AI化の中で美術教育が果たす役割と可能性

  最近は画像生成AIの登場で簡単に誰でも素敵な写真や絵をつくることができるようになりました。今回の記事を書くにあたって私も少し画像生成AI「Dream」を使ってみたのですが、写真が色んなパターンに変化して好みの絵になるまで何度でもやり直すことができ、一枚の画像を生成するのに数秒でできるという便利なツールであることを実感しました。


 AIなので、0から1をクリエイトしているわけではなく、膨大なデータを利用してオブジェクトの特徴や特性を他のものと置き換えているわけですが、それでも出来上がったもの自体はとても立派な作品に見えます。ビジュアル的にはオリジナルを上回っていると考えることもできるかもしれません。元の画像は普段通勤で使っている峠道ですが、これに対して、AIはどこかの観光地のような場所をミックスしてきました。


 単純化や空想画的な加工も可能で、次から次に絵を生み出すことが可能です。様々な要素を掛け合わせていくことも可能であり、「生産力」という点では革命的な変化が起きています。

 AI化の波は学校教育にも間も無く到来することと思います。それによって効率的な学習や活動が実現するのは間違いないことでしょうし、現在学校で起きている様々な課題は解決する可能性があると思います。最近話題のChat GPTは疑問や質問に対して懇切丁寧に分かりやすく返答してくれます。エクセルの関数やプログラミングのコードでさえも教えてくれる(というよりプログラムを書いてくれる)次元に到達しており、教師が生徒に一斉指導で知識を教える時代は終焉することでしょう。と言うより、これだけAIやデジタルが社会に浸透しているのに、教育がアップデートされていないと、そもそも一般教養という面での教育が意味をなさなくなってしまいます


 Chat GPTを実際に使ってみましたが、専門家と話をしているような感覚で利用できます。この自動生成AIがこれからあらゆるデバイスに実装されていくと考えると、教育の形も今後割と短い期間で大きく変化していくことでしょう。学校の現場は危機感を持って業務や授業改善に取り組んでいかなければいけません。それはアナログの代表格とも言える実技教科、美術の教育についても例外ではありません。

 今回は私の専門である美術教育がAI化の中で果たす役割とその可能性について考えてみました。ただ、今後学校教育がSTEAMやPBLといった創造性を重視した学習を主流にしていくのであれば、学校教育全般に当てはまる内容になると考えています。


AIも利用しつつ創造活動を楽しむ場としての美術教育

 よく美術教育はデジタルにはないアナログの良さを学習するものとして考えられがちで、私も美術の教師としてGIGAスクール推進リーダーを務めていると、「美術でデジタル活用?珍しいですね」とよく言われます。おそらく美術でデジタルと聞いても、デジタルアートか何かを連想するのが一般的で、中学校の美術はひたすらアナログ一辺倒でやるものだという固定観念が浸透しているのだと思います。GIGAスクール構想の観点から言うと、そもそもデジタルが結びつかない授業はあるはずがないので、こういうところでも教師のデジタルに対するマインドセットを変えていかなければいけないと感じています。

 私は普段から美術の授業ではGoogle Classroomを活用して授業資料、技法の動画、活動状況が共有できるスライドを生徒に利用できるようにしたり、Googleスライドを活用した振り返りシート(学習レポート)を利用してきました。これらによって生徒の学習の質には明らかな変化が生まれてきたと感じています。生徒一人ひとりが必要な情報にアクセスできるようになり、振り返りに対する教師からのフィードバックで学習活動のファシリテートにつなげてきました。ただ、これらはアナログでできることをデジタルで効率化した程度のものです。

 今後、AIの活用が進ことで、個別最適化という点で、さらに生徒をサポートすることになることは間違いないと言えます。既にアダプティブラーニングという言葉も聞くようになっていますが、回答状況から必要な学習をAIが判断して、最適な教材を提供する機能を持ったアプリも広まりつつあります。

 OpenAIがChatGPTを発表したことで、GoogleもBardというチャットAIのサービスを開始し、ゆくゆくはGoogle検索に取り入れられていくであろうことを考えると、現在多くの学校でGoogle Workspace for Educationが利用されているので、AIの恩恵を教師だけでなく生徒も受けることが可能になります。今後GoogleやApple,Microsoftに関わらず、あらゆるデバイスにAIの機能が実装されていくと考えられるので、その中で大きく学校教育の在り方が変化していくことでしょう。最適な情報が当たり前のように提供されることが期待されます

 ただ、美術という実技教科は、情報が充実するだけでは不十分であることは言うまでもないことでしょう。実際に手を動かし、色や形、素材をイメージを基にして表現し、試行錯誤しながら制作者自身も想像していなかったようなものを創造し、そのような経験から創造的に人生を歩む力を培うきっかけと出会えるのが美術教育であり、図画工作も含めた造形教育です。AIはあくまで活動、自己実現のサポート的役割であり、子どもたちが自由に表現をすることができる環境を整備することが大切であると考えています。


 美術室だけでなく、被服室や調理室、体育館やグラウンドなど、学校にはたくさんの専門的な活動を可能にする場が充実しています。これらの環境を可能な限り良いものにし、子どもたちが学校に行って活動したいと思えるようにしていくことが必要なのではないでしょうか。極端な話、休日でも学校へ行きたいと思えるような環境を目指したいと私は考えています。施設開放で体育館やテニスコートを積極的に利用する子ども(部活動に関わらず)もいるぐらいなので、美術室を使いたいと考える子どもが出てきても不思議ではありません。


活動の充実が心の充実へ

 美術教育の可能性を一言で表すなら「心を充実させる能力を培うことができる」ことにあると考えています。単純に遊んでいるだけでも心は充実しますが、それを体系化させて「能力」として身につけることができるようにするのが美術教育の役割であり、それを生かして創造的で自由な充実感のある生活ができるようになると考えています。

 物質や情報的にはもう十分に満足できる、と言うより満足すべき状況になっている現代。最近では整理収納アドバイザーという仕事もあるぐらいで、持ち過ぎたものを断捨離したり、すっきりした環境で暮らせる工夫をしたりと、「足る事を知る」考えに対する潮流が見られます。今あるものに対して愛着を持ち、心豊かに満たされた生活をするためには、物事とじっくり向き合う時間、マインドフルな状況が重要です。無我夢中になって取り組んだ造形活動、その結果生まれた自分の想いが詰まったもの、そういったものが私たちの人生を彩っていきます。


 上の写真は、私が中学校の時に技術の時間に作成した真鍮を使ったキーホルダー。これを私は20年以上主力のキーホルダーとして使い続けています。このキーホルダーは当時の家の鍵に似せて作ったもので、様々な思い出がこのキーホルダーを通して蘇ります。おそらくこのキーホルダーがついている鍵を失うか、鍵が不要な時代になるまでこのキーホルダーは使い続けることでしょう。キーホルダーは決して高いものではないかもしれませんが、このキーホルダーにはお金で測ることができない大切な価値が存在します。私にとっては。

 アートにも似たようなことが言えるのではないかと思います。自分が作るよりも綺麗で万人受けするものはAIで大量生産できますが、そこに自分の心が宿るかどうかは別の問題です。AIで作り出したものが好きであれば、それも良いと思います。大切なのは自分がどう感じるかです。

 一つ間違いのないこととして、自分で努力して作成したものにはストーリーがあり、達成感もあり、これらが思い出をつくります。そういった経験へのイメージがあるかないかというのは、自分にとっての価値を考える上でかなり大きな部分になるのではないでしょうか。物に心が宿ります。

 そのような「心の充実を大切にする教育」がAIとデジタルのサポートで成り立つSociety5.0の時代において求められているのではないでしょうか。Society4.0までの時代は生産性と物質的な充実がどうしても社会の構造的に先行する状態だったかもしれませんが、時代は心を取り戻す段階に来たと思います。生活のありとあらゆる場面が遊びのように創造的で楽しく、時にスリルのある刺激的なものになり、毎日に飽きる事なく常に好奇心を働かせて生き生きと人生を歩んでいける、そんなウェルビーイング中心の生き方について学べる素敵な場所として学校が機能するように学校教育を前進させていけたら、教師という職業に対する世の中の考え方も変わることでしょう。教員としての私の希望ですが、「楽しそうだからやってみよう」となって仕事への人気が出るのではないかと思います。


 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回はAI化の中で美術教育が果たす役割について私見を綴ってみました。こういう文章がChatGPTで生成されるとは考えたくないのですが、最後にChatGPTと会話をして様子を伺ってみました。



 やはり教科書通りのような意見を出してくれます。私の文章よりも端的で分かりやすく説明してくれるのもさすがです。ブログの書き方も考えていかなければいけませんね(苦笑)

 ただ文章を書くだけだともはやAIとは争いようがないので、現実世界に生きている私はただひたすらに学校や教育を前進させていくために「実践」を重ねていきたいと思います。その報告をこのブログを通して行っていくことがその意義と言えます。

 というわけで、今後も良い報告ができるように、日々実践を積み上げていきたいと思います。

 それではまた!

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