原始人になったつもりで粘土造形

 


 今回は粘土を利用した美術の教材を紹介します。この授業では、原始的な造形体験を通して、既成概念から自由になり、美術の本質を感じ取ることを目指しました。授業では5〜10分程度で制作できるものなので、スモールステップの教材としても取り組みやすいと思います。短時間で作品ができますが、造形の本質に触れやすい教材なので、おすすめです。


まずは美術史の流れを把握した上で造形の原点へ

 粘土造形自体は10分以内にできるものですが、私はこの粘土造形の前に、簡単に美術史の学習に取り組ませます。内容は教科書に載っている美術史を簡略化したもので、原始時代から古代、中世、近世、近代、現代の日本と海外の代表的な美術作品のカードを用意します。それを時代ごとに並べ替えるエクササイズをした上で、答え合わせをしながら美術史の流れについて解説をします。並べ替えはグループワークで5分程度で行い、解説も10分程度で済ませます。美術史について詳しく学ぶのであれば、時間はいくらあっても足りませんが、流れを掴むだけであれば、割と短時間でいけます。内心はたっぷりと時間をかけたいところですが、時間対効果を考えると、知識は広く浅く(美術や社会で既習のものは確認を入れますが、それ以外は作者名や作品名にはほとんど触れません)、美術作品の意味や背景についてはなるべく深くという感じで取り組みます。


 その上で、日本を代表するアーティストである岡本太郎について簡単に紹介し、彼が大きな影響を受けたものとして火焔型土器(縄文土器)を紹介します。この流れは一番最初のエクササイズで火焔型土器に触れ、そこから時代が進んで美術が変化していくことを学んだ上で、原始時代の造形の魅力について改めて考えることができる仕掛けにしています

 美術がどういう存在であるかを考える上で美術史について把握することは大切です。そして創造の原点である原始時代の造形について考えることは、美術の本質について迫ることを促します。


原始人になったつもりで粘土造形

 粘土で造形を始めるにあたって、生徒には「原始人になろう」と言って粘土を渡します。現代社会には様々なものが溢れ、私たちは既成の価値や権威的なものに縛られた考え方をしがちです。そんな縛られた世界観で制作に取り組むと造形は必然的に制限されたものになってしまいます。そうならずに自由に制作するために、原始時代の縛られない価値観(現代人の勝手な想像でしかありませんが)を想像して、自由に手を動かしてもらいました

 制作時間もたっぷり時間があると、色々と考えて取り組んでしまうので、なるべく直感を生かして思い切った造形が半ば強制される短時間での制作にしています。普通はじっくり作品を制作して完成度を高ることが求められがちです。しかし、直感を生かした表現で、短時間でも多様な変化をしながら形を成していくという方法によって、創造性や造形する楽しさとはどういうものか、そして美術の本質とは何かについて考えを持てるようにすることを今回の教材では目指しました。

 できた作品を見ると、どうしても既成のものに引っ張られてしまうケースもありましたが、多くの生徒が粘土で形や色を楽しみながら結果的に作品にすることができていました。短時間で取り組んでも魅力的な造形ができるという経験は、創造力を育む上でのスモールステップとして大変有効であると私は考えています。

 私自身、このように短時間で造形遊び的に作品制作する授業ばかりではありませんが、たまに生徒の世界観に刺激を与える仕掛けになる授業を入れるようにしています。ちなみにこの教材は中学校美術について一通り学習した3年生の2学期に取り組むようにしています。これまで学習してきた知識や技術を活用する余裕さえほとんどない時間設定でやるからこそ、粘土と手のシンプルな関係でできる造形物の魅力について考える機会にすることを狙っています。

 完成度の高い作品にならなくても、「意外と良いものができた」という生徒や、「細かいことを考えずに無心で制作できて楽しかった」という類の感想の生徒も多くいました。


授業の最後に「美術を一言で表す」

 この授業の最後には、美術を一言で表す言葉を生徒に考えてもらいます。言葉と作品、作品説明はGoogleスライドにまとめ、共有用スライドにコピー&ペーストします。こうすることで、学年全体で鑑賞できる資料にすることができ、学習をさらに深めることに繋げられます。



 実は導入でも一言で表してもらうようにしているのですが、この際には「アート」「芸術」「綺麗」「自由」といったありきたりどころか、ただの言い換えにしかなっていない言葉を発する生徒も多くいます(私の普段の指導が不十分であることの裏返しでしかありませんが…)。それが授業の最後には、「積み重ね」「歴史」「想いを形にすること」「感情」「夢」「人生」「生活・日常」「思い切り」「定義できないもの」など、多様な言葉で表現されるようになります。これは美術への視点の変化を表していると考えています。ただの表面的な造形物ではなく、美術表現には壮大なドラマが存在すること、そしてそれは人間の文化活動や生命活動を象徴するようなものであることを認識できるようになることは、美術を学ぶ上でとても大切なことです

 大人になった時に「美術の授業」で学んだことを聞かれた時に、絵画や彫刻など作ったものをイメージする人は多いかもしれませんが、これは「学んだ」ことというより、「作った」ものです。美術教育で大切なことは、美術で学んだことが自分の世界観を形成し、それによって思考や想像に影響を与え、知識や技術によってイメージしたことを実現したり、楽しさを創造する視点を身につけたり(ウェルビーイングのマインドセット)、実践的な生きる力を獲得することです。そういう美術の大切な学びに気がつけるような仕掛けを教材に仕組み、鑑賞の機会で多くの生徒と共有することができるよう、教材や指導計画をこれからも考えていきたいと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は原始人になったつもりで粘土造形する教材について紹介させていただきました。この内容は中学3年生の教材として考えたものではありますが、造形の基本姿勢として既成観念にとらわれずに、造形遊びとして材料と身体の相互関係を楽しむことは、あらゆる年代の人にとって価値あることだと思います。造形遊びが得意な子どもに負けず、大人も造形遊びすると、それまでの経験値から面白いものが生み出せる可能性も大いにあると思います。是非大人の方にも原始人になったつもりで造形行為を楽しむ機会をつくってほしいと思います。

 私自身も、遊びこむことを大切にしながら研究をして、手軽に造形を楽しむことができて美術の本質にも迫れるような教材を開発していきたいと思います。

 それではまた!

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