図工部会の夏期研修会
週明けからは2学期開始ですね。夏休み最終盤となった今週も月曜日を除いて毎日出張(部活動も有)という休めない日々でした。ただ、今週の出張5つ(火曜日は1日に2つでした)の内、研修会が3つで、そのうち2つは私が講師を務める機会があり、とても充実した1週間だったと思います。
私が講師を務めた研修会は久米郡図工部会の夏期研修会とCEC岡山のCanvaの研修会でした。Canva の研修会は私以外に多数の講師が発表しましたが、図工部会の研修会は私が全て担当させていただきました。
今回は図工部会での夏期研修会の内容と、成果についてまとめました。研修を通して、図工と美術の役割の違いについて改めて考えを深めることができ、私自身も大変良い学びの機会となりました。
研修内容 
「作品のための造形活動ではなく、学びと遊びのための造形活動」
2時間の研修会の最初の1時間は、主に数分間でできるエクササイズを通して、「できない」から「できる」と思えるようになる体験をしていただきました。
最初のエクササイズは割り箸や積木、紙コップ、トイレットペーパーの芯などを活用する構成遊びで、3分間で参加者の先生には自由に形を構成していただきました。短時間ではありましたが、工夫がどんどん生まれ、参加された先生方はそれぞれ全く異なる魅力的な構成をつくられていました。
この最初のエクササイズでは、材料面での環境さえ充実していれば、創造性を発揮することは難しいことではないということ、造形遊びしているうちに工夫が生まれ、結果的に作品として進化するということについて考えていただきました。
続いてのエクササイズは逆さデッサンで、グリッド線入りの犬の絵を逆さにしたまま描くというものです。これは4分間で描いていただきました。このエクササイズはこれまでにもブログで紹介したことがあるもので、上下逆さにすることで対象に対する先入観が弱くなり、結果的に対象をよく見て描くことができるようになり、グリッド線があることで位置関係をグラフのようにデータ化して捉えることができるため、短時間でもポイントを掴んで正確に描けます。これを通して、捉え方と表し方を知れば短時間でも知識や技能の向上を図ることができ、それはあらゆる学びのポイントになることをお話ししました。
ただ、写実的に描く力だけが絵画ではありませんし、大切にしたいのは何かをつくりたいと強く思う気持ちと自分の感性を生かして自由に表現できるようになることです。この視点を大切にして、児童生徒が安心して取り組めるようにする教師としてのマインドセットについてもお話しさせていただきました。
大人はついつい子どもに「正解」を教えようとして、表現を型にはめ込んで失敗をさせない教育を施そうとします。しかし、それは結果として子どもたち自身の挑戦の機会を奪い、独自の視点を育てることが困難になってしまいます。周りからなかなか認められなくても挑戦を続けた偉大な芸術家がたくさんいることを考えると、造形表現を型にはめて、表現者以外にとっての「正解」を押し付けるようなことは美術だけでなく、学びの面から考えても本質的ではありません。制作のプロセスそのものをしっかり見取り、指導と評価の一体化によって子どもたちの造形的な挑戦が肯定的に教師に受け止められる、安心して取り組める環境をつくることが教師の大切な役割です。そのような状況になれば、遊びと学びの一体化を目指すことも可能となり、より充実した学習に繋げられるだけでなく、児童生徒にとって幸福な造形学習の時間になり、それはそのまま教師にとっても豊かな学びを得られるようになります。
小学校でもGoogle Workspace for Educationを利用しているので、Googleクラスルームや、そのツールで利用できるルーブリックの機能で指導と評価の一体化が容易であり、制作のプロセス自体を評価することができることについてお話しさせていただきました。
作品制作のための造形教育ではなく、学びと遊びのための造形教育が成り立つのは、この指導と評価の一体化があってこそであり、思考力や判断力を発揮する上での最低限の知識と技能の担保がされている教材を用意することが大切です。
逆さデッサンは形の面で最低限の知識と技能を担保するきっかけとなる教材ですが、色彩表現に関してはパレット絵画が1学期の実践を通して高い有効性があるという手応えを掴んでいたので、3つ目のエクササイズとしてパレット絵画(ケント紙にパレットの枠を印刷したもの)に取り組んでいただきました。
パレット絵画では最初に三原色(赤・黄・青)を出してなるべくたくさんの色を混色でつくる時間を3分間取り、調整次第で無限に色をつくり出すことができるという手応えを掴んでいただき、その後模様や絵画をパレットの開いているスペースに描いていただきました。時間は10分間で、最初の5分間は三原色縛り、残り5分はパレットの小皿に出した色を自由に使えるようにして、色の微調整をしながら表現を発展させる体験をしていただきました。
この教材も以前にブログで紹介したものですが、これは絵の具を混ぜながら混色理論を身につけることができ、模様や絵画で遊びこむことによって色彩表現の魅力について深く知ることができます。さらに、その後もパレットとして利用可能なので、教材&道具の両面で大変利便性が高いと考えています。実際に、参加された先生たちからもご好評でした。
こうして、全2時間の内の前半1時間で遊びながら知識と技能を身につけ「できない」を「できる」に変えること、それによって思考や判断、表現力もより生かすことができるようになるということについてワークショップを通じて考えていただきました。
1枚の紙から無限の楽しさ
残りの1時間は中学1年生の最後の1時間で取り組む教材を体験していただきました。前半1時間の研修会で学んだ構成や形、色に関する知識を生かし、1枚の画用紙から無限の楽しさをつくり出すことを目的にして40分間で制作に取り組んでいただきました。あくまで楽しさをつくり出すことが目的なので、作品として出来上がることは二の次という前提で取り組んでいただきました。
皆さん思い思いに画用紙を利用されて、それぞれ大変魅力的な作品が最終的に生まれました。最初は自由にできることで逆に戸惑ったという先生も何名かいましたが、「やっているうちに発想が浮かんだ」と揃って言われているのが印象的でした。
最後は作品鑑賞会でお互いの作品を鑑賞し、作品の魅力が伝わる自分にとってのベストショットを撮影していただきました。これをする中でお互いに作品の多様な面に気がつき、自然と作品の見方について交流が起きていました。結果的に、ベストショットを撮影するはずが、皆さん(私も含め)色んなアングルやポジションで撮影されていました。作品を鑑賞する際のポイント(特に立体作品)として写真撮影も発展的要素を持っているので、お勧めです。
図工の意義についての考察
「造形的に遊ぶ楽しさ」をとことん追求できる体験を
今回、中学校の教師である私が小学校の図工の研修を担当させていただき、改めて色々と考えることができ、大変有意義な時間となりました。特に、「造形的に遊ぶ楽しさ」をとことん追求できる時間が図工では大切で、その考えは中学校美術でもやはり忘れてはいけないことであるということを強く思いました。その礎があるからこそ、その上に「つくる楽しさ」が成り立ちます。
1枚の紙で無限の楽しさをつくっていただいている最中に、参加された先生から、「自由に制作して良い」となると「何をしたら良いのか分からない」となったり、「うまくできずすぐに諦めてしまう」といったりする子どもが小学校の低学年の段階で既に結構いて困っているという相談を受けました。参加されている先生たち自身も自由に制作することが苦手だったと言われている方が複数おられ、やはりこの点は重要な課題であると言えます。ただ、そんな自由に制作するのが苦手と言われている先生も、手を動かし、遊んでいるうちに発想が浮かび、作品が短時間で進化していきました。このことから、まず遊びで手を動かして変化を生み出してみることが造形教育の重要な視点であることが浮かび上がります。
色や形、材料で遊び、構成をつくったり、絵を描いたり。そういう体験を楽しめること自体がとても大切であり、造形教育の根本を成すものです。これが「ある決まった作品」を上手にスムーズに制作することが目的化すると、遊びの可能性が犠牲になってしまい、体験が薄っぺらいものになってしまいます。大人の目では一見「無駄」に思えるようなことでも、遊びに没頭している子どもにとっては多様性のある経験をしているわけで、そもそも遊びに没頭できている時点で、それはその子どもにとって充実した造形体験になっていると言えます。そういう「造形的に遊ぶ楽しさ」が担保された授業をデザインすることが図工や美術を愛好する人を育てることにつながります。
造形的に遊ぶことさえできていれば、そもそも何か特定のモチーフを再現できるかどうかは問題ではなくなります。うまくできずに諦めてしまうというのは、本人にとって、素材と遊びの関係ができていないことに原因があります。例えば、砂場遊びをしていて、「富士山をつくる」となった時に、富士山と全く同じものをつくることができないからと言って、つくることを諦めてしまう子どもはいないと考えられます。造形遊びをすること自体が充実感につながり、その中で自然と表現力も発揮され、道具や素材の発展的な利用で知識と技術も身につけていきます。
まずは造形遊びを通して楽しめる体験を大切にして、この時間では何かを作品としてつくることは全く求めない(つくるかどうかは本人の自由)という機会を設けることがその後の作品制作の時間につながります。遊びをする中で「できること」「楽しめること」を発見して、それを作品化する。そんな安心して遊べる授業環境をつくることが大切であることを改めて強く考えることができました。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は小学校図工部会の夏期研修会でお話しさせていただいた内容と、研修会を通して発見できたことをまとめさせていただきました。何か参考になる点があれば嬉しいです。
研修会で講師を務める経験は自分にとっても新たな気づきができる良い機会となるので、これからも要請があれば可能な限りお受けしたいと思います。
今年の夏休みの成果を2学期の業務に生かしていけるように、明日からも頑張っていきたいと思います。
それではまた!
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