Google Jamboardを用いた鑑賞の可能性
Jamboardの魅力はホワイトボードのように文字を書いたり、入力したりすることができるだけでなく、写真の貼り付けや付箋ツールによる意見の共有が複数人で同時に行えるというところです。これまで授業中に発言する生徒というのは一部の生徒に限られ、そういった生徒と教師とのキャッチボールで授業が展開し、その他の多数は傍観者状態というのが少なからずあったと思いますが、Jamboardを用いると、全員が気楽に意見を出すことができるので、多様な視点をもった意見が爆発的に集められるようになりました。Jamboardの編集は匿名性が強いため、ヤフコメのように気軽に考えを発信することができます。中には授業に関係のない悪ふざけをする生徒もいるかもしれませんが、ある程度そういう行動を教師側でコントロールしたり、生徒も慣れてくると、誰が悪さをしているのかサーチする力もついたりしてくるので、授業中に秩序が崩壊することは稀になります。twitterなどにもみられる傾向ですが、「刺さる」発言を自然と考え始めます。
三人寄れば文殊の知恵、三十人寄れば…
「三人寄れば文殊の知恵」という言葉がありますが、クラスには30人以上いるので、文殊菩薩が10人ぐらい教室にいる状態ですね。これまでただの傍観者で受動的に授業に参加していた生徒も、自分の意見に教師や他者が反応を示し、考えが広がっていく状況なので、能動的に参加しやすくなったと思います。実際にこれまで意見が言いたくても恥ずかしくて言えなかった生徒の参加によって、短時間で考えが劇的に集まるようになりました。
これを言うと教師の自己満足なのかもしれませんが、これまで少しずつ意見が深まっていって、最終的に凄い意見が出るというのが授業をしている側としては面白かったのですが、あまりに簡単に深まるので、授業の雰囲気と成果に乖離を感じ、ある種の寂しさを感じるぐらいです。しかし、生徒が活躍すると教師の出番が少なくなるというのは理想と言えます。この状況を促進し、教師が活動を見守ったり、支援したりといった役割を考えていくことが重要だと考えています。
そもそもGIGAスクール構想のGIGAとは「Global and Innovation Gateway for All」なので、教師が生徒に知識を教えるためのものではなく、生徒が包括的で革新的な世界の入り口に立てるように、教師が機会提供することがコンセプトにあり、多様な子どもたちに最適化された創造性を育む教育を実現するものです。教師一人が生徒に教えられることは限られていますが、生徒一人一人が自ら学び、それを協働学習で共有し、「これも面白そうだ」「自分も試しにやってみよう」「そういう考えもあったのか」と学びを深めていけるように、これからの教師は授業を考えていく必要があると思います。
今回トリックアートの鑑賞をJamboardを利用して行い、「トリックアートの魅力とは何か」「どうして視覚は騙されるのか」といったことについて生徒たちと一緒に考えることを通して、GIGAスクール構想の可能性についてさらに考えることができたと感じています。ここからは授業で見られた意見の共有について紹介し、これからの授業の在り方について考えてみたいと思います。
導入で生きる意見の共有
Jamboardの魅力はPowerPointのようにスライドとして使うことができるので、演出にこだわって生徒を惹きつける工夫ができるのも大きな魅力だと思います。デジタル教科書をスクリーンショットして貼り付けることもできるので、活用の幅は大変広いです。
今回トリックアートの鑑賞を始める前に、「騙されるのは好きか」を生徒に質問し、付箋で考えを共有しました。付箋の色分けで「好き」「嫌い」を分けておくと分かりやすいです。しかもこちらが何もしなくても整理してくれる生徒がクラスに大体一人はいるもので、見やすい画面に調整されていきます。
「騙されるのは好きですか?」という、かなり衝撃度の高い質問なので生徒の食いつきは良く、考えは瞬く間(1〜2分程度)に集まります。導入ではちょっとしたサプライズを仕掛け、生徒の関心に火を付けることで授業に勢いをつけたいところですね。毎回の授業でこれを実現するのは容易なことではありませんが、常々意識しておきたいと考えています。
この質問によって、「騙される」ことが場合によっては楽しかったり面白かったりするという考えもあることが共有できますし、騙されるのが嫌いな理由についても考えることができます。「腹が立つ」「楽しくない」「いい気分にならない」といった意見が多数ですが、この騙しに対する基本的な考え方があるからこそ、トリックアートの鑑賞を通して騙される面白さを知り、印象にも残るのではないかと考え、このような問いを用意しました。
考えは瞬く間に集まりますが、その間に出席簿のチェックと授業資料(ワークシート)の配布を行うこともできるので大変効率的に授業を行うこともできます。
鑑賞での気づきを共有
Jamboardに画像を貼り付けることで鑑賞がスムーズに行えるようになりました。これまでは教室中に画像を設置し、大規模な準備が必要で、生徒も教室中を動き回りながら鑑賞していたのですが、この方法なら席に座ったままじっくり作品を鑑賞することができます。
今回感染症対策という意味もあって、自分の席に座ったままでも鑑賞できる形を考える必要がありましたが、レプリカを鑑賞するぐらいならデジタル画面で十分ですし、拡大して見ることもできるので、そう言った点では作品をより質の高い状態で鑑賞することができるようになったと言えるかもしれません。
その一方で、教室を動き回りながら鑑賞する利点として、他の人と一緒に鑑賞してトリックの構造について考えたり、教え合ったりするということがあり、これによって過去のトリックアートの授業では大いに盛り上がってきました。これに関しては、席にじっと座って鑑賞しているだけでは盛り上がりに欠けるので、この点に関しては現在の環境では限界があると感じました。もし教室中にスクリーンが用意されていてそこに作品を映し出すことができれば良いのですが、そんなことができるのはだいぶ先の話でしょうね。それでも、鑑賞して気づいたことを付箋に入力して貼り付けることができるので、画面上でチャットのように盛り上がりを見せる状況というのも見られました。なので、総合的に考えると、この鑑賞は全てデジタルで良かったと私は考えています。
今回はトリックアートの画像を拾ってきて、それをJamboardにに貼り付けたものを鑑賞するという方法を選びましたが、生徒が授業で作成した作品であれば、やはり実物を鑑賞した方が圧倒的に感じるものは多いと思います。現在私が勤める中学校ではChromebookを使っていますが、このカメラはipadなどと比べるとかなり画質が落ちます。せっかく工夫に工夫を重ねた表現も写真がイマイチだと台無しになります。実物がある場合は、それに勝る質ものものはないといことで、これまで通り実物を鑑賞をしながら、意見共有はデジタルを用いて行うという形の授業が良いと考えています。
デジタルの登場によって、本物ならではの良さというものが美術作品に限らず、今後さらに重要視されていくのではないかと思います。良いものは五感で楽しむという体験価値。美術教育がこの部分において重要な役割を担っていると思います。
まとめも意見共有
1時間の学びをまとめる際にもJamboardは強力です。今回トリックアートの魅力について考えるために、「どうして視覚は騙されるか」について考え、それがあるからこそ、トリックアートを楽しみ、世界への視野を広げることができるというまとめを行いました。「どうして視覚は騙されるか」については、さまざまな参考文献があり、実際に私も沢山のものを読んできましたが、生徒がたった1時間の鑑賞で気がついたことを基に付箋で投稿した内容は重要文献の要約から言葉を引き出したような状態になりました。
もし、このようなボリュームのまとめを教師が一人で行うとしたら、とてつもなく長い話を授業の最後に熱烈に行い、それまでのアクティブな学習を吹き飛ばすことになりかねません。私はよく「熱い」と言われますが、生徒の達成感をかき消すような暑苦しさは不要と考えています。この授業のまとめでは生徒の考えにひたすら共感するだけ。「なるほど」「確かに」「そうかもしれんなぁ」と言うだけです。そして最後に「トリックアートの魅力って結局何でしょうね」と聞くと、これまた魅力的な意見がたくさん出ました。
わざわざ教師が説明しなくても、充実した学習ができると生徒たちの力だけでも重要なポイントをまとめることができます。しかし、学びが多いと、まとめ自体も相当なボリュームになります。特に発想を刺激するような内容の場合は爆発的に言葉が出てしまうもの。しかし、こういうたくさんの気づきが共有できる状況こそアクティブラーニングの醍醐味であり、GIGAスクール構想の目指すところなのではないかと考えています。生徒自身がまとめについて考えられる授業にできれば、自然と学習内容は定着すると思いますし、これは美術に限ってのことでもないでしょう。学んだことを自分の言葉でまとめ、それを共有し、多様な考え方を吸収する。授業とはそういう可能性を持った場であることを、改めて考えさせられた気がします。
最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はGoogle jamboardを用いたトリックアートの鑑賞についてお話しさせていただきました。トリックアートでなくても鑑賞ではJamboardが非常に強力なツールとして活躍すると思います。まだGIGAスクール構想は始まったばかり。これからどんどん授業をICTの力でグレードアップしていくことになります。私自身、学校のICT担当なので、GIGAスクール構想を推進していく立場というのもありますが、学校の中はもちろんのこと、日本中のICTによる教育改革を考えている人と今後ますますつながり合って、有益な情報を学び、前進していくことが大切だと考えています。もし、この記事を読んで「こういう使い方もありますよ!」「こうした方が効果的です」などと、お気づきのことがありましたら、遠慮なくコメントしてくださるとありがたいです。
次回はオイルパステル(クレパス)を用いた表現の魅力について紹介する予定です。よくクレヨンとクレパスが混同されていますが、これらは明確に違う画材であり、得意とする表現も違う画材ですが、ほとんどの人が小学校低学年で両方とも使わなくなるので、表現力の幅を知ることもなく大人になるというのがほとんどです。私自身、絵画を専門にする人間ではありませんが、オイルパステルやクレヨンの画材としての魅力は生徒に伝えるべき価値があると考えて指導しています。そんなオイルパステルの魅力について紹介してみたいと思います。オイルパステルの表現に興味がある人や、上手いこと使いこなせず良いイメージがないという人には是非見てほしいと思います。
それではまた!
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