誰でも簡単に遊べる版画 〜切り絵の模様でステンシル版画〜



  骨折生活にも慣れ、早く運動したくてウズウズしている今日この頃です。両松葉杖で高速移動を楽しんでいたら「今度は右足を怪我するで」と言われながらも、体を動かしたい衝動と高速移動による若干のスリルを楽しみたい気持ちで可能な限りスポーツの秋を楽しんでいます。しかし、本来ほどスポーツができない状況で、文化的な秋を過ごす時間の割合が高くなっているので、それが美術教師としての大切な経験値につながっていると感じています。改めて思うのは、美術に関してやりたいことがあまりにたくさんあったということです。骨折でしばらくスポーツがまともにできなくなったのは、これまでやりたくても後回しになっていた美術関係のことに取り組む良い機会になったと思います。

 先日ステンシル版画制作する花の絵について紹介しましたが、今回はそれよりもさらに純粋に色と形で遊ぶステンシル版画を紹介します。やることはシンプルで、単純形で構成した絵を切り絵にし、それをそのままステンシル版画にして模様をつくるというものです。造形遊びとしての側面が非常に強いので、小学校の図画工作やステンシル版画の導入として使える教材だと考えています。


制作方法

 この版画の制作方法でも紙を折り曲げてハサミやカッターで切り絵を作成しますが、今回は切り抜く前に少し計画的に切り抜く図を考えます。考えると言っても、単純な形を組み合わせてシンプルな模様を描く程度です。この手軽さがとても大切です。

 少しでも計画的に模様を描くだけで、切り抜くと想像以上に美しい模様に発展します。上の図のように、教会に見られるようなバラ窓風の模様が10分もかからないぐらいの短時間でできてしまいます。

 紙を折って作る切り絵の魅力は短時間で一見手の込んでいて整った構成をもった模様を作れるところにあると思います。シンプルな形でも、ある程度整った構成やあまり見かけない模様を適当に作るだけで、折った紙を開いた時に模様が4倍になったり、折数が多ければ8倍、16倍になったりします。この模様は切り抜いたものを全て複製した状態になるので、まるでデジタルの力を活用したかのような技術の高さを感じさせる模様になります。

 この模様をステンシル版画として利用すれば、美しい模様はそのままに、色で遊びながら魅力的な画面をつくることができます。



 画用紙にマスキングテープで版をセットしてスポンジで色をぽんぽんと刷り込んだり、スパッタリング(網とブラシでスポレーのような効果を出す技法)でスポンジでの着彩とは違った感じを出したりします。


 この着彩では模様が生きる配色を考えたいところです。1色で着彩しても決して悪い感じにはならないと思いますが、配色を工夫することで、より模様を生かすことができますし、画面全体からテーマ性が感じられるようになります

 この配色をする上で、ステンシル版画は大変優れた色の操作性を持っています。孔版であるステンシル版画は色を刷り込みながら、イメージと合わなかった部分があれば上から絵具を重ねていくことができるため、色の実験をしながら作品の完成度を上げていくことができます。

 色をマットに塗るだけでなく、あえてムラのある塗り方をしてみたり、色の塗り方の面でも工夫の幅が広く、スパッタリングとの合わせ技でさらに表現可能性は広がります。

 模様全体を用いたり、紙からはみ出して装飾的に用いるなど、用い方を工夫することで、版が1枚であっても画面全体を装飾することが可能ですし、授業では友達が作成した模様を活用して画面構成に生かすのも良いかもしれません。この制作のメインは構成と色使い、着彩方法にあり、切り抜いた模様はあくまで「素材」ぐらいに考えるのもありだと思います。誰でも簡単に切り抜いて模様を作れ、しかもそれが人によってかなり違ったものになりやすいが故に、この模様自体のオリジナリティが作品の重要な要素とは言い難いところがあり、むしろ、無数にある模様の中で、自分が気に入ったものを選び、利用する意識を育むことが大切だと私は思います。


この教材の位置付け

 手軽に始められる切り絵の模様を生かしたステンシル版画ですが、実は少しアートとしてはもの足りない部分を感じています。この制作ではかなりの確率で美しく整った模様が生まれ、画面構成も画用紙のサイズ次第ではありますが、比較的簡単にできるので「どの作品も綺麗」なものになりがちです。紙を折り曲げてある程度の法則性を生かした下がきをして切り抜けば美しい工芸品のような模様になります。しかし、できる模様はいずれもシンメトリーの枠にはまったものになるため、配色や構成の面ではかなり遊べますが、作品の自由度としては限定される要素もあります。感情などのテーマを設定して切り抜きをしても、必ずシンメトリーに吸収されてしまうので、どうしてもデザイン的な枠にはまってしまいます。なので、岡本太郎が言うところの、「今日の芸術は、うまくあってはならない。きれいであってはならない。心地よくあってはならない。」の精神にはそぐわないものになってしまいます。

 しかし、これが単純にステンシル版画や配色の面白さ、構成美の魅力などについて知るための教材であれば、限定される自由度の問題はそれほど気にしなくても良いと考えています。ステンシル版画というおもちゃで遊んでいるうちに構成や配色、着彩方法の可能性について楽しく学べたら造形教育はその価値を十分に発揮していると思います。大きな制作ではなく、画用紙のサイズはA4やA5程度の小さなものにして2時間程度で取り組み、その後にステンシル版画の本格的な教材(ステンシル版画で年賀状デザインhttps://art-educator-tatsuwaki-serendipities.blogspot.com/2021/02/blog-post.html)に取り組むことで、ステンシル版画の魅力や孔版の要領を得た上で取り組めるので、よりスムーズな制作になることでしょう。

 ステンシル版画ではシンプルなデザインから意匠の感じられる凝ったものまで様々な表現ができ、それぞれに良さがあるため、気軽にチャレンジすることができると思います。普段細かい図柄を描くのが好きな生徒が、シンプルな図柄でも構成や色使いで工夫された作品を見て刺激を受けることもあるでしょうし、その逆もきっとあると思います。各々がやりたいと思ったことや、自分の得意な部分で表現できるように、制作の際に選択の幅があることが大切です。「個別最適化」という言葉が教育界でよく聞かれるようになりましたが、そもそも美術の自由な表現では個別最適化が可能になっていると言えます。それを実現するのは指導者の生徒の表現に対する寛容な姿勢であり、生徒が気軽にチャレンジして発見に溢れた授業環境を作っていくことが大切だと思いますし、これからもそういった環境を目指して取り組んでいきたいと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は誰でも簡単に遊べる版画ということで、切り絵の模様を活用したステンシル版画を紹介させていただきました。気軽に模様を作って色と構成で遊べるので、興味が持てたという人は是非やって見てほしいと思います。

 それではまた!文化の秋をお楽しみください♪



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