デジタルの振り返りが可能にする指導と評価の一体化 〜遊びのある学習に安心して取り組める〜


 今回は、私が2学期から始めたGoogleスライドを活用した振り返りで指導と評価の一体化を行いやすくなったことと、それによって生徒がこれまでに比べて安心して学習の中で遊びを入れることができるようになったと感じることについて紹介します。

 昨年からICTを活用した振り返りシートには取り組んできましたが、昨年はGIGAスクール構想元年ということで、手探りの状態で取り組んでいました。

Google classroomを活用した美術科における振り返り活動 vol.1

Google classroomを活用した美術科における振り返り活動 vol.2

 今も手探りの状況に変わりはありませんが、ICTを活用するメリットがこの1年間でより明確になり、より効果的な活用方法を考えられるようになってきました。

 どの教科でも振り返りでICTを活用するメリットは大きいと私は感じています。特に写真や動画が振り返りに活用できる実技系(理科や英語を含む)の教科ではその効果は大きいと考えられますし、たくさんの考えを共有し、より深い考えを持てるようにすることが重要な国語や社会、道徳といった科目においてもICTが大きな力を発揮していくれると感じています。ただ、「どのように取り組ませるか」によってその効果に差が出るため、振り返りを促進できる仕掛けが必要になります。

 というわけで、私は昨年から取り組んできた振り返りシートをアップグレードし、より使いやすく、生徒のメタ認知やモチベーションを促進できる方法を2学期から導入してみました。


振り返りの項目は学習目標を意識できるものに

 漠然と1時間の振り返りをしてしまうと、ただの感想になってしまいかねません。これまで私は過去に用いていた紙の振り返りシートを基にしてGoogleスライドで振り返りをさせていました。この振り返りシートでは授業の振り返りがただの感想になったり、「形がうまく整えられた」「配色を考えられた」といった具体性のないものになる傾向がありました。学習目標に関連する部分を自己評価でABCを入れるようにしていましたが、これも基準が曖昧なのであまり意味をなすものになっていなかったと感じています。紙の振り返りシートと比較して改善したのは写真を記録として残せることや、フィードバックとしてコメントや画像、リンクをつけることが容易になったことなど、プラスの面もありましたが、肝心のメタ認知を促す「振り返り」が不十分という状態でした。


 具体的に学習できたことや発見できたこと、大事だと感じたことを振り返りとして記録するために、私は2学期からは学習目標に関する部分をABCで曖昧に自己評価するのではなく、記述式にして、「取り組みの中で気がつけたことや理解できたことをしっかりアピールしよう」と生徒に伝えて取り組ませています


 こうすることで、生徒は各項目について具体的に振り返ることができるようになりました。質問を入力する生徒もかなり増え、質問にはスライドのコメント機能を使って返信しますが、同様の問題意識を持っている生徒は他にも必ずいるので、制作共有スライドという全クラスの制作状況が掴めるスライド(私が写真撮影した作品をクラスごとに分けて貼り付けたもの)に用意した「振り返りや質問のフィードバックを共有」というページにコピー&ペーストするようにしています。


 制作共有スライドは以前からも利用してきましたが、質問が増えたことや振り返り内容が充実したことで、このスライドでより良い情報を共有できるようになりました。多くの生徒がこのスライドを見て活動の参考にしています。
 生徒の活動を見ていて面白いと思うのが、人の制作をそのまま真似するケースは記憶にないぐらい稀で、「こんな表現もありなのか!」と気づき、自身の制作をより自由に取り組めるようになる姿が見られることです。鑑賞(インプット)と制作(アウトプット)が一体化した取り組むことが大切なのは自明のことではありますが、それをするための方法が少しずつ確立してきたと感じています。

振り返りは生徒の学習活動を把握し、正しく評価するためのツール

 写真付きの振り返りは学習評価をする側からすると大変状況を掴みやすいです。2学期からはルーブリックの機能も追加したので、振り返り内容と写真、活動の様子を総合的に照らし合わせて暫定的な評価を付けることができるようになりました。これまでは机間巡視しながら活動の様子を閻魔長にチェックするという方法でしたが、振り返り内容と写真があればチェックして回る必要もなく、生徒の活動をファシリテートすることに集中できます。


 ルーブリックを導入して良かったと感じるのが、生徒は自分の学習活動がどこまで評価されているかを把握することができるという点です。ルーブリックは到達度だけでなく、さらに上のレベルを目指すための基準を示すこともできるため、生徒は目標を持って取り組むことができます。ルーブリックと振り返りが一体化していることで、生徒は振り返りで学べたことを具体的に入力し、アピールするようになったと感じています。これによって、こちらの指導も個別に最低化されていくため、指導と評価の一体化も現実的なものになります

 これまで、私としては生徒の活動の見取りにベストを尽くしてきたつもりですが、それでも生徒一人ひとりが何を考えて表現したのかを完全に理解することは不可能でしたし、はっきり言って生徒の考えを半分も汲み取れていなかったのではないかと実感しています。完成作品に付ける作品札に書かれたアピールポイントを見て、「そういうことだったのか!」と気付かされることも多かったことを考えると、そういう気づきが制作段階であって生徒の活動をファシリテートする視点を持てるようになったことは大きな変化であると思います。

 

ICTを生かして遊びを学習に

 美術の作品が「モノ」に限定されてしまうと、作品を失敗せずに仕上げなければいけないと考え、挑戦的な試みをすることができなくなってしまう可能性が高まってしまうと考えられます。しかし、美術の学習で大切なことは、極上の完成作品を生み出すことではなく、あくまで学びを最大化させる「経験」にあると私は考えています。美術の学習は挑戦抜きには良いものにはなりません。そして、この視点は美術に限らず、その教科においても共通して言えることであり、テストや作品といった分かりやすい「結果」だけで評価をするのではなく、「経験」の中で見られる学習を評価し、活動をファシリテートすることが不可欠であると考えています。

 これまでは制作段階を記録に残すことができなかったため、どうしても完成作品が重視される状態だったと言えます。これによって、美術の作品は「狭い基準での完成度」で評価されることがたくさんあり、完成作品を目の前にして「これは色と形が綺麗だからA、これは粗いからB」という感じで、ある意味シンプルに行われる傾向がありました。ただ、そういう評価方法の場合、生徒もどのような作品が評価されるか分かってくるので、「教師が評価してくれる作品」を制作するようになります。そうなると、「そういう作品」を上手に製作できる生徒が良い評価を得て、そうでない生徒は平凡な評価を取り続けることになり、「美術面白くない」となってしまいかねません。

 しかし、今ではGIGAスクール構想によってICTによる振り返りが可能となり、活動記録が写真付きで蓄積されていきます。しかもルーブリックで段階的に評価も可能です。これらによって、完成作品ではなく活動のプロセス自体を評価できるようになりました。これが意味することは、たとえ作品が完成を目の前にして大失敗して原形を留めない状態になったとしても評価的にはほとんど支障がなく、むしろ大失敗に終わったものの、チャレンジした内容次第では評価に値するナイストライとして捉えることも可能ということです。この安心感があれば、生徒はどんどんチャレンジすることが可能になり、遊びが学習の中で常態化すると考えられます。

 実際に授業では「振り返りの記録が残っているので、大失敗しても評価がなくなることはありません。安心して挑戦してください。」と伝えているので、こちらの見立てで完成したと思った作品がさらに大きな変化を遂げているものもあり、その思い切りに感服することも珍しくありません。そもそも美術の学習は、作品が学習の目的ではなく、制作のプロセスの中に学習の目的(色や形、構成、材料の工夫、創造力を膨らませたり主題を考えたり)があります。他の教科でテストの点数を高くすることに学びの目的があるわけではないのと同様です。

 より楽しく好奇心溢れる活動をし、充実した時間を送るためには、「遊び」が活動の要素として存在することが必要と考えています。「遊び」はそもそもその活動状態から対話性を持っており、より楽しく遊ぶために挑戦を続け中で多様な経験ができ、結果として深い学びにもつながると考えられます。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回の内容が振り返りのデジタルで化や、ルーブリックの活用をしてみようと思うきっかけになれば嬉しいです。振り返りの取り組み方法とルーブリックの活用で、遊びと深い学びを実現するための体系性をもった授業のあり方について、手応えを少し掴めたと感じていますので、この取り組みを今後も継続して、より良い形にしていきたいと思います。

 それではまた!

  


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