段ボールパネルでステンシル版画の試し塗りを共有

 今回は以前に紹介した「段ボールパネルで造形遊び」に続く内容です。

 私が担当する中学2年生の美術では、ステンシルを活用した年賀状デザインに取り組みました。ステンシル版画の魅力はスポンジやスパッタリングで自由度の高い色彩表現が可能で、版の枚数を増やしたり、組み合わせを変えたりして様々な作品を実験しながら制作できるところにあると考えています。

 そんなステンシル版画の特性を生かして年賀状をデザインする授業をこれまで取り組んできました。切り絵と版画を同時に楽しめる教材ということで、これまでにも生徒はとても魅力的な作品を制作してきていました。ただ、たくさんの作品が短時間で制作できる版画の特性を生かせず、作品の枚数が1〜2枚の生徒が多く、その原因は最初の着彩から「失敗しないように」丁寧に作業をしすぎてしまっていたことにあったと考えています。折角着彩の要領を得ても、時間に余裕がなくなってしまい、配色や構成のアレンジで遊んで楽しむだけの余裕がない生徒が少なくなく、私としては折角の版画を楽しむ機会が生かせず、勿体無いと感じていました。

 普段から失敗に対してポジティブなマインドセットをもてるように授業をしていますし、生徒もそのことはよく理解してくれていますが、それでもいざ頑張って切り抜いた版を使って版画を着彩するとなると、最初の作品から失敗しないように慎重な作業と保守的な配色になってしまう傾向があります。

 このような状況から、本番に向けたウォーミングアップの機会を設け、ある程度の経験値を基に安心感のある状態で版画を制作してもらえるように手立てが必要であると考え、展覧会で使った段ボールパネルに試し塗りできるようにしました。


ステンシル版画の方法を学びつつ他者の表現にも触れる機会


 段ボールパネルに自由にステンシル版画の着彩を練習できるようにしたことで、生徒は積極的に様々な方法で着彩したり、配色をアレンジしたり、他者のステンシル版と合体させて構成遊びしたりするなど、数多くの実験的な試みが生まれました。本番の紙に着彩する時よりも安心して取り組めるため、手が活発に動き、その中でたくさんの発見をしている姿を確認することができました。

 こうして多くの生徒が段ボールパネルで練習していると、たくさんの実験的な版画が生まれていきます。美術の授業では鑑賞と制作が結びつくことで学習が好循環していくので、普段からこのバランスは意識して授業をしていますが、段ボールパネルの場所で取り組んでいると、自動的に鑑賞と制作の学びのサイクルが回り始め、アクティブラーニングが実現していきます。

 授業の最後には振り返りの時間を設けており、自分の制作だけでなく、他者の制作で魅力を感じたものも写真に撮り、Googleスライドに記録するようにしています。ずっと一人で制作をしていて他者の制作に触れる時間がほとんどない状態だと、友達の作品を見に行って撮影するという感じで狭い世界での鑑賞になりがちですが、これだけたくさんの表現に触れる機会があれば友達かどうかに関わらず、純粋に良いものに目が止まり、それを撮影して新たな気づきに繋げることも容易になります。


協働的な学びが楽にできる環境を用意する


 この写真は昔ブリュッセルに観光に行った時に大変印象に残ったスケボー広場の落描きです。この時は一人旅で街の中を自由に散策していて、ベルギーの首都を満喫していました。ブリュッセルといえばグラン=プラスが有名で、この世界遺産となっている広場の美しさには惚れ惚れしましたが、それ以上にインパクトがあったのがこの広場です。

 好き嫌いはあるかもしれませんが、この広場に描かれている落描きからはアートのエネルギーが迸っていました。全体的にカオスな印象で描かれているものも文字に関するものが多いですが、色と線、形と構成に対するアレンジの試みが爆発的に行われています。これだけたくさんの落描きがあれば誰でも安心して描くことができることでしょう。この落描きに対する社会的イメージの良し悪しは置いておいて、造形遊び、造形学習の観点から考えると、このような環境は美術教育において重要なヒントがあるのではないかと思います。

 実は段ボールパネルを自由な創造の場として用意したのは、ブリュッセルでこの広場を見た時のインパクトが背景にあります。当時は今のように協働的な学びという言葉を強く意識して美術教育をしていたわけではありませんでしたが、この広場の落描きとの出会いは協働的な学びについて考える上での重要な経験になりました。



 ブリュッセルは世界遺産のグラン=プラスだけでなく、街の中にたくさんのパブリックアートがあり、そもそも住民のアートへの意識はかなり高いと考えられます。ヨーロッパの主要な都市は大体どこもアートの雰囲気が漂っていますが、そういうアートが空気のように当たり前にある環境も美術教育を考える上で大切だと思います。美術室の環境をさらにアート感の漂う場所に進化させ、協働的な学びが促進される機会の充実を今後さらに加速させていきたいと思います。



 最後まで読んでくださってありがとうございました。今回は段ボールパネルでステンシル版画の試し塗りを共有することから見えてきた学びと造形の可能性について説明させていただきました。

 子どもたちが自由に遊びながら絵を描いたり色を塗ったりするだけでなく、他者と造形的なコミュニケーションができる場所があるというのは造形教育をする上でとても大切な視点であると考えています。もし、使っていない段ボールパネルが眠っているのであれば、積極的に活用してみてほしいです。

 これからも様々な実践に取り組み、共有する価値があると思ったものについては記事を書いていこうと思いますので、どうぞこれからもよろしくお願いします。

 それではまた! 

 

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