廃棄対象の資料を活用したコラージュ

  今回は廃棄対象の資料を活用したコラージュについて紹介します。

 美術室や学校の教材室には使われていない古い資料や教材カタログが大量に眠っていることも珍しくないと思います。そうならないように定期的に処分するものですが、美術資料など、なんとなく捨てにくいものもたくさんあるのではないでしょうか。

 そうしてなんとなく捨てずに取っておくと、長い年月の中で蓄積するもの。私がこれまでに勤務してきた美術室の準備室には決まって数十年前から溜め込まれた資料がスペースを圧迫していました。私はそういう溜まり過ぎた資料をこれまで赴任した先で気持ちよく捨ててきたのですが、さすがに全て捨てるには忍びない…と感じ、「もしかしたら何かの役に立つかもしれない」と考えて、整理して保存してきました。そして、まとめて捨てる度に「勿体無い…」と感じていました。


コラージュへの活用


 そんな中、廃棄対象の資料を有効活用する方法を発見しました。私は「内面世界画」という自動記述法やデカルコマニー、そしてコラージュを活用した教材を取り組む際に、生徒にコラージュの素材を各自で用意させたり、自分が授業用に取っておいたパンフレットや新聞、チラシなどを生徒が利用できるようにして作品制作させてきました。この制作はかなり自由度が高いため、これまで生徒が楽しく取り組む姿を見てきましたが、もっと充実した制作にできないかと考えた時に、廃棄対象の美術資料や教材カタログに目が止まりました。

 当然のことながら、これらの資料で使われている画像は大変美しく、多様なので、見ているだけでもワクワクします。授業では生徒が自由に好きな部分を切り取って活用できるように大きな作業机に資料を広げて取り組んでもらいました。「何か制作に生かせる面白いものはないか」と、明らかに生徒の視線がハンターの目になっていました。皮肉なことに、普段以上に食い入るように美術資料を見ている生徒がほとんどでした(苦笑)

 古くて処分対象の美術資料といえども、普段使っている美術資料と内容は似たものなので、「美術資料を切り抜く」という体験自体がかなり非日常的なものだったと思います。そういう非日常的行為は制作における「遊び」を引き出すことになると考えられます。遊びには日常の文脈に縛られない「遊びの独自ルール」が存在し、普段大切に扱っている教科書や資料集といったものをコラージュの材料(遊び道具)として利用すること自体に、制作者の創造性を刺激する側面があると言えるのではないでしょうか。


 他者がコラージュに利用した部分を目にすることも、創造性の側面で意味のあることだと思います。何を切り抜こうかと考えている時に、他の人が切り抜いた部分から刺激を受け、「自分もこのページを切り抜いてみよう」と考えたり、切り抜かれた形自体が面白く感じてそれを自分の作品に使ったり、様々な表現に発展していきます。制作自体は個人制作であっても、他者の表現から刺激を受け、それをそのまま自分自身の制作に反映させる。そういった協働的な学びが生まれていきます。


廃棄する前に考えたいこと

 私は、身の回りの様々なものを「素材」として考えることの大切さを普段から生徒には伝えています。作品に使えないものはこの世には存在せず、アートを「多様な可能性」として現代美学では考えるようになっています。アートを定義づけること自体に限界が来ており、美学者アーサー・ダントーは『アートの終焉』で「アートが担うべき任務は、アーティストがそれに満足する限りにおいて常に存在するであろう」と著しているように、制作者が「やりたい」と思うことを「やれる」環境が美術の授業には必要です。


 だからと言って、生徒にいきなり「身の回りのあらゆるものを素材として考え、制作に利用してみよう」と投げかけても、具体的にどのようなことができるか頭に浮かぶケースは多くはないと感じています。なので、生徒が多様な素材に触れられる環境を美術室に設けることが大きな意味を成すと考えています。私は美術室に廃棄の対象になるようなものや木材、端切れ、切られた色画用紙の余り、今回紹介した印刷物系のものなどを自由に使えるようにしています。これらを捨てることは簡単ですが、生徒に「こんなものでも作品に使えるのか!」と気がついてもらえるような仕掛けをし、身の回りのものをアーティストのような視点で見ることができるようになれば、普段の生活もより楽しく創造的なものになるのではないかと考えています。

 廃棄する前に美術で活用する可能性について考えてみると、いくらでも浮かんでくるものです。SDGsがブームになっている昨今ですが、そもそも芸術の多くは地球に優しく、大量生産を必要としない価値の提供、そして幸福な生活を実現する側面を持っているので、美術の授業はSDGsの価値について制作と鑑賞を通して考える良い機会になり得ます。そのような教育を行なっていくためにも、普段から美術教員として廃棄物の在り方、そして素材としての価値について考えていくことが大切だと考えています。

 

 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は「廃棄対象の資料を活用したコラージュ」ということで、私の実践を紹介させていただきました。もし今回の内容が美術の授業やコラージュを活用した作品制作をする際の参考になれば嬉しいです。

 これからも楽しく充実した学びのある美術の授業について研究していきたいと思いますし、その都度記事も書いていこうと思いますので、今後もよろしくお願いします。

 それではまた!

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