グラフィックデザインの作品提出用ファイル

  今回は中学1年生のデザインの授業(グラフィックデザイン)で実践している完成作品の回収方法について紹介します。この方法にしたことでグラフィックデザインの学習がさらに促進される手応えを感じることができました。

 今回の内容は美術教育に携わる方向けの内容ではありますが、最後は文字を造形の要素として活用することの魅力についても少し触れているので、グラフィックデザインやアートに興味がある方にも読んでいただきたい内容となっています。



作品数の増加と多様化、回収の難しさを解決する方法

 5年以上前まではデザインの学習では自然物と人工物を利用した色面構成に取り組んだ上で、レタリングを学習し、ポスターを夏休みの時間も利用して取り組むというカリキュラム設定にしていました。その後一人一台端末が実現して、現在担任をしている3年生が1年生だった2年前から「グラフィックデザイナー体験」という教材にして取り組める内容を柔軟にしました。これによって、それまで授業中に制作する作品は色面構成だけだったのが、従来のものに加えてロゴマークやイラストのステッカー、ポスター、栞や下敷、団扇など、グラフィックデザイン全般のものを生徒の主体性に応じて作成できるようになりました。これは作品を制作する時間が端末利用によって劇的に短縮できるようになったことが大きく影響しています。



 美術の教科書にはデザインや工芸に関するページが約20ページ分(グラフィックデザイン系のものが約10ページ分)ありますが、もし色面構成だけで10時間ぐらいを費やして制作してしまうと、教科書を有効利用することが難しくなってしまいます。しかし、教科書の内容から学び、自由に制作したいものを選択して制作するというのであれば、教科書の充実した内容を生かすことも可能になります。限られた時間で多様な制作を可能にしたICT端末の恩恵は非常に大きいです。

 ただ、作品数が増え、形も多様化するということは、作品を回収することが難しくなることを意味します。一人1〜2枚程度の同じサイズの作品であれば管理も容易ですが、作品数が多く、サイズもバラバラとなっては回収が大変になるだけでなく、作品を評価する際にも煩雑な作業となってしまいます。

 そこで今回から取り入れた方法が、作品提出用ファイルの利用です。A3サイズの紙を半分に折り、下側を接着させると簡易ファイルができます。これに作品一式を挟んで提出するという方法を取るようにしました。


提出用ファイルにもデザインを施す

 この方法を採用したことで作品の管理が楽になっただけでなく、提出用ファイルにもグラフィックデザインで学習したことを活用してデザインを施す生徒が多数いました。生徒には提出用ファイルには記名だけでも問題ないと説明していますが、ファイルの装飾と学習したことを伝える役割もグラフィックデザインの大切な可能性であるため、ファイルのアレンジは本人の主体性に委ねました。



 ただ、ファイルにデザインを施すこと自体もグラフィックデザインの学習の一環にはなるので、学習状況が判断できる場合には評価させてもらうことも伝えています。なので、自由課題で自分の興味が持てるものがなく、ファイル作成には興味を持つことができたというのであれば、ファイルに施すグラフィックデザインが主な学習評価の対象になることさえあり得ます。さすがに、そのような生徒はおらず、ほとんどの生徒がロゴやポスター、色面構成、色面構成を生かした栞や下敷き、カード、ステッカーなど、自分で制作したいものを設定して取り組めていましたが、生徒が興味を持ったものには存分に取り組めるようにする柔軟な教材設定を大切にしています。


学習内容をアナログで実践

 端末を利用してグラフィックデザインに取り組むことになって、栞や下敷きなど一部のアナログ作品を制作する生徒を除いて、アナログでグラフィックデザインを施す機会が少なくなっていましたが、提出用ファイルはアナログでデザインを施す楽しさを実感する機会の創出に繋げることができたと感じています


 提出用ファイルのデザインには文字を使うケースが多く、この際にレタリングで学習したことを活用して明朝体やゴシック体、または他の字体を調べて書く生徒が多数いました。個人的には意外ではありますが、レタリングは生徒に人気で、文字が美しく格好良くかけるというのはテンションの上がることのようです。習字や書道も結構好きな生徒は多いので、文字を書く教材の可能性について考察を今後深めてみたいと思います。

 そんなことを考えていて、ふと思い出したのが、海外でよく見かけるグラフィックアートです。日本でもしばしば見ますね。これらを見て治安の悪さを感じる人もいるかもしれませんが、私は造形的にはとても興味深いものであると考えています。



 上の写真は昔ブリュッセルとアムステルダムで見かけて写真を撮影したものです。ブリュッセルのものはスケートボード用の公園ということもあり、かなりワイルドな造形が見られます。それに比べるとアムステルダムで見たものは建物の壁にかなり計画的に描かれたものであることが伺えます。個人的にはブリュッセルで見た思い切りの良いグラフィックアートが好きで、文字の上に文字が重ねられる中で色の層が複雑に形成されていました。

 文字も表し方次第でデザインやアートになりますし、絵は苦手でも文字なら誰でも書けます。そして文字の形が歪でも色や他の要素との組み合わせ次第で十分に魅力的な造形を実現できます。こういったことから文字を造形遊び的に表現し、その中で他の造形行為と組み合わせて、豊かな造形体験に繋げることもできるのではないかと思います。なので、美術教育の視点として深掘りしてみたいです。

 今回提出用ファイルを利用することは当初の計画では考えておらず、生徒が作品数を増やす中で、「これはこちらの作品管理が大変になるぞ…」と危機感を感じたことから急遽思いついたことでした。以前にも別の学年の教材で版画を扱った時に、今回同様に作品数が多いことから提出用ファイルを用意したことがあったので、個人的に要領を得ていたのが幸いでした。そして、生徒が提出用ファイル自体に楽しみながらデザインを施す姿を見て、改めてグラフィックデザインをアナログで取り組むことの魅力についても確認することができたことは自分にとって大きな収穫でした。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はグラフィックデザインの作品提出用ファイルについて紹介させていただきました。たくさんの作品に取り組むことができる教材を検討されている場合の作品回収方法の一例として参考になれば幸いです。

 それではまた!

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