自在に色をコントロールして多様な色を作り始めるようになります。
昔の教材では三原色の色鉛筆でワークシートに三原色を調整して塗る形でやっていました。これはこれで楽しく色を調整する生徒もいたのですが、枠の中に塗り絵するよりも、色を塗り広げて模様を作りながら混色を作る現在のやり方の方が多くの生徒に楽しんでもらえている感覚があります。
三原色の混色に手応えを掴むことができた生徒は抽象画や具象画でさらに色の実験をしながらタッチを工夫したり、水の量を調整して描いたり、短時間で学習が発展する姿を見ることができました。
画用紙だからこそ抽象も具象も試しやすい
パレットを自在に使えるようになるためなら、実際にパレットを使って色を作る練習をした方が良いのではないかと思う人もいるかもしれませんが、私は色彩豊かに絵を描く楽しさをこの教材を通して生徒に感じて欲しいと考えているので、画用紙(印刷と水の反発性も考えてケント紙)を使うことにしました。最初はパレットに抽象画を描くことも考えたのですが、パレットは絵を描くための皿のスペースが小さく、水に対する反発性も高く水彩画の技法は生かせないということから、画用紙にしました。また、パレットと画用紙の一体化は混色で絵を描く上でのスモールステップの働きもあり、パレットと画用紙が別々の場合に比べて、混色がそのまま絵になるため、とても取り組みやすくなっています。
パレット絵画にすると、抽象画はもちろんですが具象画も描きやすく、枠で分けられているので、生徒にとってもスペースで抽象と具象を分けて取り組みやすくなります。そういった仕掛けとしてもパレット画用紙は役立ったと感じています。
このパレット絵画の学習は1時間のみですが、実は、これに続く色彩学習をテーマにした水彩画の教材(2時間構成)でもこのパレット絵画を引き続き活用できるようにしています。そうすると、固まった絵具を水で溶かし、水彩画として丁度良い状態で色を塗ることができ、水彩画の色彩バリュエーションが以前よりも豊かになっていることが確認できました。これがもしチューブから出した柔らかい絵具を使った場合だと、うまく色の濃さを調整できずに全てが強い色になりがちなのですが、固まった絵具を溶かして使う場合、自然と重色も活用して色を調整する姿を見ることができます。
パレットを制するものは色彩を制する。こんなことを私は普段から考えているわけですが、私が思っていた以上に、パレットにたくさんの色彩を作ることができている状態は色使いに対するマインドセットにポジティブな影響を生み出すようです。色に対する世界観が広がれば、表現できることも自然と広がります。中学1年生の早い段階でこの教材で学習することには大きな意義があると思います。
この教材の経験が実際のパレットでも生かせるように、継続的に指導していく必要はありますが、これまでの混色の学習と比べると生徒が色彩をコントロールしながら絵を描いている姿が如実に見られるので、今後の取り組みに向けて非常にポジティブな手応えを掴むことができました。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は色彩の学習を促す教材ということで「パレット絵画」を紹介しました。今回の色彩学習の効果がどれほどのものであるかは今後の追跡調査が必要ではありますが、以前と比べると色彩を体系的に学ぶことができた生徒は多いと感じているので、今後のパレット活用に期待したいと思います。
今回の内容が読んでくださった方にとって何か参考になるものとなれば嬉しいです。
それではまた!
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