Google Jamboardで道徳をアクティブに vol.1

  今回は道徳の授業をアクティブにするGoogle Jamboardの活用について紹介します。これまでに「Google Jamboardを用いた鑑賞の可能性https://art-educator-tatsuwaki-serendipities.blogspot.com/2021/06/google-jamboard.html」「Google Jamboardを用いたアクティブラーニングhttps://art-educator-tatsuwaki-serendipities.blogspot.com/2021/05/google-jamboard.html」でGoogle Jamboardの紹介をしてきました。私が専門とする美術の授業では、毎時間Jamboardを利用して、授業のめあてとまとめの活動、教科書(デジタル)の貼り付け、注目すべき作品のピックアップなどを行なっています。意見の共有だけでなく、画像を貼り付けることも簡単にできるこのアプリケーションによって、授業の形は今年大きく変わり始めたことを実感しています。

 私が担当する教科は美術ですが、中学校の教員をしていると、毎週道徳の授業もします。私は大学時代、哲学や心理学にかなり夢中になった時期があり、美術の分野でも絵画や彫刻など造形面を専門にする人が多い中で、私は美学が専門ということもあり、哲学や心理学、美学に通じるものがある道徳はとても興味のある教科です。私自身が道徳性のある人間であるかどうかは怪しいですが…。しかし、もし道徳に興味がない人間だったら私はただの高い衝動性をもったヤバい人だったかもしれません。いまだに衝動的な行動でトラブルを起こすこともありますが、きっと道徳への関心が私の性質を多少なりともカバーしてくれていることだと思います。

 そんな道徳好きな私は、これまで道徳の授業について勉強したり、実践したりしてきて、「道徳では教師は生徒から考えを引き出すことに徹する」「説教にならないようにする」「考えは多様で良く、教師がまとめるものではない」といった部分を大切にしてきました。これまで担当してきたクラスでは、「道徳の時間は意見が気楽に言えて他人の意見も聞けて面白い」と言ってくれる生徒がたくさんいましたが、その一方で「当てられるのが嫌」「意見を言うのが恥ずかしい」という生徒も同様にたくさんいました


気楽に意見が出せる

 人前で恥ずかしがらずに堂々と自分の考えが言えるようになることは立派なことですし、そういった力を生徒が培えるように教育することも大切だと思います。しかし、そういう力をつけさせようとするあまりに、道徳に対するネガティブなイメージを持ってしまう生徒がいるのだとしたら、それはもったいないことです。道徳とは本来、みんなが気軽に意見を出し合って考えを深める時間であるべきだからです。

 一般的に道徳で扱われる内容は、正解を出そうと思えば簡単に出せるものがほとんどです。例えば、「節度を守り、節制を心がける」というテーマの道徳であれば、より良く生きるためには「節度を守り、節制を心がける」という答えがそのまま出せます。しかし、「節度を守り、節制を心がける」ことが大切であることは誰もが分かっていることです。そのことについて、教師が熱く熱く語ったとしても、生徒からすると「分かっとるわ!」と言いたくなることでしょう。「いじめ」についての教材もたくさんありますが、「いじめをやめる」ことが正解というのは誰もが分かっていることです。道徳で重要なのは、よりよく生きようとする過程で、人々がどのような経験をしたり、心情になったりしたのかを考え、自分なりによりよく生きる方法を考えたり、他者の意見を吸収して視野を広げたりすることにあります。授業を終える頃には「そういう考えも大切だな」「普段考えていなかったことを考えられたな」と振り返ることができたら一歩成長です。そうして、道とは何か、徳とは何かについて深く学んでいくのが道徳です。

 これまで私は道徳の授業では、文章を読んで、内容をざっくり確認、発問という流れを取ってきました。内容確認までは一部の生徒がどんどん答えてスムーズに確認できますが、肝心なのは発問に対する返答です。クラスの中に「良い意見を言ってやるぞ!」というムードがあると、列ごとに順番に当てたとしても、とても良い感じに意見が集まり、その中で次第に深い考えのものも出るようになります。私個人としては授業の中でこのように盛り上がるのが好きです。しかし、そういう熱いムードに全体的になれないクラスもあります。また、いくら良い意見が集まるクラスであったとしても、中には自分の意見を言うのが苦手で、無難に前に発表した人の考えに合わせるという生徒もやはりいます。全員が挙手して発表できるような積極的な人材が集まったクラスなら理想ですが、遠慮する人が多い日本人にとって、積極的に挙手して発表するのは少しハードルが高いというものです。また、このような形で意見を集めるには多くの時間が必要になります。本当は考えを深めたいのに、発表に時間がかかってしまうようでは道徳本来の学習とは程遠い状況となってしまいます。私自身、このような状況に、これまで妥協をしながら授業を行うしかありませんでした。

 そんな状況にGoogle Jamboardが革命を起こしてくれました。道徳ノートに自分の考えをメモさせて、それを基にして文章や言葉を付箋に入力して貼り付けるという方法を取ると、瞬く間に考えを共有することができます。しかも、これの良いところは、意見を出したい人が複数回付箋を貼り付けたり、他者の意見を見て閃いたことを追加で入力したりすることができ、非常にアクティブな状態になります。



 Jamboardは匿名性が高いので、誰が意見を出したか分かりにくいのも意見を気軽に出せる要因になっていると考えられます。この匿名性に関しては良くも悪くもという点がありますが、意見をたくさん出して、考えを深められるという点に関しては非常に有効な手段だと思います。

 これまで意見を集めたり、深めたりするのに多大な時間とこちらのマネージメントが必要だったのが嘘のように、Jamboard上で意見が楽々と発展していきます。その変化には、以前かなりの熱量と労力で意見を集め、授業を盛り上げていた頃が思い出されて、少し寂しささえ感じるぐらいです。


余裕がつくり出す考えの深まり


 悠々とした状況の中で授業が進むようになると、時間に余裕が生まれ、考えを発展させる機会も増えます。例えば、先にあげた「節度を守りと節制を心がける」というテーマの教材では「理性」が節度と節制に必要という内容があり、「理性を働かせるために大切なことは何か」という発問を設定しました。
 

 たくさんの意見が集まってくると、それまで考えたこともない発言が生まれます。この発問に対する答えでは最初は時間やお金に関する「余裕」が理性を働かせるために大切であるという展開になっていましたが、その中で、「余裕があるから人に優しくしたり助けたりできる」という発言が口頭で飛び出しました。そうして「アンパンマンが自分の頭を分けてまで人を助けることができるのは、ジャムおじさんが必ず新しい頭を作ってくれるから」「支えてくれる人の存在」という展開が生まれました。確かに、優しさと勇気の塊であるアンパンマンもジャムおじさんというバックアップがなければ、あのような余裕の姿で理性をコントロールしながら自分を犠牲にできないでしょう…。

 理性と余裕、アンパンマン、ジャムおじさん、支えてくれる人、こういったものが繋がっていくというのは授業前には全くもって予想できたことではありませんでしたが、多様な意見の共有の中で自然に展開されていきました。このような展開ができたのはJamboardによる影響が大きいと言えますが、元々進んで発表する生徒はJamboardの力を借りずとも、意見を出してくれるので、自由に発言できる状況というのも大切にしていくべきだと思います。全てがICT化されてしまうと、授業はどこか冷めた雰囲気になります。人間の声や表情。そういったものが授業というコミュニケーションをしながら学習する場、特に道徳という人の心を扱う教科ではこの先も不可欠であると私は思います。遊び半分で意見を出す生徒もいますが、時にはそういった意見を拾い、笑いの場面も作りながら授業を展開していくというのもあって良いのではないでしょうか。基本的に道徳において無駄な意見はないと考えたいところです。


意見をピックアップして深める

 付箋にあがった言葉をピックアップし、それについて深めることも簡単にできます。この場合は他の内容と区別するために、付箋の色を変えたり、ページを変えたりすると良いでしょう。協働的に考えをとことん深めるアクティブラーニングのポイントがこの方法にはあると考えています。

 今回の授業では理性を働かせるために「リフレッシュする」という意見が出たので、これはすぐにでも実行できることだと思ったので、リフレッシュする方法を募ってみました。これまた瞬く間にヨガ、趣味、寝る、瞑想、運動などがあがり、これらは最近の健康法でもよく言われているものばかりで、そんな内容を道徳の授業で確認するなんて、これまた全く考えていなかったことですが、結局これらも「節度・節制」に関係する具体的な行動になるので、とても有益な共有になったと思います。ちなみに「台パン」という言葉が気になったので、生徒に聞くと、「机やテーブルを叩くこと」と言われたので、授業中にリフレッシュしたくなっても台パンは控えるように言いました(笑)。授業中に台パンするのはアクティブなことかもしれませんが、それは私たちの目指すアクティブさとは違い、どちらかというとアグレッシブといったところでしょうか。


授業時間を最後まで活用できるJamboard

 感想やまとめを共有するのが容易なのもJamboardの強みです。振り返り活動など机間指導をしながらでも、Jamboardに考えを集められます。それを見ることで振り返りの内容はさらに充実していきます。

 Jamboardを使い始めたときは、これを使うことに夢中になって、道徳ノートに考えを書くことができていない生徒もいましたが、慣れてくると上手にJamboardを活用しながらノートに考えを書いたりメモしたりすることができるようになります。世の中DXとか言われながらも、手書きのメモの効果が逆に注目を集めるなどしているように、ICTと人間の直接的な感覚のバランスが授業のICT化、GIGAスクール構想のキーポイントになることでしょう。あくまで人間中心のICT活用であることを忘れないようにしたいですね。ICTばかりだと、理性を失いかねません…。

 

 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はGoogle Jamboardを活用した道徳について紹介させていただきました。ICTをどのように授業に組み込むかということがGIGAスクール構想を進める中で議論されていますが、アクティブラーニングを考えた場合、ICTや共有機能の活用というのは非常に有効な手段だと言えます。今回Jamboardの活用を道徳の視点で紹介しましたが、他教科にも応用できる部分はかなりあると思われますし、自分の専門である美術での活用についてもさらに研究を進めていきたいです。

 次回は「自然と人工の融合がつくり出す美」について記事を書く予定です。私は個人的に自然は無条件に美しいものだと考えていますが、そこに人工が融合することでさらに美を引き出すことができますし、そういう営為の先に美術が存在します。

 身近なところに自然と人工の融合が見られるので、その魅力と、美術教育との結節点について考察をしてみたいと思います。少しマニアックな内容になるかもしれませんが、もし興味がありましたら、また読んでもらえると嬉しいです。

 それではまた!

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