美術室の環境改善 〜教科書としての機能空間に〜
夏休みが始まってゆっくり休むどころか、県の総合体育大会、市の大会などが怒涛のように入り、むしろハードな日々を送っているうちに、早くも1週間が経ちました。年休は多少取ることができているので、日頃よりは自分の時間を作ることができていることを考えると、一応夏休みらしい生活はできていると思います。残りの夏休み中の出勤日は、ほとんど終日か半日の出張で、部活動と出張にさらに追われる日々になるので、寸暇を見つけては自分のやりたいことのために有効に時間を使いたいと思います。
今回紹介する内容は日々アップデートしている美術室の環境についてです。これまでにも様々な改善を加えてきましたが、まだまだやれることはたくさんあるということで、工夫できる余地を探し続けています。
昨年、光村図書の取材で美術室を紹介していただく機会がありましたが、それから半年以上の間にかなり大きな変更を加えました。正直なところ、取材をやり直して欲しいです(苦笑)
私の美術室:"Go Crazy"わくわくする空間
むしろ、取材された機会が自分のメタ認知の機会となり、課題意識が生まれて今の美術室の空間があると言えるのかもしれません。
私が目指している美術室のコンセプトはとにかく美術がやりたくなる空間であり、テーマパークのようなワクワク感を味わってもらえるように工夫をしています。美術を学ぶ上で教科書や美術資料が有効なツールであることは間違いありませんが、それ以上に美術室の空間を生かすことは生徒の美術表現や学びに対する主体性を伸ばすことに影響があると考えています。この視点は、西洋の教会や大聖堂の内部がステンドグラスや壁画、彫刻によって埋められていて、文字が読めない人でも空間の装飾によってキリスト教について学ぶことができるようにしていたことが参考になっています(中世のキリスト教関係の言語がラテン語で統一されていたこと自体は一般市民の教養や社会的な活躍の障害になっていたかもしれませんが、空間による教育的な可能性については認めざるを得ないものです)。
私自身、結婚して子どもができる以前、長期休みの際にはよく海外旅行(旅行というよりは自己研鑽目的)に行き、多くの大聖堂の内部を見学して、その教育的効果については実感してきました。また、身近なところでは美術館や博物館、水族館や動物園など、リアルな体験をしつつ知識にもアクセスできる環境は学習効果の面で非常に大きいと考えられます。こういった自分自身の経験からも、空間による教育効果、そしてリアルな体験による感動経験に溢れた美術室をクリエイトすることに重要性を感じています。
前置きが長くなりましたが、今回は私が美術室に施している仕掛けを紹介します。これまでにも紹介してきたものもありますが、何か参考になるものがあれば嬉しいです。
今年度新しく導入した仕掛け
まずは、過去の記事で紹介していない最近導入した仕掛けについて紹介します。
モダンテクニックの掛け合わせ
これは1年生の絵画の学習でモダンテクニックについて学習する機会があった際に、造形遊びで終わってしまう生徒が多かったため、組み合わせによってモダンテクニックの効果を生かした作品ができることを認識してもらえるよう作成しました。乾燥棚の前のスペースがこれまでは何もないダンボールパネルの下敷き状態でしたが、ダンボールに穴が空いたり、汚れが目立ってきていたので、モダンテクニックを組み合わせた試作品のレプリカをラミネートしてスペースを埋めました。乾燥棚はの前に貼り付けたことで、生徒の目に自然と入るようにしています。
授業で学習したモダンテクニックを必要に応じて利用する視点を育てるためにも、常に目に入る環境に配置しておくことが重要です。教科書や美術資料の中にある情報よりも、普段から目に見える環境の方が影響力はあります。また、モダンテクニック単体の作品より、それらを組み合わせた作品にすることで、様々な技法を応用する視点を培うことも期待できます。
モダンテクニックだけが表現の工夫要素ではありませんが、色々なものを組み合わせる視点は創造力を伸ばす上で重要なので、生徒が「こんなこともできるのか!」と思わせる仕掛けを充実させていきたいと考えています。
構成遊び用の積み木とトイレットペーパー、割箸
トイレットペーパーの構成については最近も紹介しましたが、構成遊びの基本である積み木も生徒が自由に触れるように用意しました。構成遊び用玩具ということで割箸もセットにしてカゴに入れています。
何かを繰り返し置いて並べたり、積み上げたり、そういった経験が構成力や(主に幾何学分野の)数学的な視点を育てることに繋がります。実体験に基づいたリテラシーの獲得は幾何学的なことや構成に関することを学ぶ際に、帰納的な思考法で経験を元に物事の論理を理解する助けになります。そういった意味でも、実際に触って変化を楽しめる体験の場を美術室に充実させることは大切だと考えています。
以前から設置していた仕掛け
以前から美術室に施していた仕掛けを画像付きでまとめました。暇を見つけては少しずつアレンジを加えています。
学習に関連のあるもので教室内を装飾したり、利用できる環境を整備することで、生徒は学びと表現のサイクルを回し、やりたいことに挑戦しやすくなります。美術室に来るだけで鑑賞する機会が得られますし、造形遊びしたり、美的な体験ができたりという、手軽に美術について学べる環境を充実させることで、美術への興味関心が育ち、それが教科書や美術資料、その他の情報に触れる動機につながります。
美術室が教科としての美術の学びに加え、美的な原体験に溢れた場として機能すれば、中学校卒業後にも心豊かに美術と関わる「生きる力」として貢献することになるでしょう。そんなことを考え、日々教室環境の改善に取り組んでいます。
今後に向けて
美術室の中はかなりできることが限られてきていると思いますが、これからも可能性を探り続けていきたいと思います。私が赴任した当初は一旦教室を片付けて大規模な断捨離を実行しましたが、それ以降、足し算の考え方で美術室にアレンジを加えている状況です。ただ、それによってスペースがかなり狭くなってきているのも事実なので、今後適度に引き算の考え方を入れながら教室の機能性向上と、より効果的に美的な刺激を与える工夫をしていきたいと思います。
教室環境の改善という点で、生徒の興味関心に刺さるものを掴むことが大切になります。そのためにも、生徒が取り組む様子を見取ったり、対話したりする中で、美術室に用意することが望ましいものを考えていきたいと思います。また、美術室だけでなく、校内の他の場所にも美術の要素を生かした環境改善に取り組みたいと考えています。ちなみに、勤務校は古い校舎で美的な要素が乏しい環境なので、美術室以外の場所は伸び代がたっぷりあります。美しくない場所が美術の力で美しく生まれ変わるよう、これからも励んでいきたいと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は美術室の環境改善について紹介させていただきました。色んなタイプの美術室があって良いと思いますが、私は充実した美術体験が約束されたワクワクする環境、そして生徒と一緒に創造的に遊べる場としての役割が美術室にはあると考えていますので、以上のような工夫を施してきました。今回の内容が何か参考になるものであれば嬉しいです。
夏休みはまだ序盤ではありますが、2学期に向けて、さらに教室環境を改善して、授業再開を楽しみに待ちたいと思います。これが私のちょっとした夏休みの自由研究といったところでしょうか。過酷な真夏のソフトテニスの部活動と涼しい環境で行う教育関係の研究、メリハリのある生活で元気に過ごしたいと思います。
それではまた!
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