造形力につながる生活の中での行為① りんごの皮剥き

 美術科という造形教育に携わっていると、生活の中で行うことが造形力につながっていると感じることに日々気がつきます。そんな気づきを今後しばしば取り上げて記事を書こうと思います。

 第1回は「りんごの皮剥き」についてお話しします。もちろん、包丁を使った皮剥きであれば、りんごではなくても良いです。要は、料理などで包丁を使って野菜や果物の皮を剥く経験と技術が造形力につながると言うことをお話しします。


皮剥きは彫刻の感覚を養う

 りんごは他の野菜や果物に比べてりんごの形が球体に近いため、包丁を使った皮剥きの初歩として適切です。サイズが大きいので、小学生の低学年には難しいかもしれませんが、高学年になると片手でりんごを回転させながら皮を剥くこともできるようになります。私も小学4から5年生の時にりんごの皮剥きを家庭内では担当することが多くなり、次第に上手になりました。


 皮を薄く剥くためには自然と皮の幅を狭めて切る必要があります。これは直線の刻みを多くすることでより滑らかな曲線が生まれることを体感的に理解することにつながります。
 中学校の彫刻の授業で、興味深い現象に出会います。平刀で木材の角を少しずつ削り落としていくと、カクカクとした面が増え、それが重なることで滑らかな「曲面」へと変化していきます。しかし、この理屈を言葉で説明しても、理解できる生徒は驚くほど少ないのです。彫刻経験のある方からすると冗談のように聞こえるかもしれませんが、球体のような曲面を彫刻表現する際に丸刀で彫ってぼこぼこの形にしてしまう生徒が大変多くいます。むしろ半分以上がこれに該当します。窪みの曲面を彫刻することと、球体の彫刻することの違いが彫刻経験のない人には分からないというのが現実です。
 中学1年生に木の工芸品(バターナイフ、箸、スプーンなど)を制作させていると、多くの生徒が丸刀で箸やスプーンの裏側の曲面を彫刻する姿を見てきました。この傾向は10年前と比べても明らかに顕著になってきていて、バターナイフの刃の部分も平刀ではなく丸刀で削った結果、木がなくなるということが普通に起きます。事前に曲面や刃の部分は平刀で削ることを説明しているにも関わらず、いざ自分で作業をすると適切に彫刻刀を利用できない生徒が多いことを考えると、りんご等の皮を包丁で剥いて滑らかな曲面をつくる経験の重要性が浮き彫りになってきます。

皮を薄く細く剥いて長くするゲーム的感覚

 りんごの皮剥きに慣れてくると、皮を薄く剥いて一本の長い皮にしたくなり人も多いと思います。薄く長くするためには自然と皮の幅も細くなり、難易度が上がりますが、これがゲーム的な感覚で楽しむことができるようになります。

 ゲーム化すれば主体性をもってりんごの皮剥きに取り組めるようになり、自然と技術が向上します。さらに、ジャガイモなど他のより難しいものの皮剥きにもチャレンジできるようになります。球体のものであればピーラーを使わずに早く皮を剥くことができるようになるので、短時間で料理をすることにもつながります。


まな板を使わずに切り分ける技術

 これは意外と一般的ではないのかもしれませんが、私はまな板を使わずにりんごを切り分けます。全て手の上で切ります。これを危ないと思う人もいるかもしれませんが、りんごは半分ぐらいまで切り込みを入れると、包丁を捻るだけでパカッと割れます。包丁にめいいっぱい力を入れてスパッと切るのではなく、包丁をぐいぐいとりんごに食いこましていく感じで半分ぐらいまで切り込みを入れます。

 まな板があれば一気に力任せに切っても問題ありませんが、まな板を使わずにりんごを切る場合、刃物を巧みにコントロールする力加減とりんごに食い込ませる刃の動かし方、こういった技術を培うことが造形力につながると考えられます。彫刻でも力任せに彫刻刀を押すことはありますが、刃を動かしたい分だけ動かす技術が重要で、これができると狙った形に削ることができます。


 りんごの皮を剥いて切り分けるだけでも刃物を扱う技術が大変向上します。この経験が彫刻の基本的な力を伸ばすことにもつながると思います。

 ちなみに、料理や製菓といったものも造形力や発想力を育む上で重要です。創業1889年の達脇ベーカリーの息子である私が粘土を触ると血がさわぐのは偶然ではないと思います。

 幼い時から手を動かして何かを作るという経験をたくさんできる環境を用意することは大人の大切な役割です。そういう意味で、子どもと一緒に料理をしたり、お菓子作りしたりすることは親が手軽にできることなので、子ども小学生ぐらいになったら少しずつできる範囲で一緒にする機会を増やしていけると良いでしょうね。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は造形力につながる生活の中での行為ということで、りんごの皮剥きについてお話しさせていただきました。刃物は危険を伴いますが、親の目の届く状況で少しずつ使わせて、正しい使い方を習得できるようにしたいですね。そういった経験が結果的に造形感覚を育てることになり、図工や美術を楽しむ素養になると考えられます。今回は包丁でしたが、子どもには創造性に関係する道具類はとにかく色々経験させてあげたいものです。

 私の娘も3歳になり、最近はハサミで紙を切ることに夢中になっています。工作用に用意した折り紙もあっという間に切り刻まれてなくなりますが、これも造形感覚を育てる大切な時間と思って見守っています。いずれ包丁が使える年齢になった時にはりんごの皮剥き勝負もしたいです。

 これからも造形力につながる生活の中での行為について記事をしばしば書いていこうと思いますので、今後も読んでもらえると嬉しいです。

 それではまた!

コメント

このブログの人気の投稿

Google classroomを活用した美術科における振り返り活動 vol.1

授業資料とChatGPTでGoogleフォームの練習問題を短時間で作成

Canvaのクラス招待をGoogleクラスルームでスムーズに 〜みんなが使いやすいCanvaの導入〜

美術科の作品展をQRコード活用で学習資料共有の場に