美術の授業で使いたい言葉 〜上手という言葉を使わない〜 vol.2
美術の授業で使いたい言葉について書いていくことを前回の記事で述べたように、これから月に1回以上のペースでこの内容について記事を書こうと思います。導入の前回の記事の内容はこちらから読むことができます。美術の授業で使いたい言葉 vol.1
サブタイトルに「上手という言葉を使わない」とあるように、美術の授業で「上手」という言葉はなるべく避けたいと私は考えています。詳しくはvol.1の内容を読んでいただきたいのですが、これは決して生徒を称賛しないというわけではありません。むしろこのシリーズでは称賛する言葉をたくさん扱っていきます。
「上手」という言葉は英語ではwellやgoodを使いますが、これには比較級、最上級が伴う「優劣」を概念として含んでいる言葉です。つまり、この言葉が表現の価値基準として重きを置かれてしまうと、表現活動はひたすら他者との比較、競争、「このクラス、この学年で一番上手なのは誰だ?」となってしまい、技術中心の創意を欠くものになってしまいかねません。創造的な作品はそれまでになかった考えや表現を含んでいるため、既存の価値基準である「上手」の尺度で測ることが難しくなるためです。それゆえに、5段階や10段階で評価しなければいけない美術の授業では時に教師が判断しやすい「上手さ」を中心とした制作が行われてしまうこともあります。そして、美術を専門としない一般的な大人の多くも「上手」という分かりやすい価値基準で作品を評価しているため、これまで十分に美術教育の意義が発揮されてこなかったという状況があると考えられます。
こういう状況を変えたいと思い、草の根活動で上手という言葉を使わずに、美術の創造活動をファシリテートしていく言葉について、ブログを通して発信したり、研究していきたいと考えています。
今回からは具体的に私が授業中に使ってきた言葉や、普段から使いたいと考えている言葉を紹介していきます。何か参考になるものがあれば幸いです。
今回紹介する言葉は以下の通りです。
#1 この部分、すごく面白い!
#2 ピカソを超えた!
#3 遊びまくってるなぁ
それぞれ詳しく説明しているので、よろしければどうしてこれらの言葉を使いたいのか知ってもらえると嬉しいです。
#1 この部分、すごく面白い!
この言葉は生徒の工夫しているところをピンポイントで肯定することになります。そういう部分に気づくためにはしっかりと生徒のやっていることを見取ることが大切になりますが、生徒の活動を机間巡視して観察していたり、変化の過程を記録(学習レポートなどで)していれば、それほど難しいことではありません。
作成者にとって、工夫していることに気がついてもらえること自体がモチベーションの面で重要です。逆に、そこを見落として放置してしまうことは非常に危険です。理想を形にするために色々と考えて工夫を凝らしているのに、誰にも注目されたり認められたりしないまま制作の時間が終わって、次の単元に入ってしまうというのは、部活動であれば顧問やチームメートから何も認められないまま日々練習だけ参加し、引退していくようなものです。そんな状態でモチベーションをキープするのは不可能です。当然成長も満足のいくものにはならないでしょう。放置するのと、見守るのとでは全く違うというのはまさにこの点にあると言えるのではないでしょうか。
「面白い」という言葉は上手下手とは関係なく、人が興味をもつ魅力的な要素(intrest)があることを意味するという点も大切だと考えています。自分の頭で考えて工夫したことが他者の関心を集めていると自覚できれば、さらに工夫をしてみようというモチベーションにもつながる可能性があります。
ただ、他者の関心ばかり考えてしまうと、本来の自分のやりたいことが二の次になりかねないので、その点については配慮が必要です。常に自分が本当に表現したいことは何かを考えさせるために、授業中に話す内容は問いがメインになります。「こういう工夫が人の目を惹きます」とティーチングしてしまうと、各々の創意を犠牲にしてしまう可能性があることは忘れないようにしたいです。
この言葉の効果を上げるためにしていることがあります。それは、面白いと思った表現は生徒の許可を得た上で写真を撮らせてもらい、クラスや学年全体で共有するということです。写真を撮られて紹介されるというのは生徒からするとかなりの肯定感があるようです。ただ面白いと言われるだけだと「そんなお世辞を・・・」と思われかねないので、興味深い表現はどんどん撮影させてもらうようにしています。そうして、多様な工夫が情報共有されていくと、工夫の幅が無限にあるということを生徒は認識し、積極的に自分のやりたいように工夫を試みていくようになります。挑戦や工夫が肯定的に受け止められるという安心感があれば、自然と表現活動も活発になるので、どんどん生徒の「面白い」表現を掴みにいきたいところです。
#2 ピカソを超えた!
これはピカソについて学んだ上で使いたい言葉です。ピカソはご存知の方も多いと思いますが、写実的な表現からキュビスムのような他視点的な表現まで、具象画のあらゆる表現を実践した変化の天才です。そのピカソでも写実的表現に囚われていることに苦悩していたという話を聞いたことがあります。どう見ても自由に形を崩しているように見えるのですが、ピカソの見ている世界は異次元なのでしょう。では、そんな天才ピカソを超えるような表現とはどのようなものなのでしょうか。
ピカソは現代絵画を開拓した人として超重要人物ですしかなり最近まで生きていました(1973年没)が、デュシャン以降の「アートとは何か」を問うような現代アートの視点で見ると、古典的なものと言えます。「ピカソを超えた!」という言葉は、アートの常識を超えた挑戦的な表現をした生徒に使うようにしています。生徒が自由に創意を発揮すると、時としてとんでもない化学反応のような表現をすることがあります。そういう時に「ピカソを超えたな!」となります。
「ピカソを超える」と言って芸術活動をしていた岡本太郎は、ピカソでもやらなかったような圧倒的な存在感のある大きなスケールのある作品を生み出したように、ピカソを超える方法は色々とあると思います。私自身、ピカソに感銘を受けて大学4回生の時に英語の道から美術教育の道に進むことを決意しましたが、ピカソという基準は挑戦的な表現をする上で重要な目安になっていると思います。私自身も美術においてある意味(主に美術教育)でピカソを超えられるように励んでいきたいと思う次第です。
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