Google Jamboardで道徳をアクティブに vol.2


 前回の「Google Jamboardで道徳をアクティブにvol.1」から約2年振りにvol.2の記事を書きます。2年前はまだGIGAスクール構想が本格的に始まって1年目ということで、私自身かなり手探りの状況でしたが、この2年間で道徳以外にも専門の美術をはじめとした様々な場面でGoogleの機能を活用し、授業改革や業務の改善につなげてきました。

 今回は、道徳でのICT活用を2年間やってきて、かなり確立することができた道徳でのGoogle Jamboardのアクティブな活用法とそれとセットでやりたいGoogleフォームの活用法、そしてデジタル化、もしくはDX化した今でも活用している黒板の活用状況について紹介します。

 先に結論を言ってしまうと、GIGAスクール構想がスタートする前から道徳の授業は好きでしたが、今は以前よりも生徒と一緒に考えたり想像したりする時間が多くなって、アクティブで充実した授業ができている手応えがあります

 今回の記事作成にあたり、実際に授業でやった内容を基にJamboardの活用例を紹介しています。授業で活用したものをそのまま使うわけにはいかないので、雰囲気だけでも分かるように内容を加工していますが、実際はもっと生徒の率直な考えが出ていて面白い内容であったと思います。とにかく面白い意見がたくさん出るので、まだJamboardを活用されていないという方や、使ってみたけど効果的な利用方法が分からないという方にとって、今回の内容が少しでも何か道徳の授業をする上で参考になれば嬉しいです。


気軽に答えられる高い匿名性

 Google Jamboardの最大の強みは、誰でも気軽に意見が出せる匿名性にあると思います。授業の盛り上がりには多様な意見が必要です。そして、そのためには多くの生徒が意見を出せるようにするのが重要です。


 意見の発表は従来通りの挙手した生徒が発表するだけでなく、Jamboardに付箋でどんどん意見を貼り付けるようにしており、瞬く間に多様な意見で画面が埋められていきます。時には大喜利が始まってしまうこともありますが、気楽に意見が出せて、率直な考えを引き出すことができるため、非常に和やかな雰囲気で授業が進んでいきます。そこには生徒の「生の」世界観が表されているようにさえ感じます。主体的に生徒が意見を出して、考えが科学変化の如く発展していくと、教師が想像もしていなかった展開や考えが生まれていくことも多々あります。だからこそ、生徒だけでなく、教師にとっても楽しい時間となります

 この逆と言えるのが、ありきたりで当たり障りのない、教科書通りのような分かりきった意見が教師によって誘導されるような授業であると考えています。道徳は正しいことを「教える」授業ではなく、あるテーマに沿って多様な考えが共有され、新しい視点が生まれる創造的な授業です。何が良くて何が悪いかを判断して、正しい行動や考えを発表するような授業になると、いかにそのことを「上手に」説明することができるかが問われてしまいかねません。そして、予定調和的な授業展開、教師が正しいことを生徒に確認したり、説教するような展開になってしまうこともあります。

 わざわざ正しいことを教えなくても、道徳の教材でテーマになっている「正しさ」の価値は、ほとんどの生徒が認識していることです。生命の大切さ、自然の大切さ、感謝の気持ち、たくましく自己実現に向かう心、こう言ったものが大切であることは生徒にとっても常識であるにも関わらず、「命は大切なんだ!」「感謝の気持ちを忘れるな!」と熱く熱く語っても「そんなことは分かっています…」と生徒は心の中で思うばかりでしょう。

 道徳の授業では、「どのような意味で」大切なのかについて深く広く考え、それによって、どのようなことが生み出されていくのかを想像する哲学的で思想的な価値観を育むことが大切です。そのためには、とにかく多様な意見を集め、それらが交わる中で生まれる新しい考えが必要です。そう言った点でJamboardは普段は控えめな生徒でも、高い匿名性で気軽に意見を出すことが可能ですし、数十人が一斉に意見を出せる収集力があるため、授業時間を有効に使えます。


分かりやすいレイアウトで意見をさらに効果的に引き出す

考えを深めるためには構造的に考えることも大切であると考えています。漠然と、「この時の気持ちを考えてみよう」と発問しても、もちろん意見は出ますが、主人公の心の変化について十分に考えることができないまま進んでしまう可能性もあります。


 道徳の授業では必ず中心発問が存在し、そこには主人公の「これまでの振り返り」と「より良く生きるこれから」が強烈な心の動きがあるシーンの後にやってきます。この「過去」と「未来」の鮮やかなコントラスト、そして強烈に心が動いている「今」についてしっかり考えることで、道徳的価値観が育まれます。中心発問はまさにこの道徳的価値観を育むためにあり、その答えはシンプルにはなりにくいと考えられます。なぜなら、人間の感情というもの自体が自分でも理解することが難しいぐらいに複雑で多様であるためです。そんなとんでもない心の世界を教科書通りの正しい答えで片付けられるわけがありません。


 そんな中心発問での思考を促すために発問自体をある程度図形ツールで構造的にしておくと有効です。心の動きについて多様な意見でまとめつつ、順を追って把握することができます。最終的に「より良く生きるこれから」について考えが深まれば中心発問の意義は果たされますが、激しく心が動く「今」と、反省を含んだ「過去」に対する振り返りがあれば、心が生まれ変わった主人公の未来の姿が鮮やかに浮かび上がります。こういった心の状態が大勢の意見で集合知となってJamboard上にまとめられるからこそ、具体的な心の容態を超えて、抽象的な概念レベルで大切な心の容態について考えることができる可能性も上がります。

 生徒の意見が色々とあがってくると、「そっち!?」と思ってしまうような意見も出ます。しかし、そういった教師が想像していなかった意見に対しても無視するのではなく、大切な意見の一つとして受け入れるようにしています。そういった意見も視点さえ変えれば必ず道徳的な価値観を深めることにつながります。例えば、この教材であれば、マラソン大会で小さな目標(少し先に見える目印)を少しずつクリアすれば、大きな目標(10キロのゴール)も達成できるという内容になっていますが、これが「頑張れば苦手なランニングも克服できる」という考えばかりになってしまうと、ただのマラソン推進を押し売りする授業になってしまいます。これでは道徳的な価値観の広がりにつながりません。逆に「もうマラソンはしない」という意見が出るからこそ「苦手なことでも達成できたのだから、他の自分がやりたいと思うことを諦めずに頑張ろう」と考えることにつながります。

 「道徳の時間に無視できる意見は基本的にはない」というぐらいのスタンスでいくと、生徒も安心して意見を出してくれるので、主体的にアクティブに考える時間になっていきます。


生徒の意見の状況から新たな発問を設定する

 授業が盛り上がって教師の想像を超えるような状況になれば、そこからさらにまた発問を設定するのも良いと思います。黒板であればスペースに限界があるため、新たな発問をしても、それを残すことが難しくなりますが、Jamboardであれば20ページまで使えるので、基本的には容量を気にせずに発問することができます。





 個人的には予定通りの板書で進むような道徳の授業をしたいとは考えていないので、時間の許す限り、様々な問いを発展的に投げかけていき、一緒に考えるような時間を作ることが望ましいと思います。

 Jamboardを活用するまでは意見を集めることに大変な時間がかかっていたので、中心発問まで終えたらすぐに感想文という状態がほとんどでしたが、意見が一瞬で集まり、発展していくまでに時間がかからなくなったため、15分以上時間が余ることが普通になりました。これだけ時間が余っているのであれば、生徒同士が自由に交流し合って考えを深め、それを発表するという流れも可能です。自由に移動し、意見交流や話し合った上でJamboardに投稿。そんなアクティブな授業になります。

 楽な気持ちで安心して意見を出すことができれば、自然と多様な考えが集まります。それをお互いに興味津々になって見る姿も見られ、世界観の多様性を受け入れるきっかけにはある程度なっているのではないかと考えています。

 特定の分かりきった正しい考えばかりを詰め込まれるのではなく、時として「そんなんあり!?」と思うような考えと出会うのも大切なことだと思います。そして、そういった意見が出た時こそ、教師の出番であると考えています。なぜなら、一般的に変だと思われている考えであっても、少し視点を変えるだけで新鮮で面白く、価値あるものとして認識される可能性があるためです。そもそも、アートはまさにそういう性質を持っているからこそ強烈な存在意義を放ち続けています。

 

感想はGoogleフォームも使いたい







 授業の感想は今でもノートに書かせていますが、感想もやはり共有して、授業時間の最後まで世界観を広げられるようにしたいところです。ただ、感想は長い文章になりがちなので、Jamboardに入力するよりはGoogleフォームで集めた方が見やすいです。フォームのデータはスプレッドシートと連携させることもができ、継続利用で感想を蓄積することができるため、道徳の所見にも反映させやすくなります。Googleフォームの設定でプレゼンテーションのところから「結果の概要を表示する」の設定にしておけば、他者の感想を見ることができます。回答を編集できる状態にしておけば、一度提出した感想に追記することもできるため、他者の感想からさらに考えが広がったのであれば、積極的に追記させたいところです。

 こうして1時間を通してたくさんの考えを共有していくと、他者の考えに触れたり、自分の世界が他者からの刺激で広がったりすることの魅力に生徒は気がついていく可能性は高くなると感じています。


黒板にはキーワードを 〜アナログによるライブ感も大切〜

 こうして道徳でデジタルを大変活用している私ですが、黒板も使い続けています。黒板に書くのは教材のタイトルと授業テーマに関するキーワードです。Jamboardにも弱点はあり、ページが移っていくゆえに、授業における最も大切な言葉や文字の印象が弱くなってしまうところにあります。授業中、常に頭の片隅に置いておきたいことや、1時間の内容を端的に表すような言葉は黒板に書いておきます。アナログの文字ゆえに、書道とまではいきませんが、やはりデジタルには出せない雰囲気も出るため、黒板も重宝し続けています

 結局はデジタルとアナログのバランスが大切です。アナログという意味で最近特に力が入るようになったのが、授業のライブ感の創出です。これは授業のプロである教師の存在意義であると考えています。教師が見守るだけの状態で、生徒がJamboardで自由に意見を出せたら良い感じに盛り上がるかというと、教師がファシリテートした授業に比べると劣ったものになるでしょう。教師には、出された意見を称賛したり、考えが深まると思われる部分で疑問を投げかけたりして授業がより生き生きしたものになるように場を調整する役割があります。逆に、これができないと、授業をする立場として危うい状況と言えるかもしれません。教師が四苦八苦するばかりで、生き生きとする時間にはなりにくいのではないでしょうか。

 教師は授業という1度きりのライブをコントロールして、その場にいる全ての人(教師も含め)が充実した時間を共有できるようにすることが、学習者の主体性を重んじる昨今においてますます求められるようになっています。授業のICT化であったり、アナログツールの活用であったり、こういったものは全て最高に充実した授業という究極の目標を達成するための手段でしかありません。ありきたりのことですが、常に自分にできる最高の授業を目指して、教育活動に励んでいきたいと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はGoogle Jamboardに加えてGoogleフォームを活用したアクティブな道徳の授業についてお話しさせていただきました。少しでも道徳の授業でICTを活用する上で参考になる内容になったのであれば嬉しいです。この記事の中にJamboardの画像がありますが、これらは必要があればコピーして使っていただいても構いませんので、どうぞ自由に利用してください。





 理想を言えば、生徒が意見を出しながら自分たちだけで話し合って構造化していくことができるような完全にアクティブな授業がベストなので、そんな究極の状況を目標にして研究をしていきたいと思います。

 それではまた!

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